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第14話『リンの過去』

翌日の、朝とも昼とも言えないような、そんな時間。

将真と莉緒は、柚葉の招集に応じて、リンの病室まで来ていた。

柚葉は一番初めに来ていて、リンの傍らでその様子を見守っていた。


そして、他にも招集を受けた面々が、順々に到着してくる。

〈第一中隊〉のメンバー。たまたま居合わせ、遥樹が〈四大貴族〉の一員ということもあって呼ばれた〈遥樹小隊〉。そして最後に来たのは、三年生の最強の小隊〈榛名小隊〉であった。


彼女たちに関しては学年が違うものの、特に榛名には、非常に関係のある話なのだ。


「私まで呼び出して、なんの用事ですかー?」

「そう言わないで、一応あなたには関係のある話よ」


柚葉にそう言われ、榛名は小さくため息をついてそれきり口を開かない。

すると入れ替わるように、今度は将真が柚葉に問いかける。


「なぁ、柚姉。わざわざこんなに呼びつけて、何を話そうとしてたのか、そろそろ聞いてもいいか?」

「もちろん。全員揃ったし、直ぐに話はするつもりだったし」


とはいえ、わざわざリンの病室で話そうというのだから、その内容もある程度の予想はつく。


「今のリンの状態を説明したいんだけど、その為には、この子の昔にも触れていかなくちゃいけないから、特に関わりの深いあなた達を呼びつけたのよ」


〈遥樹小隊〉と〈榛名小隊〉は、その点についてはそこまで強い関連性はない。

だが、遥樹と榛名は〈四大貴族〉の次期当主だ。

特に榛名は、〈時雨家〉の次期当主なのだから。


「……わかりました。聞かせてもらってもいいっすか、リンさんの、過去について」

「ええ。と言っても、私だって、そこまで詳しく知ってるわけじゃないんだけどね__」


そうして柚葉は、自分の知る限りにおける、リンの昔話を始めた。




「リンの名字から、察しがいい人は気づいていると思うけど、この子は〈時雨家〉の血筋なのよ」

「やっぱり……」


そう呟いて、榛名が嘆息する。

そこに一体どんな意味があるのか、それは分からないが。


「リンの母親が〈時雨家〉の血筋で、父親は婿入りしてきた人だった__」


だが、二人とも魔導師としては非常に平凡で、元々高度な戦闘能力を持っている訳では無い〈時雨家〉にしても、そこまで優秀ではなかった。

それでも、二人は〈時雨家〉に期待されていた人材なのだそうだ。


なぜなら、研究者として、非常に優秀であったからだ。

それこそ、〈花橘家〉や出雲華蓮に並ぶほどに。


「当時の技術や研究面においては、現在の〈花橘家〉と華蓮さんに加えての、三つの大きな柱だった。それくらいに、二人の影響は大きかったみたいね」


だがある時、二人は〈時雨家〉を抜けて、〈表世界〉で生活したいと言い出した。

もちろん、〈時雨家〉としては手放せない人材。認可されないのは当然の帰結であった。

だが、それでも二人は半ば強行で〈日本都市〉を抜け出し、〈表世界〉での生活を始めた。


そう迄して、彼らが〈表世界〉での生活を望んだ理由。

それは__


「……なんで私の方を見るんですか?」

「その理由について、わかるかどうかを聞いてみたくってね」


柚葉のわかりやすい振りに、榛名は嫌そうな表情を浮かべる。

それも仕方の無いことであった。何せ彼女は、その二人の行動を、〈時雨家〉に対する裏切りを、許せないでいるのだから。


まあ、あの二人が何を望んだか。それは知っているのだが。


「……リンの命が、母親のお腹に宿ったから、だったと思う」

「……正解よ」


リンの両親は、お腹の中に子供が出来たことがわかると、殺伐としたこの世界で、魔導師として我が子を育てることを良しとしなかった。

そしてそれは、父親も同じ考えであった。


どれだけ魔導師が、死に物狂いで戦い続けたとして、〈魔王軍〉に勝利できる確率は極めて低い。全世界に今を生きる魔導師たち全てが協力しても、非常に困難だ。

故に、優秀であろうとなかろうと、お腹に宿った子供が将来的に、戦争に駆り出されることは間違いない。


それを恐れた二人は、せめて自分の子供だけは平和な環境で生きて欲しいと願い、〈表世界〉へと逃げ込んだ。

それが、〈時雨家〉を含めた全魔導師たちに対する、裏切りだったとしても。


そうして日は流れ、〈表世界〉では何事もなく、ついにリンが誕生した。


だがそこで、両親にとって大きな誤算が発生した。


「誤算?」

「そう。それで、あなた達に聞いておきたいことがあるんだけど……。〈魔人〉って、知ってるかしら?」

「……何だっけ?」

「〈魔人〉って言うのは、魔族と同様の魔力属性を有する魔導師のとこだよ」


将真が首を傾げていると、その後ろで話を聞いていた遥樹が落ち着いて説明する。

丁度属性的には、遥樹の〈聖属性〉とは正反対の位置づけになるのだが。

そして、遥樹のようなタイプの魔導師、いわゆる〈聖人〉と同様に、その力は非常に強力だ。

それこそ普通の魔導師では、どれだけ優秀であろうと届くことは無いと、言われるほどに常軌を逸しているのだ。


「……で、その話がなんで今出てきたのかって言うのは」

「まあ、もう聞かなくてもわかるわよね?」

「……そっか。リンは__〈魔人〉、なんですね?」


ポツリと呟いた杏果の回答に、柚葉は静かに頷いた。

この場にいる全員、将真でさえも、このタイミングで〈魔人〉の話が出た時点で、何となく気がついてはいた。


「えっマジで?」

「……」


どうやら全員ではなく、ほぼ全員、だったようだが。


ともかく、彼らの予想通り、リンは〈魔人〉として産まれた。

〈魔人〉は、突然変異か遺伝でしか生まれることは無く、リンの両親に〈魔人〉の素養は全くなかった。

つまりリンは、突然変異で誕生したのだった。予測がつかないわけである。

そして強過ぎる力を、そんなに幼い子供が制御できるはずもなく、ただ泣き叫ぶだけで、場合によっては人の鼓膜を傷つけるとこもあった。

更には、少し暴れただけで、大人が怪我をするケースもあった程だ。


そして制御できないまま数年が経ち、ようやく両親はひとつの決心に至った。


「詳しくは知らないけれど、まだ試験もしたことの無い、仮説段階の実験を試したそうよ」

「それってつまり……、リンを人体実験に使ったってことか?」

「……まあ、そういうことになるかな」


だが、彼らに悪意はない。

仮説段階とはいえ、上手く行けば、リンの魔力は制御コントロールしやすくなる。

そうすれば、例え魔力を持っていても、一般人として生きることも可能である。


「それでその実験内容だけど、これは華蓮さんが知ってたわ」


何らかの刺激を与え、人為的にもう一つの人格を作り出す。

そうして二重人格となったリンの、分離させた方の人格を型として、リンの魔力の大半__その量、約九割強を封印したのだ。

分離させた人格ごと。

何故そんな事が出来たのかは、華蓮でさえも分からないらしい。


それからは暫く安定して、制御できるようになっていったために、普通の生活を送ることも問題なく出来ていた。


だが、その封印が解けそうになったことが二度あった。


一度目は近年の〈日本都市〉において、最大の被害を出したと言われている、日比谷樹の魔王化未遂事件。

かの事件は、なんと〈表世界〉にも影響を与えていた。

かつてないほどの自然災害や事件、事故の増加。そして〈表世界〉にとってはオカルトの類、心霊現象の多発に広まっていく噂。


〈表世界〉にまでも及んだ悪影響は、後に調べるまで発覚していなかったせいで、原因は未だにわかっていない。

だが、その時の影響を、リンは酷く受けていた。

封印していた力が内側から暴れ出して、危うくリンの自我を崩壊させるところまで行った。

その時の余波で、当時彼女が暮らしていた街の近くの、小さな山だが、それが崩壊した。

一見、被害は大きいように思えるが、少なくともこの件における死者はおらず、リンの両親も彼女を抑えるために少し怪我をしたが、せいぜいその程度だった。


問題が起きたのは三年後、封印が解けかけた、二度目の事件。


三年前の事件でリンの存在に気がついた〈裏世界〉の魔導師が、リンの家族が暮らす場所を突き止めて、一家を連れ戻そうとやってきたのだ。

勿論、両親は冗談じゃないと拒絶。リンも、そこまで両親が拒絶するような場所に行きたいとは思わなかった。

尤も、両親はリンのことを思って拒絶しているのであって、そこまで〈裏世界〉を毛嫌いしているわけではなかったが。


魔導師側がどれだけ譲歩して、戻って欲しいと懇願しても、両親は断固として拒絶を続けた。

すると魔導師たちは、あろう事か、強硬手段をとったのだ。

リンの危険性も理解していた魔導師達は、自警団から序列百位以内の、相当優秀な魔導師を五人、送り出していたのだ。

そうしてまずは、嫌がるリンを無理やり連れ出す。

それを追ってきた両親を拘束し、一家をまとめて、〈裏世界〉へと強制連行したのだ。


この時はまだ、自警団団長が先代であり、彼のやり方は少々強引だったために、こういう事が起こった。

今の団長であれば、こんな強硬手段に出ることは無かっただろう。


ともあれ、一家の抵抗は虚しく、〈裏世界〉へと連れてこられてしまったリン。

だが、こちらの世界に連れられほんの1時間足らずで、リンが突然、静かになった。

ようやく諦めたのかと、魔導師たちは思い込んだが、そうではなかった。


薄暗いせいでよく分からなかったが、リンの綺麗な銀髪が、徐々に白髪へと変化して行ったかと思うと、更に黒髪へと変化しようとしていた。

ここで魔導師たちは、異常事態だと気がついたらしい。


そして、二度目の暴走が始まった。

一度目の時はまだ良かった。暴走し、小山が一つ崩壊したとはいえ、周囲に人もおらず、暴走そのものもそこまで大したものではなかった。

それが今回は、魔導師とはいえ、近くに人がいた。加えて、暴走の状態が明らかに酷かったのだ。


「暴走する三年前の件で、封印が緩んでいたのかもしれないわね。当時の団長は手段を選ばない人だったみたいだから……」


前団長は、〈花橘家〉のような外道では無いにしても、非情で強情だったのだと。

そしてそんな前団長の指示に従った魔導師たち。その行動は、まだ小さかったリンの精神に、大きな負荷をかけた。


暴走したリンは、序列百位以内に入るような実力者たちを容易く蹂躙し、殺害した。悪意もなく、殺意もなく、暴走した結果による暴威が生み出した悲劇。

ついには前団長まで動き出す結果となった。


団長が交代した理由も、この事件が原因だった。

リンを抑え込む最中、前団長ですら命を奪われた。それほどまでに、〈魔人〉後からの暴走とは、凄まじいものだったのだ。


そしてその理性も失った中。


「……リンは自分の手で、両親を殺してしまった」

「……そう、か」


リンは、仲間を家族だと言っていた。

甘やかす訳では無いが、それでも大切な仲間や友人に対して、強い執着を見せたことは、ままあった。


本当に、大切だったんだろう。

そして、きっと強い後悔があった。

当時は護るどころか、失ってしまったものだ。それも、自身の未熟さの結果で。執着するのも、無理はなかった。


暴走したリンは、現団長の手で、ようやく抑え込むことができ、数日後に目を覚ました時、自分の手で両親を殺してしまったことを、現団長から告げられた。


「その後は、現団長からリンの世話役を頼まれて、杏果に魔導の基礎を教えさせて……って、感じかしらね」

「……自分で、大事な両親殺したって知った時、やっぱり辛かったんだろうな」

「……そうっすね」


思えば、今のリンの不調はおそらく、暴走の前触れだったのだ。

一年ほど前。将真が〈魔王〉として認識され、排除されると思い込んだリンは、将真を助けるために、無理に力を解放した。


あの時から、リンの不調は始まって、徐々に酷くなって行った。


無理矢理、封印をこじ開けようとしたのだ。

閉じていた蓋が僅かにひしゃげて、そこから漏れ出る魔力が、その隙間を徐々に大きくしていった。


「さて、それでなんでこんな話をしたのかって事だけど……」


リンの不調の原因が明らかになったところで、柚葉が話を振り出しに戻す。

真剣に耳を傾ける将真たち。

そして柚葉は、リンの体に起きている異変を、華蓮から聞いた言伝のままに伝える。


「封印されていたリンの力が、力を封印していた器ごと、綺麗に無くなっている__らしいわ」

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