第10話『圧倒的優位性』
ハッピーハロウィンです。
とくにそれっぽい要素は皆無ですが。
リンが丁度、スライムから核を回収して倒した頃。
将真もまた、目の前のスライムに向けて突貫していた。
莉緒に言われたように、将真にも突き技はある。物理に対しても、魔術に対しても、最弱と言われている割には高い耐性を持っている。
だからこそ、一点に力を集中させる突き技の方が、効果的なのだという。
そういう訳で、早速試してみることにした。
「__〈黒槍〉」
込められた魔力によって、〈武器生成魔法〉で作られた剣の形が変化した。
斬るためではなく、貫くための形へと。
そして一歩踏み出した瞬間、将真は確信した。
(あっ、これやり過ぎだ)
恐らくこの一撃は、ゆうゆうとスライムの核まで届き、そして破壊してしまうだろう。
いくら攻撃に耐性があっても、先の莉緒の魔法で吹き飛ぶ程度のものなのだから、それくらいは理解出来た。
だが、スライムに危機感というものがあるのかは怪しいが、なんと将真の攻撃を見るやいなや、逃げるように後ろに退いたのである。
本能すらあるのかも怪しい、動く魔力生命体。
それを聞いていたからこそ、将真はその行動に驚かされた。
ともあれ、この攻撃は回避される。
……そう、思っていたのだが。
「将真さん、リンさんの方はなんとかなりそうっすけど、そっちは大丈夫っすかー!?」
莉緒から声がかかると同時に、将真が突き出した切っ先はスライムの体に浅く刺さる。
核には到底及ばず、だが反撃してくる様子もない。それならばと、さらに将真は一歩踏み込んだのだが__スライムの体が突然弾け飛んで、地面にゴトリ、と格が落ちた。
『……は?』
思わず、三人は間の抜けた声を出す。
少しの間、弾け飛んだスライムの様子を見ていたが、再生する様子もない。
おそらく倒した、ということなのだろうが。
「……な、何が起きたんだ?」
「えっと……、ごめん、ボクにもサッパリ……」
共に前で戦っていたリンは、難しい表情で頭を横に振る。
スライムから身長に遠ざかると、二人は莉緒の方を振り向く。
莉緒はどうやら、今の現象について考え込んでいるようだった。
(……確か、魔属性魔力って、他の属性を打ち消すことが出来たような)
勿論、力量差が関係してくるので、場合によっては完全に打ち消すことが出来ない事もある。
だが、スライム相手に、将真の魔力は魔王によるもの。力の差はあまりに明確だ。
スライムの体は、魔力で構築されている。
だが、環境によって属性は変わる。魔属性ではない場合がほとんどだ。
つまり今の現象は、将真の魔属性の攻撃で、スライムの体を構築していた魔力が消し飛ばされたという事。
(……というのはあくまで予想っすけど、これが当たってるなら)
将真の攻撃は、スライムの体に触れさえすれば倒せてしまう。核を傷つけることなく。
そのメリットは、非常に大きなものだった。
(リンさんも張り切っている手前、ここから先は将真さんのサポートに回ってもらうって言うのは……、少し気が引けるっすけど)
「リンさん!」
「はーい、何ー!?」
「申し訳ないんすけど、ここは将真さんに任せようと思うんで、出来れば自分と一緒にサポートに回ってくれないっすかね?」
「……うん、わかった!」
やはり何か、思うところがあったようだが、それでも莉緒の判断を信じてくれたようで、リンは了承の意を示した。
莉緒は頷き返すと、今度は将真に声をかける。
「将真さん!」
「おう、何だ!」
「多分、将真さんの魔力を有した攻撃なら、スライムの体に触れるだけで倒せます!」
「核を狙うんじゃないのか!?」
「将真さんはその必要が多分ないっす! 下手に壊す可能性がある策にするよりは、だいぶマシっすよ」
実際、力加減を誤って、スライムの核を破壊するところだったのだから、言われてしまってはしょうがない。
それに、スライムの体に当たればそれでいいというのなら__
(小難しいこと考えなくて楽そうだ!)
「了解、そんじゃ行くぞ!」
そう言うと、将真は地面を踏み込んで、スライムの群れへと飛び込んでいく。
流石にここまで近づかれれば、スライムたちも将真に気がつく。
だが、この時のためのサポートである。
「〈ウィンド・スラッシュ〉!」
「〈炎弾〉!」
リンが放つ風の刃と、莉緒が撃ち出すいくつもの火球。
手加減された上に、スライムたちに直撃しないようにコントロールされているため、ほとんどダメージを与えるには至らない。
それでも、将真に襲いかかろうとするスライムの動きを妨害するには、十分な効果であった。
動きが鈍ったスライムを前に、将真は一気に懐へと潜り込み、斬り上げる。
やはり莉緒の狙い通りらしく、将真の攻撃で、スライムはいとも容易く弾け飛んだ。
さらに将真は勢いをつけ、倒したスライムの背後にいたスライムも、斬り伏せて倒してしまう。
すると、知性が無いはずのスライムは、一斉に狙いを将真から変えた。
将真のサポートに回る、リンと莉緒に。
「げっ、ウッソだろおい!」
スライムの性質上考えられない動きに動揺をみせる将真。
だが、その動きは速くない。
直ぐに転換して撃退に向かおうとしたその時、目を見開いた莉緒が、将真の方を指さして叫ぶ。
正確には、その背後を指さして。
「将真さん! 後ろ! スライム来てるっす!」
「は__」
思わず後ろを見ると、そこには巨大な体を広げて、将真を押し潰さんとするスライムの姿。
核の大きさが二十センチにはなるほどのものだから、その体長は将真たちを優に超えるが、さらに体を広げれば、反応が遅れた将真に回避する術はない。
「こ、の野郎……!」
剣を振り回す暇もなく、衝動的に〈魔王〉の力を解放。
肌が浅黒く、白髪へと変化していく。
その身に纏うものもまた、普段の制服から黒衣へと変わっていた。
そしてスライムの体が、将真を包み込んだ刹那。
スライムの体が木っ端微塵に吹き飛び、蒸発した。
「……は?」
「ええ……?」
状況が飲み込めずに声を上げる将真とリン。
だが、莉緒はすぐに察しがついていた。
(〈魔王〉の力を使ってる時の将真さんは、全身に魔属性魔力を纏った状態と同義……、てことは、触れただけでもスライムにとってはアウトってことっすね)
少し作戦を練り直そうと考え込む莉緒。そして何かを思いついたように声を上げる。
「あっ、そうだ」
「どうしたの?」
「将真さん、自分とリンさんで囮やるっす!」
「何考えてんのお前!?」
「大丈夫っすよ! その間、将真さんはスライムの背後から体当たりしつつ、核をぶんどってくれればそれで行けるはずっす!」
「はずって不安要素あるんだが……」
とはいえ、ここまで言われれば、将真もさっきの現象に察しがついていた。
〈魔王〉の力を顕現させた将真が、あえて剣を振る必要は無い。体当たりで解決するということに気がついたのだ。
そして当然、その方が楽だということも、わかっていた。
将真の返事を聞くまでもなく、莉緒はリンを連れて逃げ始め、将真は仕方なしに足を曲げたり伸ばしたり。
そうして走る準備を整えて。
「それじゃあ、行くぞ!」
地面を強く蹴り出した。
瞬間、後方に向かって泥が蹴り散らされたが、自分に被害がない将真はそのことにも気づかないまま、まずは目の前のスライムから、改めて狩り始めるのだった。
そうして、数分がたった頃には、周囲にスライムの〈魔導核〉が転がるのみとなっていた。
莉緒とリンはひたすら囮となって逃げ回り、背後からは将真が、走りながら体当たりを繰り返す。
そんなこんなで、将真達もさすがに少し、疲労が溜まっていた。
「はぁー……。流石にちょっと疲れたな」
「そうだね。こんな森の中だから、走りにくいし……」
「自分はまあ、平気でしたけど、二人の方が普通なんすよねぇ」
何はともあれ、任務はこれにて終了。
確かに難易度は高くなく、気をつけて時間をかけていれば、問題なく達成できるような任務だった。
……予想より容易く終わったとはいえ、スライム相手に〈魔王〉の力を使ってしまったのだが。
「それじゃあ、休憩がてら、ゆっくり戻るっすかねー」
「そうだね」
莉緒の提案に、リンは笑顔で頷く。
入り組んだ森の中を歩くことが休憩になるのかは、将真としては微妙な感じであったが。
そうして下ろしていた腰を上げ、歩きだそうとした瞬間、近くで大きな爆発が起きた。
「わっ!?」
「な、なんだ!?」
「……森の奥の方、みたいっすね」
リンと将真が慌てる中、冷静に辺りを見渡す莉緒は、森の木々の隙間から、少し離れた位置より立ちこめる爆煙を見て指差す。
「ちょっと、見に行ってみるっすか?」
「大丈夫かよ? 柚姉も、こういうことに首を突っ込むことを心配して反対してきてたんだろ?」
「でも、気づいてしまった以上はそのまま放置して置けないんすよね……」
確かに、これで誰かの身が危険にさらされているとしたら。
そこまでは現状ではわからないが、それでも見捨てた、ということになるのかもしれない。
自分たちの方が余程心配されるような立ち位置にいることは理解しているはずなのだが。
「……どうなっても知らないからな」
「大丈夫っす。自分が最悪、何とかするっすから!」
「それでなんとかなれば苦労はねーよ」
莉緒の無茶苦茶に突っ込みを入れながら、三人は爆煙立ちこめる森の奥へと駆け出した。
「__体勢を立て直せ!」
野太い男の声が響く。
自警団の制服を身につけた彼は、率いてきた中隊の仲間たちに指示を出していた。
だが、旗色はよろしくない。
敵に押されて統率が取れない状態だ。
「た、隊長!」
「なんだ!」
「これ以上は無理です! 最悪全滅してしまいます! 撤退を!」
「出来ればとうにしとるわ!」
部下に怒鳴りつける隊長だったが、彼の苛立ちは尤もだ。
彼自身が言ったように、正直なところどう足掻いても、逃げられるような状況ではない。
そもそも、相手が悪すぎるのだ。
(吸血鬼が五体……。うち二体は貴族クラスとなれば、勝ち目はない)
助けは呼んであるものの、貴族クラスが二体もいる、計五体の吸血鬼を相手に、どこまで生き残れるかはわからない。
彼ら自身、あまり強い魔導師ではなく、本当ならば、吸血鬼を相手にする任務ではなかったのだ。単に運が悪く、遭遇してしまっただけで。
だが同時に、妙な話でもある。
何故かはわからないが、吸血鬼から殺気を感じられないのだ。
吸血鬼たちは、少なくとも魔導師たちを殺すつもりはないというのか。
「お前ら、どういうつもりだ……?」
隊長の男が投げかけた疑問は、具体性にかけるものだったが、どうやら吸血鬼たちは、聞かれた意味を理解していたようだ。
「今回は少しばかり目的があってな。無駄な行動はしたくない。邪魔をしなければ、命だけは助けてやる」
「……信じられんな」
どの道、逃げるという選択肢はない。
仮にここで、自分たちが生かされたとして、吸血鬼たちが目的を果たした結果、さらに被害が広まってしまえば。
さらに最悪な結果になる可能性もある。そうなる可能性は、十分考えられるのだ。
無謀だと理解していながらも、魔導師たちは、吸血鬼の前に立ちはだかる。
「……いいだろう。ならば望み通り、蹂躙してやる」
おそらく、饒舌に喋っている吸血鬼が、彼らのリーダー格なのだろう。
その吸血鬼が指を鳴らすと、先程とはうって変わり、さっきを剥き出しにして、魔道士目がけて突っ込んでくる。
そして、あとに続くように、合図を出した吸血鬼も。
応戦しようにも、統率がバラけた状態では、どうしようもない。
(万事休すか……)
隊長の男が、諦めたように肩を落とす。
吸血鬼が、その喉元を潰そうと手を伸ばす。
隊長の男の首に、吸血鬼の手が触れそうになった瞬間、横殴りの衝撃が吸血鬼を襲った。
『なっ……』
魔導師たちも、吸血鬼たちですら思わず絶句するような状況。
吹っ飛ばされた吸血鬼は、へし折れた木の幹にぐったりともたれ掛かり、かなり深い傷を負っていた。
絶命したか、そうでなくとも致命傷か。
絶命していなければ、致命傷からでも復活する吸血鬼だが、少なくとも今はもう、戦力にはならないだろう。
そして、攻撃を仕掛けたと思わしき人物が、魔導師たちを背に着地する。
学園の女生徒用の征服を身につけて。
「大丈夫っすか!?」
「お、お前は……」
「__おいバカ、突然飛び出すやつがあるか!」
「莉緒ちゃん、急すぎだよぉ!」
呆然としている魔導師たちの前に、さらに二人の生徒が駆け寄ってくる。
うち一人は、魔導師であるなら誰でも知っているであろう、片桐将真である。
仕方ない、というようにため息をつくと、将真はリンと莉緒と共に、魔導師たちの壁になるように立ちはだかる。
「これ以上はさせねーぞ」
「……これは驚いた。まさか……」
倒された仲間になど目もくれず、貴族クラスの吸血鬼は、ボソリと呟いた。
「……目標の方から、やって来てくれるとはな」




