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第11話『久々の吸血鬼戦』

吸血鬼を前にしても、動揺した様子もない学生達を、唖然とした表情で魔導師たちは眺めていた。

その間にも、莉緒がテキパキと指示を出す。


「リンさんはまだ吸血鬼と戦える状態ではないと思うので、サポートと後ろの人達の護衛をお願いするっすよ!」

「えっ……、うん、わかった」


どうやらリンも戦うつもりだったらしく、莉緒の指示に快く賛同、とはいかなかったが、それでも仕方が無いことだと理解して頷いた。

莉緒としても、戦力外通告をしているようで心が痛むが、これもリンを守るためだと自分に言い聞かせる。


「そんで、将真さんは自分と一緒に戦ってもらうっすよ」

「オッケー、任せろ」

「出来れば、自分が貴族クラスの足止めをしている間に、残りの二体を倒しちゃって欲しいっすね」

「いや、それはお互いにハード過ぎないか?」


莉緒と将真が、吸血鬼を二体ずつ相手にする。それは、今までの吸血鬼との戦績を考えると、自殺行為にも等しいものだと思えるのだが。


「大丈夫っすよ。自分の見立てでは、将真さんはもう並の吸血鬼に遅れをとるようなことはないと思いますし。それに自分も、成長してるっすからね」


言いながら、莉緒は自身の装いを少しだけ変えていく。

〈神話憑依〉の第二段階である。

この上が、魔導師の正真正銘の切り札と言われている〈神気霊装〉になるのだが、流石にこの歳ではまだそのレベルにまで至っていない。

無論、〈神話憑依〉でも、十分すぎる強さを誇る訳だが。


「全力でやれば、少しの間、足止めくらいは可能っす」

「……そうかよ。それじゃあ俺も、やるだけやってみるか」


将真もまた、全身に魔力を巡らせる。

二人のやる気を前にした貴族クラスの吸血鬼は、呆れたような表情を見せた。


「本気で倒すつもりなんだな、俺たちを」

「もちろん」

「……自惚れるなよ、餓鬼共が」


吸血鬼たちが、颯爽と動きだす。

やはりその動きは速く、簡単に追いつけるようなものでは無い。

だが、速さだけなら莉緒の方が遥かに上だった。

吸血鬼たちの動きを見てから、自身を見下ろす吸血鬼たちに向かって跳躍。

目で終えるような速さではない。後出しだというのに、貴族クラスの吸血鬼への、奇襲が成功するという、異様な速さ。


どうやら彼女は、本気で貴族クラスの二体を相手に、足止めをするつもりらしかった。


(ってことは、あんまりのんびりしてられないな)


自分も、全力で行かなければ、と改めて思う将真。

だが、圧倒的優位性があったからとはいえ、スライム相手に〈魔王〉の力を使ってしまった後だ。また〈魔王〉の力に頼るのは、体の負担を考えるとよろしくない。


となれば、方法はひとつ。

今までの戦いの中で、最後に吸血鬼と戦った時には選択できなかった方法だ。


「〈エクス・ブラスター〉!」


全身に魔力が行き渡り、体が軽くなるような感覚を覚える。

体が強化されたことで、体重を感じにくくなっているのだ。


右手に刻印された魔法陣から、神器〈魔神剣〉を取り出す。

両手で塚を握り締め、真っ直ぐ構えた状態で、呼吸を整える。


(出力二十パーセント、行けるか?)


どの道、相手が吸血鬼なのだから、制御に失敗したところでそこまで影響はしない。

ただ、隙をつくらないように動けばいいだけだ。

制御できない出力だと、これが意外と難しいのだが。


ぐっと脚を屈め、一気に力を込めて踏み込む。

跳躍の衝撃で、地面が窪んでいたが、もう慣れてきたので気にしない。

莉緒ほどの速度ではないが、吸血鬼たちからしてみれば、予想を超える凶悪な速度だ。

狙われた吸血鬼は、将真のタックルをくらって動きが鈍る。

タックルは狙ったものではなく、単にブレーキが出来なかっただけだが、今回に限っては好都合だ。

そこから、将真の斬撃に叩かれ、吸血鬼はきりもみ状態で地面に叩き落とされる。タックルで怯んでしまったために、受身をとることも出来なかったことが祟って、そのまま戦闘不能へと陥った。


「不意打ち成功!」


真正面からの不意打ちというのもおかしな話ではあるが。


「このっ……!」


焦った吸血鬼が、慌てて将真目がけて向かってくる。

その動きは、簡単に見切れるほど遅くはなかったが、現在強化されている将真は、肉体的には吸血鬼よりうえだった。

そのため、ある程度見えていれば問題なく躱せる。


接近戦では回避されると悟った吸血鬼が、魔術へと攻撃方法を変えてきた。

将真が最近習得した、いわゆる〈魔弾〉である。

吸血鬼ともなれば、それこそ魔導師にとっての基礎魔術レベルのものなのだが。


将真は、〈魔弾〉の軌道を目視でしっかり確認すると、吸血鬼目がけて突貫を始めた。

その道すがら、自分に直撃するであろう軌道で飛んでくる〈魔弾〉を、打ち落としながら。


「なっ……!?」

「こっちだって成長してんだ。本気でやれば今更、ただの吸血鬼一体相手に、手こずるような真似はしねーんだよ!」


無謀な突貫だと思い込んで、動揺を見せる吸血鬼目がけて、〈黒断〉を発動してふり抜く。

もうすぐ目の前という距離まで迫っていたのだ。回避も出来ずに〈黒断〉の直撃を受けた吸血鬼が、血飛沫を上げながら落ちていく。


「……まさか、いくら強いと言っても、まだ学生だろう?」

「それが、吸血鬼二体を相手にして勝利とは……、なるほどさすが、常軌を逸しているな」

「はっ、学生魔導師舐めてたら、痛い目見るっすよ!」


(とはいえ、自分もびっくりっすけど)


まだ暫くは、貴族クラスの吸血鬼二体を、本気で足止めするつもりでいたのだ。

もちろん、将真が勝てる可能性は十分にあったし、それを信じて託した訳だが、そうすんなりと終わるとも思っていなかったのである。

だが、莉緒としては、非常に好都合であった。


何せ、彼女自身も力を温存できたのだから。


吸血鬼二体を見事倒し、莉緒の元へと助勢に駆け寄ってくる将真を見て、莉緒はにっと笑みを浮かべる。


「それじゃあ将真さん、こっちを手伝ってもらうっすよ!」

「おう、二対二だな」


相手が貴族クラスと言っても、本気の莉緒が二体相手に足止めできるような強さならば、二人で倒せる可能性は十分にある。

未だに勝つ気でいる二人を見て、残る貴族クラスの吸血鬼二体は、呆れたような表情を浮かべた。


「……確かに驚きだが、雑魚二人を倒したところで自惚れられても、不愉快だな」

「まあいい。教えてやるだけさ。如何に自惚れているかを、な?」


そう言いながら、残る二体の吸血鬼たちが、莉緒と将真に向かって特攻を仕掛ける。

本来ならば、明らかに脅威を覚えざるを得ない状況で、だが莉緒は別の観点に動揺を抱いていた。


(自分たちを殺す気……、にしては、殺気がまるで感じられない。殺意がない? 勿論、戦う気はあるみたいっすけど、どういう事?)


もしかしたら、殺戮以外の別の企みでもあるのだろうか。

何にせよ、相手から殺気を感じない事が、いい事ばかりだとは言いきれない。今回のように、狙いがまるで読めないこともあるのだから。


それでも、やることは変わらない。


「……将真さん。見たところ、貴族クラスと言っても、片方はそこまでっぽいっす」

「お、おう?」


莉緒はできるだけ、吸血鬼には聞こえないように、将真に耳打ちする。


「もう片方の……、おそらく、吸血鬼たちを率いてきたやつの方は底がしれないっすけど……」

「……ってことは、まずその、あんまり強くない方から倒していくのか?」


莉緒と将真は、小声でやり取りをする。

そもそも、一目見ただけで強さがわかるほど、将真の目は戦いになれていなかったが。

だが、莉緒がそうだと言うのならそうだろう。疑う理由はない。


「そうっすね。ただ、そのヤバいには気をつけながら、になるっすけど……」

「オッケー」

「作戦タイムは終わったか!?」


そんな声が、すぐ側で聞こえてギョッとする二人。その目の前には、一番戦闘力が高いと思われる吸血鬼が迫っていた。


「げっ……」

「ちょっと気を抜きすぎたっすかねぇ!?」


あまりに一瞬の接近に、気づくことが出来ずに慌てる二人。

さすがに瞬殺されることは無いだろうが、無傷では済まない。

そして、大きなダメージを受けてしまってはそれまでだ。手負いで彼らに勝てると思えるほど、流石にそこまでは自惚れていない。


だが、そんな吸血鬼の横っ面を殴るように、風の弾丸が直撃した。弾丸と言っても、バスケットボールくらいのサイズはあるものだ。


「ぐぉっ!?」

「二人とも、大丈夫!?」


それを放ったのは勿論リンだった。

莉緒の指示通り、ちゃんとサポートに回っているのである。

それだけではない。

戦闘不能に陥った吸血鬼三体を、他の魔導師たちと協力して、落ち着いて順番に拘束していた。


「大丈夫だ!」

「リンさん、助かったっすよ!」


莉緒は、ナイスと親指を立てる。

吸血鬼の方に向き直ると、リンの攻撃を受けたにも拘らず、大したダメージを負った様子はない。

それでも、体勢を立て直す機会が得られたのは非常に大きかった。


「今度こそ、行くっすよ!」

「おう!」


二人は、吸血鬼二体へと突撃していく。

その様子を見て、戦闘力が高いと思われる吸血鬼が、もう一人に耳打ちする。


「……多分、お前が狙われるぞ。こっちは俺が相手をするから、あの小娘を狙え。それが本来の目的だし、捕まった馬鹿どもも助けられるかもしれんし」

「……了解した」


頷くと、その吸血鬼は体を引いて、森の中に姿を消す。

その様子は、傍から見るとまるで__


「逃げた!?」

「それならそれで好都合! このまま行くっす!」


まさかリンが狙われているとは思いもしない莉緒は、深追いして無駄に消耗するよりはと、目の前の吸血鬼だけに集中するという選択をした。

本当にただ、吸血鬼が逃げただけならば、その選択は正解とも言えるのだが。


真っ先に莉緒が突っ込んでいく。

相手はおそらく、吸血鬼の貴族クラスの中でも、最強クラスだ。

だが、速さだけなら、そんな彼よりも更に上だった。〈神話憑依〉で強化しているのだから尚更だ。


吸血鬼は攻撃を回避しようと体をずらそうとするが、それも間に合わない。

莉緒の斬撃が、予想以上に深く、吸血鬼の体を抉っていく。


「ぐっ……!」

「よしっ!」

「喰らえっ!」


痛みで顔を顰める吸血鬼。その背後で、莉緒はガッツポーズを作った。

そして吸血鬼の正面には、〈黒断〉を放つ準備を終えた将真。

あとは力の限りで薙ぐだけ。

回避しようとする様子もなく、将真は躊躇うことなく剣を振るう。


だが、その一撃が、吸血鬼に当たることは無かった。

躱されたのではない。

受け止められたのだ。それも素手で。手負いだと言うのに。


「なっ……!」


(マジかよ、そんな簡単に止めるか!?)


「甘いな、この程度の傷、怪我のうちにも入らん!」


吸血鬼の言葉通り、莉緒が与えた、決して軽くない傷は、瞬時に治ってしまった。

いくら再生能力が高いと言っても、異様な早さだ。


そして、動揺したことでがら空きになった将真の胴体を、吸血鬼の蹴りが刺さる。


「ぐぇっ」


思わず呻き声を上げる。

そのまま吹き飛ばされ、地面に墜落__とはならなかった。

踏みとどまり、ちゃんと両足で着地したのである。その衝撃で地面は割れてしまったが。

幸いだったのは、〈エクス・ブラスター〉の効果が予想以上に出ていて、蹴りのダメージも抑えられて、地面に衝突する前に反応が間に合った事か。


だが、安心している余裕はない。

ふと見上げると、吸血鬼の蹴りがすごい速度で飛んでくるのを目撃した。

慌ててその場から回避すると、地面に炸裂したケリで、さらに地面がひび割れていく。


急いで空中に離脱した将真を見た莉緒は、少し驚いた表情をしていた。


「将真さん、いつの間に空中に立てるようになったんすか?」

「え? ……あー、自分でもよくわからん」


空中に立つ、と言っても、足元の空気を魔力で固めているだけなのだが、それも簡単ではない。

空を飛ぶ魔法に比べれば楽ではあるが。


(まあ、将真さんだからいっか……)


特段、珍しくもない将真の学習能力はさておき。

吸血鬼は攻撃を躱されたことに対して、驚きもなければ憤りもなさそうである。

それどころか、躱されることを前提にしていたかのように、次の動きが迅速で、すぐに将真たちへと跳んでくる。


「くおっ!」

「おっとぉ!?」


二人もまた、吸血鬼の動きが見えていたので、躱すことは容易だったが、予想以上に速い切り替えに驚き、体勢を崩してしまう。

そこに更に、追撃を加えようとする吸血鬼が、空気の壁を蹴るように突進してくる。


将真はまだ、バランスを崩した状態だったが、真っ先に立て直した莉緒が、超スピードで吸血鬼の横っ面を蹴り飛ばした。


「ごっ……」


反応できない一撃に衝撃を受けながら、数メートルほど吹き飛ばされて、宙に留まる吸血鬼。

だが、今のが彼ではないほかの吸血鬼であれば、場合によっては戦闘不能も狙えただろう。

先程の吸血鬼の攻撃同様、今の莉緒の攻撃は、吸血鬼にとって予想外のものだった。


「ふー……。なるほど、確かにやるな。学生とは思えん」

「自惚れではないって、理解してくれました?」

「そうだな。ただ……、少し、俺だけに気を取られすぎているな?」

「……それはどういう」


「__きゃぁ!」


言葉の意味を問いかけようとした将真だったが、地上から上がった悲鳴に、莉緒共々、そちらを振り返る。

そこには、逃げたと思っていた吸血鬼が、リンに襲いかかっている光景があった。


「なっ……!」

「くそっ、逃げたように見せて、実は身を潜めただけって事っすか!?」


随分と単純な陽動作戦に引っかかってしまったが、後悔している暇はない。

焦った二人は、助けようと動き出すが、その道を遮るように、吸血鬼は立ち塞がった。

悔しそうな表情を浮かべる二人を前に、吸血鬼は楽しそうに笑みを浮かべた。


「行かせねーよ? 今回の俺たちの目的は、あそこのガキだからな」

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