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第9話『スライム狩り』

〈裏世界〉は、将真が元いた〈表世界〉とは違い、正しくファンタジーな異世界だ。

それにも拘らず、魔族と戦う任務が多かった将真は、最弱と言われる〈魔族ゴブリン〉は知っていても、最弱と呼ばれる〈魔物スライム〉を知らないでいた。


スライム。

むしろ、こんな世界にいない方が珍しいのではないのかとすら思える程に、ありふれた魔物だ。


「スライムって、いたんだな……」

「まあ、今まで見る機会もなかったしねー」

「分かりました。それじゃあ自分たちは、この任務をこなしてくるっすよ。今すぐで問題ないっすよね?」

「ええ。大丈夫よ」


莉緒の問いかけに、柚葉はすぐに頷いた。

やはりこの世界でもスライムというのは弱いモンスターという位置づけにあるらしい。そうでなければ、心配されている中で、こんな任務を言い渡されることもないだろうから。

だが、そこで将真はあることに気がつく。


「なぁ」

「なんすか?」

「この世界のスライムって……、どんな魔物なんだ?」

『あー……』


莉緒だけでなく、柚葉やリンも同じような反応を示していた。


そう。ゲームやファンタジー系の物語ではありふれた魔物だが、この世界でまだその姿を見たことがない将真は、スライムがどんな魔物なのかをまるで知らないのだ。

何となくどんな姿をしているのかは予想がつく。

だが、そもそも、スライムという魔物の定義は、物語によって様々だ。

やはり最弱の魔物である事が多いものの、かなり危険な能力を持っていたり、場合によっては色んなものを捕食する化け物のような強さを持っていたりもする。


「そっすね。将真さんは知らないんすよね」

「今までの任務で、一度も見た事がないって言うのも、ある意味珍しいわね。まあ、その辺の説明は莉緒かリンに任せましょうか」

「わかりました」

「それじゃあ道中で説明するんで、とりあえず出発しましょうか」

「……そうだな」


やはり気にはなるが、どうせすぐに教えて貰えることになりそうだ。

莉緒に同意すると、三人は学園長室をあとにして、久しぶりに都市外の任務へと向かった。




任務地はどうやら、森の中を流れる川沿いという事だった。

〈日本都市〉からも、そんなに離れてはいない。


スライムには色々種類がいるそうだが、薄暗いところや湿り気を好むことが多いのだという。


そして将真たちは今、件の森の中を移動中だった。

将真は、道中に受けた説明で、戦うには十分足りる程度の知識を得ていた。


やはりと言うべきか、その体は半透明のゼリー状の物質でできているらしい。

ただしその体を構成する九割以上が魔力そのものらしいが。


どちらかというと、スライムという名前の魔物ではなく、肉体と生命を得て活動する魔力がスライムと名付けられたようなもの……らしい。


その体の中心には魔導核と呼ばれる、高密度ゆえに硬質化した、純魔力の格が存在する。

スライムの体の大きさは、最大でも魔導核の十倍くらいの大きさだ。

そして、今までの中で見つかっているのは、魔導核が直径一メートル程のスライム。

ここまで来ると、スライムと言えどももはや凶悪だ。体長は悠に十メートルにも達するという。


「……っと。ほら、あれがそのスライムっすよ」

「……おお」


どうやら、任務地に到着したらしく、河原の丸い物体を莉緒が指さして示す。

その姿は、おおかた予想通りのものであったために、思わず将真は感嘆の声を漏らす。

莉緒の説明の通り、透き通って見える体内には、十センチ程の核のようなものが見てとれた。


「確かに、スライムだな」

「うん。今回のスライムはどうやら、そんなに大きくはないみたいだね」

「数はそれなりにいるっすけどねぇ」


言いながら、莉緒は茂みに隠れたまま、スライムの数をカウントし始める。


「……うーん、大体、二十ちょいってとこっすかね」

「それって多いのか?」

「まあまあっす」

「スライムって、触れると魔力でさえも溶かすから、数が多いっていうのも大変だよねー……」

「それは初耳だぞ?」

「言い忘れてたっす」

「おい……」


そこそこ重要だと思われる情報を伝え忘れている莉緒にジト目を向けつつも、将真は視線を元に戻す。

よく見ると、奥の方には二メートル以上はありそうなスライムが三匹ほど見えていた。

魔導師に限らず、魔力を持つ者の体は、薄い魔力の膜で覆われている。勿論、魔族でも同じことだ。

その為、わざわざ肉体強化に頼らずとも頑丈で、鎧を着込むより防御力も高く、あえて守りを固める必要が無い。

肉体強化に頼る必要があるとすれば、魔力の薄膜すらも抜くような攻撃を前にする時だ。


だが、それすらも溶かされてしまうのならば。

タダでさえ脆弱で、有害判定すらされている外気の魔力にも耐えられない生身のままでは、たとえ魔導師と言えども一溜りもないだろう。


核を叩けば一撃だが、その危険性は十分理解できた。


(まあ、元々楽観視するつもりは無かったけどな……)


そもそも、最弱の魔族と呼ばれるゴブリンですら、将真が予想していたものとは程遠く、十分危険だったのだから。

戦い慣れた今ではやはり、雑魚としか思えなくなってきてはいるのだが。


「まあ要するに、あの体に触れずに核を潰せばいいんだな?」

「出来れば核は壊したくないんすけどね。あれほど高濃度な魔力の塊なんて、そうあるもんじゃないんで貴重なんすよ」

「じゃあどうするんだよ?」

「んー、その前に、見ててもらっていいっすか?」


何を、と将真が問いかける前に、いつの間にか生成していた火の玉を、躊躇なくスライム目がけて投げ飛ばした。


「うぉい! バレるんじゃねーの!?」

「あー、大丈夫っすよちゃんと隠れていれば。スライムは白兵戦の距離程度の探知能力しかないっすから」


莉緒が説明してる間に、スライムに火の玉が直撃する。

だが、将真の予想に反して、スライムにはほとんどダメージがなさそうだった。


「……は? 効いてないの?」

「それがっすねー、あのとかすやつが危険なだけで、攻撃力は皆無に等しいんすけど、防御力というか攻撃耐性というか……」

「とにかく、攻撃が通りにくいんだよ。体が見ての通り、ぶよぶよしてて攻撃通りにくそうでしょ?」

「あー、まあ……、言いたいことはわかった」


攻撃力は無いに等しいが、攻撃に耐性があるらしい。防御力が高いのではない、という所が紛らわしくもあるのだが、生半可な攻撃ではろくにダメージを与えられないそうだ。


「だから、リンさんの槍とか、あとは弓みたいな、一点集中の貫通系攻撃なら通りやすいんすよね。それに、将真さんも突き技持ってたでしょ?」

「まあ持ってるけどな。それこそ、核なんか壊しかねないぞ?」

「ボクは正直、今の自分の状態でうまく倒せるかは自信ないなぁ……」

「何言ってんすか」


リンが不安そうに言うと、莉緒は呆れたようにため息をついた。

その気持ちも、分からないではないが。


「確かに体がなまるから、都市の外での任務は自分も望むところっすど、出たいって言って学園長説得したのはリンさんでしょ?」

「うっ、まあ……、そうなんだけど……」


自身の発言が些か愚かであったことは自覚のあるところだった。だが、それと不安に思うことは、また別である。


「大丈夫っすよ。確かに魔導師としてはどんどん弱体化してるっすけど」

「うぐっ」


(今、莉緒わざと『どんどん』って言ったな……)


何となく莉緒の意地悪に気がついた将真だったが、特に口を挟むこともなく、聞きに徹していた。

勿論、リンを見捨てたという訳ではなく。


「ストイックに鍛錬続けてきたんすから、単純な戦闘能力だけなら、多分遥樹さんにだって引けを取らないと、自分は思うっすよ」

「……それは言い過ぎだと思うけど、うん。そうだよね」


努力が足りているかはわからない。

それでも、自分が頑張ってきたことだけは確かなのだ。自分の努力も信じられないようでは、いつまでも成長しない。


(大丈夫。例え魔導師としての能力は落ちていても、体はいつだって鍛えてきたんだから)


「……じゃあ、そろそろ行くか?」

「うん、行こう!」

「それじゃあ、自分が〈火矢ひや〉撃つんで、それと同時に飛び出して下さいっす」

「了か……、ん? 〈火矢〉?」

「え、なんすか?」


莉緒の口から出てきた、聞き覚えのない魔術に、リンは首を傾げた。

知らない訳では無いが、莉緒が使っているところは見たことがない。使えないのだろうと思っていたし、リンはそもそも使えないので気にも留めていなかったのだが。


「使えたの?」

「いや、まあ……、〈火球〉の形状を球じゃなくて矢に変えるだけですし?」


(やっぱ器用だなぁ……)


ものの一瞬で、僅かだが自信をなくしてしまいそうになるリンであった。

本来ならば、形体を変えるだけとは言っても、新たな魔術の習得はそんなに簡単ではないはずだ。


と、思っていたのだが。


「これでも、三ヶ月くらい練習してたんすからねー」

「あっ、そうなんだ……」


思いの外、時間をかけて習得していたようであった。


「それじゃあ気を取り直して__」


莉緒は宣言通りに〈火矢〉を生成。

狙いを定めて、それらを躊躇なくスライム達へと撃ち出す。


「GO!」

「うしっ!」

「出ます!」


莉緒の合図と共に、将真とリンが茂みから飛び出し、スライムたちの元へと一気に駆け寄る。

どうやら、探知能力が低いというのは本当の事らしく、将真たちが飛び出してきても反応が鈍かった。

莉緒が放った〈火矢〉は、見事スライムに命中。

直撃を受けたスライムは核ごと弾け飛んでいたが、周囲のスライムは若干体が削れただけで、すぐに再生を始めていた。


「おい莉緒! 壊してよかったのかよ!?」

「一つくらい問題ないっすよ! 将真さんたちは、壊さないように頼むっす!」

「わ、わかってるよ!」


将真と同じく少し慌てたリンだったが、返事を返すとすぐに気を取り直して、スライムに攻撃を仕掛けていく。


スライムの核を壊さない事を考え、生成したのは棍。

スライムの攻撃を躱し、懐に潜り込んで核に向けて一息に突く。


「フッ__」


棍の先は、狙い通りにスライムの核を打ち、その体が大きく揺らぐ。

だが、壊さないように加減したために、倒すにはいたらなかった。

危機感を覚えたのか、スライムの体が、少しずつ棍を伝ってリンを飲み込もうと迫る。

勿論、リンは倒せないことを見込んで作戦を立てていた。

核を叩いた棍の先。そこが形を変えて、がっちりと核を掴む。


「そぉ__れぇ!」


そして、変形させた棍を一息にスライムの体から引き抜く。

すると、リンを飲み込もうと迫っていたスライムの体が動きを止め、ズルズルと地面に滑り落ちて消えていった。

核を取られ、肉体を維持する力がなくなった以上、その体は自然の魔力へと還るのみであった。


「……よっし!」


咄嗟に思いついた方法だったが、何とか上手くいったことに、安堵と喜びを露わにしたリン。

その様子を確認すると、莉緒は将真に呼びかける。


「将真さん、リンさんの方はなんとかなりそうっすけど、そっちは大丈夫っすかー!?」


莉緒とリンの視線は、将真の方へとむく。


その瞬間、将真の目の前で、スライムが弾け飛ぶ光景を、三人は目の当たりにしたのだった。

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