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終焉への反抗者《レジスタンス》Ⅱ  作者: 獅子王将
おてんば娘な後輩
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第4話『魔導実技試験』

その後の身体能力テストの記録は、恐ろしい程に接戦だった。

主に空と紫闇が。


例えば、100メートル走。


「タイム、4秒2」

「タイム、4秒4」


「ぐぬぬ……」

「いや、勝ってんじゃん」


さらに、立ち幅跳び。


「6.05メートル」

「5.98メートル」


「ぐぬぬぬぬ……!」

「だから勝ってんじゃん」


……その他諸々、二人の間に、大きな差は出ることが無く、そしてその度に悔しそうな顔をする空に、陸がツッコミを入れるのだった。




「ほんとなんなのよあいつ!」


子供っぽく地団駄を踏んで、苛立ちを露わにする空。だが、空はともかく紫闇にも普通に記録負けしている陸と海には、あまりわからない感覚だった。

確かに、負けても特に気にした様子もない紫闇の様子は、空みたいにプライドが高いと悔しいのかもしれないが。


「そう言うなよ。殆ど勝ってたじゃねーか」

「それに次は、魔導実技だから、多分編入組は程々の成績になると思うよ?」

「まあ、それはそうだけど……」


学生魔導師の身体能力テストには、最後に魔導実技というものがある。

倒すにつれてレベルが上がっていく機械人形オートマタを、どのレベルまで倒せるか、というものである。

最低ノルマは50レベル程だが、そこから難易度が格段に上がっていく。機械人形オートマタの動きに、バリエーションが増えていくからだ。

どれだけ優秀であろうと、最高レベルである200レベルに達する生徒は、1年生の段階では、一人二人いればかなりいいほうなのである。


そして勿論、星宮兄妹は最高の200レベルを目指していた。


だが、この試験は見たこともなく、噂で聞いた程度しか知らない。空たちにとっても未知の試験なのだ。

加えて、噂で聞いた限りでは、相当難易度が高く、特にレベルが100を超えたあたりからは徐々に鬼畜仕様になっていくという。


「去年の1年生で最高レベルクリアしたのって誰だっけ?」

「確か……、風間先輩と東先輩くらいじゃなかったかな?」

「鬼嶋先輩たちもかなりいい線いってたみたいよ」

「今の2年生、十席トップまんまだな」


少し表情を強ばらせて陸がボヤく。

つまり、去年の彼らほどの実力があれば、目標達成は適うだろう。

単純な実力だけでいえば、同列の〈鬼嶋家〉の2人がいいところまで行っていると言うのなら、〈星宮家〉の3人もいい所まで行けるだろう。

だが、先輩である彼女らは、〈鬼嶋家〉の中でも歴代最高の実力を誇っていると噂だ。同じく〈星宮家〉の天才である空ならまだしも、陸と海は特別凄い訳では無い。

陸は、自分たちが本当にどこまで行けるのか、少し不安を覚えていた。


すると、強烈に背中を叩かれる衝撃で、陸は思わず声を上げる。


「イッテェ!」

「まったく、何弱気になってんのよ。そんなんじゃ記録狙えないわよ」

「そうだね。確かに不安もあるけど、出来ることを頑張るだけだよ」

「……だよな」


らしくもなく弱気になっていた自分を少し恥じながら、陸はボジティブに意識を切り替える。

昨年も、150レベルすら超えられなかったものがほとんどだという。ならば、そこを最低ラインとして、さらに高みを目指すだけである。


「よし、じゃあまずやってみたいというやつは手を挙げろ」

「……じゃあ、行くわよ!」

「おう」

「うん」


空の合図と共に、陸と海は頷き、三人同時に手を挙げる。

それを見た生徒達は、少し驚いていたが、教師の方はまるで、予想通りといった雰囲気であった。


「よし、じゃあ行け。特別に3人同時に見てやろう。ルールは忘れてないな?」

「問題ありません」

「よし」


空たちは、指定された場所に立つ。

カウントダウンが進み、試験開始の合図が響くと、空たちの前には、マネキンのようなものが現れた。


これが、この試験で倒す相手。標的である。


「はっ!」

「オラッ!」

「はぁっ!」


そして3人は、ほぼ同時にこれを撃破した。

だが、別に驚くほどのことではない。これくらいは当然だと、理解していたからだ。……進級組は。


初めて見る本格的な戦闘に、まだ序盤でありながら、編入組は驚いていた。

そこには勿論、晃も紫闇も含まれていた。


だが、目の前の光景は、編入組の生徒達を待ってくれはしなかった。

機械人形オートマタが消滅して数秒後、新たな機械人形オートマタが出現する。

そして変わらず、速攻で撃退する空たち。今のところ、3人の実力に差はない。


「どんどん行くわよ!」


「__なるほど、後々に備えて魔力は温存か。武闘派ではないとはいえ、さすが〈星宮家〉の次期当主。多少は武術の心得もあるらしい」

「それに、陸と海も、あの二人は養子だから、〈星宮家〉の血筋としての強さは無いはずだけど、そうとうな実力ね。少なくとも、同学年ではほぼ敵無しでしょうよ」


次々と機械人形オートマタを撃破していく3人を見ながらそんな話をしているのは、監督役に選ばれた一人の教師と学園長だった。

そして、相手が学園長にも拘らず、教師の態度は友人と話しているような気さくな雰囲気を感じさせていた。


実際、二人の関係はそんなようなものなのだが。


「悪かったわね、綾。面倒な監督役なんて押し付けて」

「構わないさ。これはこれで、見ていて退屈しないしな。特に、あいつらみたいな優秀な生徒を見ているのは」


学園長と話している教師__美空綾(みそらあや)は、学生時代の柚葉と、現在は自警団に所属している赤丸美玲あかまるみれいとの3人で小隊を組んでいた。

ある一件で、魔導師としての人生は閉ざされてしまったのだが。


「それにしても……、今年の1年も相当な成績ね」

「それには私も驚かされたさ。まあ、〈星宮家〉の成績はわからんでもないが」


ここまでの身体能力テストの結果を見て、柚葉が感慨深く呟く。


〈星宮家〉3人の成績は、綾の言葉通り、予想されていたものだった。精々、予想より若干上かという程度。

だが、驚くべき要素は別の生徒にあった。

特に抜きん出た生徒は、編入組の晃と紫闇。この2人の成績から、単純な身体能力だけなら、〈星宮家〉の3人にも匹敵する程なのだ。

それに、今年は御白猛の妹、真尋もいる。

勿論、真尋に関してはそこまで大きな期待を寄せている訳では無い。

当たり前だ。回復してまだ4ヶ月くらいで、今もまだリハビリ中の彼女が、そこまで大きな成績を残せるはずもない。

だが、彼女の身体能力テストの結果は、予想を超えて悪くなかった。もしかしたら、この試験もそれなりの成績を出せるのではと、柚葉も期待を抱いているのだ。


「それで、どう? 綾の目から見て、空たちは最高レベルをクリアできそう?」

「……いや、無理だな」


少し考えるような様子を見せると、首を横に振ってため息をつく。


この試験の、最も困難な点。それは、相手の攻撃が体を掠めただけでも試験は終了する、というものだ。

魔族には少ないが、爪などに毒を持っている魔物は割と多い。そして中には、掠めただけでも魔導師でさえ死に至らしめるほどの猛毒を持っていたりもする。

だからこれは、単に実力を見るための試験ではない。


いかに相手の攻撃を受けることなく、強い相手を倒せるか。


この試験で見られているのは、その点であった。


空が50レベルに到達すると、周囲で少し声が上がる。そして空に続くように、海、陸と、難なく50レベルを超えていく。

それと同時に、3人は〈肉体強化魔法〉で己を強化していた。今までは、大した強化も使わず、ただ魔力を込めただけの拳や蹴りを決め手としていたが、強化魔法を使った事で、一時的にレベルが上昇する速度が上がる。


すると、機械人形オートマタの状態に変化が訪れる。

その変化は、元々50レベルを超えると、ランダムに現れるようになる。そしてたまたま、空が最初のそれを引き当てたのである


「むっ……」


空は、機械人形オートマタの行方を追って、視線をあげた。

そう。機械人形オートマタが出現したのは天井。空を飛んでいるのである。


だが、空は慌てること無く、魔術の行使へと移った。


(本当はまだ使うつもり無かったけど、特別に見せてあげようかしらね)


スっと、前に手を出すと、一瞬だけ、世界が光を失った。

それに気がついた生徒達は、だがそれが、魔術の発動の前兆だとは気づかなかったものが多いようだ。

だが、もちろん気がついた生徒もいる。そして、綾と柚葉は当然気がついていた。


「へぇ……、面白い魔術を使うわね」

「あの手にあるのは、光のエネルギーと言ったところか」


綾の言う通り、今、空の手には、光り輝き蠢く塊があった。

これは、彼女が独自で生み出した魔術で、〈クリティカル・レイ〉という。自身を中心として、半径30メートルほどの範囲の光を瞬時に凝縮し、そして__


「フッ!」


光の塊を投げ飛ばした。だがそれは、およそ投げ飛ばしたなどという速さではなかった。

正しく光の速度。

空の手から離れたそれは、一瞬で機械人形オートマタを撃ち抜いた。


その威力を目の当たりにして、驚きどよめく生徒たち。だが、綾も柚葉も、魔術に少し驚きながらも、その弱点を見抜いていた。


「なかなか凄いじゃない」

「そうだな。威力は足りていないようだが、そもそもやっている事はそこまで複雑ではないしな。そこまで高威力が出る訳では無いんだろう」


確かに空の魔術は、超高速で鋭い。だが、実のところ威力は高くないのだ。それこそ、障壁を張れば防げてしまう程度には。


「確実に命中させることを目的にした技か。まあそれも、あいつの命中精度が成せるものなのだろうが」


少なくとも、まだレベルを50超えたばかりの難易度では、空の魔術は大きなアドバンテージがある。威力は高くない分、消耗は抑えられるのだから。


そして今度は、陸や海の前にも、空を飛ぶ機械人形オートマタが出現する。

勿論2人とも、慌てることは無かった。

陸が地面に屈んで手を着くと、地面がひび割れて、幾つかの岩石が宙に浮く。それらは陸の操作によって機械人形オートマタを襲い、撃墜した。

海は、少し集中して魔力を収縮させる。空がやったことに近いが、それとは違う。周囲の魔力を集束させる空のものとは違い、これは自分自身の魔力だ。


「これは……、〈水球〉?」

「それにしては、かなり小さいな。失敗か?」


水属性の基礎魔術の1つ、〈水球〉。それ自体は、基礎魔術という事もあって、何も驚くことは無い。だが、その大きさは、一般的なものに比べてかなり小さかったのだ。

だが、生成された数はかなりのものだった。周囲に、無数に散らばる小さな〈水球〉は、海の手によって銃弾のように飛ばされる。


水というのは、勢い次第で鉄を断つ事も穿つことも可能だ。海が放った、〈水球〉……、と言うよりは〈水弾〉と言うべき魔術は、いとも容易く、機械人形オートマタを蜂の巣にしてしまった。


「へぇ……!」

「中々器用な真似をするな」


これには、柚葉と綾も、素直に感心していた。

まさかこの歳の魔導師が、ここまで上手く、基礎魔術を応用して使いこなすとは思っていなかったのだ。


空たち3人は、そのまま力を温存しながらレベルを上げていく。

そして遂に100を超え、しばらくしたところで、彼らは気づく。


「……これって」

「次のが出てくるまでの時間、短くなってるか?」


そう。今までのレベルでは、機械人形オートマタを倒してから、次が現れるまでに、約5秒ほどの時間があった。その間が、徐々に短くなっているのだ。

すると当然、手数が間に合わなくなってくる。

温存、と言っても、それは余力という意味であって、何か手を隠している訳ではない。

特に陸と海は、既に全力を尽くして戦い続けていた。


そして遂に、レベル150を超える。

生徒達からは驚きと感嘆の声が上がる。

だが、その後少し時間が経つと、遂に機械人形オートマタの鋭い攻撃が、陸や海を捉える。


「はやっ……!」

「これはちょっと、やらかしちゃったなぁ……」


『星宮陸、レベル154。星宮海、レベル155』


掠めるどころか、間違いなく直撃を受けた2人は、その時点で試験は終了。残るは空のみとなった。


(2人とも、終わっちゃったとはいえレベル150は越えたみたいね。よくやったわ)


あとは自分が、と思った矢先で、驚愕が空を襲う。

もはや次の機械人形オートマタが現れるまでのタイムラグは無いに等しいが、一対一なら問題ない。

そう思っていた空の背後から、不意に気配が発生して、咄嗟に身を屈めた。

すると、頭上を横薙に通過していく刃が確認できた。


「危なっ……、ていうか」

『2体!?』


そばで見ていた陸と海が、驚いように声を上げる。


これが、この試験最後の難関。

このレベルまで来ると、機械人形オートマタのレベルもかなり高い。そしてそれが、ランダムで2体現れるようになる。

勿論、レベルが上がれば上がるほど、その確率は高くなり、190を超えた辺りで、もう2体出るのは当たり前。運が悪いと、3体現れることもあるそうだ。


「このっ……!」


風属性の魔術を利用しながら、合間合間で得意な〈クリティカル・レイ〉を用いて、何とか粘る空。

だが、レベル180を目前にした時。


「よし、このまま__」


『星宮空、レベル178。試験終了です』


「はっ!?」


攻撃を受けた覚えがなかったにも拘らず、急に試験が終わった事に戸惑う空。

そして、頭に血が上っていたから彼女は気が付かなかった。

躱しきれなかった攻撃が、自分の足を掠めていたことに__。

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