表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
43/45

第17話『襲撃者の正体』

莉緒と柚葉が、大慌てでリンの病室に駆け込んできた後、二人と同じくリンの見舞いに来ていた残りのメンバーも、足早に病室を訪れていた。


ちなみにもう、病院内は彼らだけでなく、色んな人の慌てた足音で溢れていた。

時には、パニックにでも陥ったのか、絶叫が聞こえたりもする。


そんな中、慌てて病室に駆け込んできたにも拘わらず、全員が揃うと落ち着いた様子で、柚葉は話し出す。


「緊急事態よ」

「いやそれはもうわかったっての」


わかり切っていることを改めて口にする柚葉に、将真が呆れたようにツッコミを入れる。

その反応に対して不満げな表情を見せた柚葉だったが、すぐに切り替えてまず、画面を巨大化させたホログラムウインドウを開く。


そこに移されていたのは、〈日本都市〉の西側ゲートの現状。

城壁は崩壊し、そこから侵入してくるのは魔族たち。数だけなら見た感じ、そう多い訳では無い。だが、おそらく大半が吸血鬼だ。


「見ての通りよ。城壁が突破された」

「しかも、壊して……」

「……でもなんでだ?」


呆然と呟く佳奈恵の隣で、腑に落ちないというように疑問符をうかべる猛。


「なんでって?」

「確か結界は、相当硬いはずだろ? それこそ、高位魔族の攻撃にも十分に耐えうるくらいだったんじゃないのか?」


猛の疑問は尤もであり、皆も感じていたところであった。

それは、学生時代に学ぶ、極当たり前の常識だったのだから。きっと何も知らなければ、自警団員ですら疑問に思ったに違いない。


だが、柚葉は首を横に振った。

そしてそれは、今まで学び、教えてきた常識を否定するものでも、結界の頑丈さを否定するものではなく。


「結界を壊したのは、吸血鬼じゃないわ」

「……え、違うのか?」


高位魔族の攻撃にすら耐えるう結界を破壊した、未知の存在。

その危険性を想像してしまい、思わず鳥肌が浮き出るものすらいた。


柚葉は少し逡巡していたが、やがて意を決したようにウインドウに向き直り、画面を操作する。

そうして映し出されたのは、結界を破壊した、一人の少女だった。


将真が魔王の力を使っている時にも似た、長い黒衣。

夜闇でわかりづらいが、肌は褐色、恐らくは純粋な黒髪。そして、黒の双眸には、真っ赤な瞳。

何より驚いたのは、その容姿だ。

所々違えど、顔立ちや体格は間違いなく__


「……リンと瓜二つじゃないか」


体の色素が丁度、今のリンを反転させたような、黒いリン。

彼女が、結界を砕き、城壁を崩壊させた張本人。


「な、なんでリンがもう一人いるのよ……?」

「そりゃなんでって……、取られたって言ってたリンの力じゃないのか?」

「アレが?」


杏果の疑問に答えた響弥だが、その回答に杏果は納得出来ないようで、画面越しに見る彼女を指さしながら、改めて響弥に問う。


「力が実体化したっていうの? そんなことが可能なの? だとしたら、どうやって?」

「…………え? やれるんじゃねーの?」

「だから、その方法を聞いてるんじゃない」

「いや、知らねーけど、できるんじゃねーの?」


どうやら、特に確信めいたものがあるわけでもなく、適当に言っていただけのようだった。

思わず呆れてため息をつくが、響弥の予想外の発言は、予想外の人物に肯定されることになる。


「いや、考え方を変えれば、可能かもしれない」

「……考え方?」

「そう。考え方だよ」


そう言って肯定したのは、遥樹であった。

全員の視線が集まる中、遥樹は緊急事態ということで持ち出した魔導器〈擬似聖剣カリバーン〉の柄に手を添えた。


「ここにいるみんなは一応、〈武器生成魔法〉は使えるよね?」

「そりゃ勿論」


簡単ではないが、基礎魔法の一つだ。

程々の魔力コントロールと、明確なイメージから生み出される、魔力で作られた武器。

それ故に、武器をわざわざ持ち歩く必要がなく、いつでも好きな時に、イメージした武器を幾らでも作り出すことが出来る。勿論、魔力が続く限りではあるが。


そして、便利な反面、この魔法にはデメリットもある。

どうしても脆さが目立つ点。

いかに明確なイメージあろうとも、強度を左右するのは魔力の強さであるという点。


そもそも魔力の強さとは、魔力の質と量を総じて言うものである。

同じ魔術や魔法を使っても、その威力や効果は人によって違ってくる。これが魔力の質と言うもので、質がよければその分、より多くの種類の魔術や魔法が使えたりもする。

魔力の量は言うまでもないことではあるのだが、同じ魔術や魔法であっても、やはり使用回数には限度がある。この回数が多いものほど、魔力量が多いという訳だ。


つまり、『多種に渡る魔術や魔法を、高い効力で発揮できて、尚且つ連発が可能』。これが、『魔力の強い』魔導師の定義である。


そして、この定義に当てはまらない魔導師や学生は少なくない。

更には、魔法との相性が悪く、中々〈武器生成魔法〉を使えないものも、ゼロではない。


そういう時に便利なのが、遥樹も持っている魔導器である。

魔導器は魔道具とは違い、基本的な形はただの球体である。

魔物や魔族から取れた魔石を加工し作られるその球体は、魔導器の核だ。

そして、剣ならば剣、槍ならば槍といったように、使い手に合った武器を生成するための術式が刻印されている。

魔力を流し込むだけで容易く使える、そんな便利アイテム。


「勿論、僕も使える。だけど、魔導器はただ、〈武器生成魔法〉を容易く使えるようにするためだけのものでは無いんだよ」

「ってことは、他にも用途があるのか?」

「うーん……、と言うよりは、本来はそんな単純な効果では無いんだ」


魔導器の本来の効果は、使用者の魔法使用をサポートすること。イメージを補強し、確実な術式で、きちんとした形で発動できるように。

そして、核が壊されなければ、通常の〈武器生成魔法〉よりも強固だ。

ましてや遥樹のように、核だけでなく、魔力ではなく本物の質量を持つ剣であれば。


遥樹が魔導器を持ち歩く理由はつまり、イメージの補強と、武器の耐久性だ。

特に遥樹の場合は、素のままの人間では扱えないとされている、〈聖属性〉の魔力の使い手だ。いくら優秀な〈風間家〉の魔導師といっても、普段はランクダウンした、〈光属性〉としてしか使用できない。

だが、遥樹にはどうしても神技が必要だったのだ。アーサー王伝説で有名な、〈聖剣エクスカリバー〉の力が。


その暴力的なまでの力を制御し、使いこなす為の魔導器〈擬似聖剣カリバーン〉である。


「で、結局何が言いたいの?」


杏果の疑問は尤もであるが、聡いものにはもう、察しがついていた。


「悪気がある訳では無いから、落ち着いて聞いて貰えるかな?」

「え? ……まあ、分かったわよ」

「……黒い球体で、リンは力を根こそぎ奪われたんだろう?」

「えっ。わ、私はそんなに覚えてないんだけど……」

「確かにこの目で見たっすよ。将真さんと一緒に」


リンの代わりに、莉緒が証言をして、将真も頷いて肯定する。

すると、神妙な面持ちで、遥樹は少し間を開けて口を開く。


「……仮にあの黒いリンを魔導器と例えよう。そしてその核は、リンの力を奪ったという黒い球体」

「……おい、まさか」

「勿論、彼女は武器ではないけれど、見方によっては一種の武器……、というか、生体兵器だ。人体を生成するのは非常に難しいと思うけど、リンが魔人で、抜き取られた力がその大元であるのなら、実体化できる力はあると思う。さらに、術者が余程の天才であれば或いは……」

「……実体化は、可能だって言うのか……?」


現実味のない話だが、それはおそらく、自分たちではできない芸当だからだろう。

遥樹の推測はあくまで可能性だが、話を聞いてしまった今は、それが妙にしっくりきていて、おそらく正解なのだろうと思う。


「とにかく、遥樹の予想通りなら、魔人の力ほぼそのままの、もう一人のリンが敵ってわけ」

「しかも、城壁ごと結界を壊したってなりゃ、相当やべぇな戦闘力が……」

「ええ、そうよ。それも、たった一撃でヒビを入れて、間髪入れずたったの二撃目で、だからね」

『たったの二回で!?』


冗談のような柚葉の告白に、流石に驚きを隠せず声を揃える生徒たち。

今の話が本当ならば、自警団のトップにすら劣らないような、化け物じみた攻撃力を有していることになる。

まともに接触し、受けに回ったものなら、生徒どころか、自警団の魔導師ですら、命の保証はないだろう。


だが、彼女の脅威を知ったところで、事態が悪化していく現状、ここでじっとしている訳にも行かない。


「一応、みんなにも動いてもらうわよ。戦闘を強制するつもりは無いから、避難誘導でも構わないわ。ただ、どちらにせよ、今の都市内は有害な魔素が流れ込んできている状態だから、各自で都市の外に出る時と同じように対策しなさい」

「分かってますよ」

「勿論、俺達も戦うぜ!」


杏果が柚葉に理解を示すと、掌に拳を叩きつけて、響弥がにっと笑みを浮かべる。

どうやら、ここに集まっている生徒達の意思は、響弥と同じく、戦うつもりでいるらしい。


それに関しては、柚葉としてもありがたい話であった。

何せ、学生魔導師でありながら、彼らほど吸血鬼を相手取った経験のある生徒はいないだろうから。その経験を経た過程が、幸か不幸かはともかくとして。


だが、学園長としてもそうだが、一家族として、柚葉には許容しかねるところがあった。


「将真、あとリンも。あんた達は避難しなさい」

「はっ……!?」

「え……」


やはり参戦するつもりだったらしい二人に、思わず柚葉は嘆息した。


「リン、あなた今、まともに戦えるような状態じゃないでしょう。出ていっても、死にに行くようなものよ」

「そ、それは……、そうですけど……」

「俺は別にいいだろ!?」

「ダメよ!」


戦うことを許可されなかったことに納得いかず、声を荒らげた将真だったが、予想外に強い拒絶を浴びせられて、思わず言葉を詰まらせる。


「あんた、昨日〈魔王〉の力を暴走させかけたみたいじゃない」

「それがどうしたって言うんだよ!」

「その力が、どれだけ体に負担かけてるかって、自覚してるの!? 加えて暴走しかけてたんじゃ、侵食をどんどん早めていくだけよ! タダでさえ解決策が見つけられない状態なんだから、少しは周りの心配も考えて、大人しくしてなさい!」

「う、ぐ……」


何とか反論したい所だったが、普通に論破されてしまい、何も言い返せなかった。

将真が大人しくなったところを見ると、柚葉は少しだけ行きをつく。


「わかったら、ちゃんと避難しなさいよ。リンを連れてね」

「…………わかった」


少し長めの沈黙の末に、将真は渋々了解を口にした。

言質を取れたことで一安心した柚葉は、改めて遥樹たちを連れながら指示を出す。


そうして、病室で二人だけになってから、どれくらいの時間がたっただろうか。

呆然として、ベットに座り込み動けない将真に、不意にリンが囁きかける。


「ねえ、将真くん。私たちも、やっぱり行かない?」

「……無理だよ」


そんな将真の返答に、リンは正直驚いていた。

何だかんだで、動くだろうと思っていたからだ。

だが、将真も馬鹿ではないし、考えなしではなかった。


「〈魔王〉の侵食が進んでるなんて、言われるまでもなく自覚してるよ。それでも別に、俺一人の問題ならいいけどさ……、俺一人の、問題じゃ済まないんだよなぁ……」


特に柚葉は、大切な人を失っている。

将真と同じく、〈魔王〉の宿主となり、力を暴走させ、呑まれそうになってしまった、大事な恋人を。

そして柚葉は、彼を殺した。

それが、〈魔王〉に呑まれかけの、朧気な意識の中で最後に、その人が望んだことだったから。


「これ以上、柚姉に同じ思いをさせたり、無駄な心配かけられるほど、俺は非情にはなれない」

「……そっか。そうだよね」


将真の考えを聞くと、リンは少し落ち込むように声を落とす。

だが、諦めたのかと将真が思ったのもつかの間、リンはベッドから出て立ち上がる。


「……リン?」

「だったら、私一人でもいくよ」

「なっ……」


いつもだったら、こういう無茶を言うのも、実行するのも、将真だっただろう。

リンも無茶をする方だったが、将真に比べれば、もう少し考えて動いていたはずだ。

そんな彼女の方から、無茶な発言が出るとは思わなかったのだ。


「将真くんを無理につきあわせることはできないけど、これは、私の問題でもあるから」

「いや、だとしても戦えないだろ! 大丈夫だよ、任せておけばなんとか……!」

「確かに、戦うのは難しいよ。でも、このまま、逃げ続けたくない」


そう言うとリンは、将真に向かって微笑みかけた。


ボク(・・)は、自分と向き合うよ」

「…………」

「ボクが、力とられちゃったのも、原因だしね」


リンは少し、バツの悪そうな苦笑をうかべる。

そんな彼女を見た将真は、何も言えずに俯いていた。


「それじゃあ、行ってくるね__」

「待て」

「……将真くん?」


自分と向き合う。その目的を果たすために病室を出ようとしたリンは、将真の静止に振り返って首を傾げる。

将真はと言うと、引き止めたものの、煮え切らない様子で考え込んだり頭を掻いたりしていた。


「えっと……」

「…………あぁ、くそっ。後でこっぴどく叱られそうだな」

「って事は……」


ため息とともに吐き出したその言葉に、リンは表情を明るくした。

将真は立ちあがり、腰に手を当てて苦笑を向ける。


「リン一人に行かせるわけには行かないしな。仕方ないし、俺も行くよ」

「……うん、ありがとう! ……って、あれ?」


将真は、笑顔を見せるリンの後ろへと回り込む。リンはどうやら、将真が何をしようとしているのか、検討がつかないようだ。

そんなリンを尻目に、背後へ回り込むと、将真はリンを抱えあげた。

いわゆる、お姫様抱っこである。


「はぅわっ……!?」

「今のお前の足じゃ多分、時間かかるしな。悪いけど、抱えていくぞ」

「へっ、あっ、は、はい。お願いします……」


あまりに急だったために、驚きと羞恥を隠せないでいるリン。


そして将真は、そんなリンに構うこと無く床を蹴って、窓を蹴破り夜の街へと飛び出して行った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ