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第7話『試運転』

改めて再開された試験だったが、真尋が起こした変化に生徒達はやはり動揺し、焦りを覚えていた。

そんな状態では集中もなかなか出来ず、全員が試験を終え、合格者は真尋一人だけだった。


「そんなわけで、このまま次の試験を始めようと思うわけだけど」

「えっ、まだあったんですか?」

「当たり前でしょー、まだ乗ってもいないじゃない。試運転しなくちゃ意味なしよ」

「あっ、そうですよね」


まあ試験とは言い難いかもしれないが、適合し、起動できることがわかっても、乗れなければやはり意味が無いのだ。

とはいえ現段階では、乗って、簡単な運転さえできればそれでいいのだが。

微調整や運転技術が必要ならば、それは後でも問題ないのだから。


「それじゃあ、早速だけど起動してみて」

「はいっ」


気合いの入った声で返事をすると、今度は恐る恐るではなくしっかりと、その手で〈白蘭〉に触れて魔力を流し込む。


今度は、意識の奥深くに引きずり込まれることは無かった。


『__ふむ、やはりお前だけが残ったか』


(みたいです)


『それでは、契約といこうか』


(契約……。一体、何をするんですか?)


『簡単だ。血判するだけでいい』


(えっと……、それって、痛くないですか?)


『そんなに深く傷つけろとは言わん。親指で血判できる程度で構わん』


(あっ、それでいいんだ)


とは言え、痛いであろう事には変わりない訳だが。

真尋は手を離すと、小さな針を生成して親指を指す。

刺した傷から、プツプツと血が流れ始める。

その状態で、真尋は親指を〈白蘭〉の機体に押し付けた。

すると〈白蘭〉の機体は、徐々に強い光を放ち始める。


『__さあ、唱えろ』


真尋は、頭の中に響いてくる声に答える。


「__起動!」


ハッキリと通った真尋の声に応えるように、〈白蘭〉の機体が、一際強く光を放ち、駆動音がなり始めた。


『よくやった。さあ、早く乗るといい』


(えっと……、あの、ごめんなさい)


『なんだ? なんでも言ってみろ。今やお前は我の主なのだから』


(……どうやって乗ればいいの?)


『…………』


確かに起動こそしたが、乗り込む場所は少し高く、簡単に乗るのは難しそうだった。


『仕方のないヤツめ』


そう言うと、〈白蘭〉の機体がゆっくりと膝をつく。

それを見た真尋はポツリ。


(あなた、私がいなくても動けるんじゃないの?)


『動けんことは無いな』


(えぇ〜……)


わざわざ契約した意味とは何だったのか。

どうしても疑問に思ってしまう真尋であった。




そして〈白蘭〉の機体の中心に乗った真尋。

コクピットのような場所はなく、操縦者は剥き出しになっているので、傍から見ると危険そうに見えるのだが、どうやらそうでもないようだ。


「それっ!」


柚葉は、地面を踏み抜くと、適当なサイズの瓦礫をつかみ、軽く投石する。

真尋のことを考えた結果だが、軽くとはいえ柚葉の力だ。それはもう、アスリートの全力を上回るような力である。

十分に驚異的な威力を伴い、真尋に向かっていく瓦礫だったが、真尋の体から数メートルほど離れた位置で、なにかに触れて粉々に散った。


「なるほどね。機体全体を覆うように防護結界が張られている……」

「それも割と強力な上に、受けた攻撃の威力を反射してるみたいですね」


まあそれがどの程度かは分からないが、攻撃を試した柚葉は、そのことに気がついた。

魔力を吸収し、操縦者が扱える魔力へと変換する。

そしてその魔力は、この結界のような自動的な補助にも使われているようだ。


「加えてこの結界のおかげで、外界の有毒な魔素も防ぐことが出来る。必要分だけ取り込んで、自身の魔力に換えてしまえるのだから、チート並みの性能ね……」


それはもはや、魔人と大差はないと思われる程に。


初めは操縦の仕方もよく分かっていなかった真尋だったが、柚葉たちはアドバイスをしようとしない。


……と言うよりは、アドバイス出来ないのだが。


「無理よ。私だって操縦方法知らないもの」

「えぇ〜……」


助けを求めた真尋は、柚葉の思わぬ発言にガックリと肩を落とした。

ともあれ、〈白蘭〉と意思疎通が取れるということもあってか、少し経つと飛んで移動くらいはできるようになった。

移動速度は速いとはいえないものの、人が歩くよりはだいぶマシな速度だ。


「うん、動かすだけなら問題なさそうね」

「なんとか慣れてきましたぁ〜」

「それじゃあそれは真尋ちゃんにあげるわ」

「わぁ、それはどうもありが……、え?」


柚葉の言葉をそのまま受け取ろうとした真尋だったが、その意味を理解すると同時に、戸惑いの声を漏らす。


「だから、あげるって言ってるのよ。まあ管理するのは私たちだけどね。色々調べたり、調整したりする必要があると、こっちで持ってなきゃ不便だし」

「こ、こんな貴重なもの貰えませんよ!?」

「何言ってるのよ適合者でしょ。あなた以外の人間が持ち主になったって、使えないんじゃどうしようもないし」

「で、でも……」


意見を求めるように、真尋はおずおずと猛の方を振り向いた。

猛はその様子に少し呆れた様子を見せたが、やはり妹には甘いようで、あまりらしくない苦笑を浮かべて答える。


「せっかく手に入れた力だろ。お前の他に使えるやつもいないんだ、貰っとけ」

「……う、うん、わかった。それじゃあ……」


(できれば、自己判断できるようになってほしいんだがなぁ)


正式に受け取る決意をした真尋と、それは良かったと笑みを浮かべる柚葉を見ながら、そう思う猛であった。




そこからようやく、事情を説明するために、真尋の小隊仲間である紫闇と晃を呼び出した。

幸い、と言うよりは、ここに真尋がいる以上当たり前なのだが、二人は任務に出かけるでもなく学生寮の自室にいた。


晃は眠っていたそうだ。そして紫闇は、意外にも漫画を読んでいたらしい。


「紫闇ちゃんて、漫画読むんだね……」

「そんなにおかしい?」


妙なところを突っ込まれて、紫闇は顔を顰めていた。


それはともかく、呼び出された二人は、〈白蘭〉に乗りこんだ真尋を視界に捉えると、驚きのあまり目を見開いて口が開いたまま__まさに、呆然とした状態で立ち尽くしていた。


その場に柚葉や瑠衣、真尋の兄である猛、〈莉緒小隊〉に〈空小隊〉までいたのだが、それらが全く気にならないレベルの驚きだったのだ。


「が、ガ○ダム……?」

「いや、それとはまた違うでしょ……」


奇遇にも、二人は〈表世界〉からきた編入生ということもあって、そこの話は通じた訳だが、その呟きを聞いていた〈裏世界〉出身の莉緒たちは首を傾げていた。


「なんすかガ○ダムって」

「〈表世界〉では有名なロボットアニメだよ」


莉緒の質問には簡単に答えておく。将真自身も、そこまで詳しく知っている訳では無いので、こういう他に無いのだが。

紫闇と晃がまだ驚きから冷めずにいると、真尋は二人に驚きの提案を申し出てくる。


「そうだ、紫闇ちゃん、晃くん。試合しよ!」

「はぁ!?」

「また唐突ね……」


驚く晃に、呆れたような紫闇。

もしや新しい力を手に入れたことで少し気が緩んでいるのではないだろうか。

だが、その提案を聞いていた柚葉が、手をパンと叩き、


「あ、それいいわね」


とまさかの同意を示した。

確かに、どれだけ動けるものなのかを調べるためにも丁度いいといえばその通りなのだが。


「二人の実力に並べるように、頑張るよ!」

「んー……、まあいいのか?」

「私はやりたくないんだけど」

「紫闇ちゃん、あんまり強制はしたくないけど、頼めない? 真尋ちゃんの仲間でもある事だし」

「……分かりましたよ」


あまり乗り気ではない紫闇だったが、学園長に頼まれては拒否しにくいのだろう。渋々といった様子ではあるが、なんとか了承してもらえた。


どうやら、瑠衣の影の中にもあるらしき闘技場へと移動すると、真尋たちは位置につき、柚葉や将真たちは、少し離れた位置から見守ることにした。

審判は瑠衣が代わりにやってくれるのだそうだ。


「二人とも、全力で来てね!」

「つってもなぁ……」

「やっぱりやめにしない?」

「ダメ! 折角なんだから実践で試運転してみないと!」


何だか妙に張り切っている真尋を前に、紫闇と晃は諦めたようにため息をついて、渋々戦闘態勢に入る。

その様子を見ていた瑠衣が、試合開始の合図を出そうとしていた。


その時、将真はふと、脳裏を過った疑問を柚葉に問掛ける。


「なあ柚姉。あの二人って、〈白蘭〉の魔力のシールドのこと知ってるのか?」


「__試合開始!」


「……知らないわよ?」

「……え?」


瑠衣の合図が響く。

将真は、柚葉の答えに表情を引き攣らせながら、視線を闘技場へと戻した。

そして案の定、何も知らない紫闇と晃が、特攻同然に突っ込んでいく。

そしてやはりと言うべきか。

二人は、見えない壁に阻まれて、抗うまもなく吹き飛ばされた。


「うっ……!?」

「ぐぉっ!?」


理解ができないという表情で、地面を転がりながらも体勢を立て直していく。

一方で真尋はと言うと、お世辞にも速いとは言えないが、少しずつ前進していた。


「…………今のは」


じっと真尋を睨むと、紫闇が再び突っ込んでいく。

ただし、勢いは先ほどより落とした状態で。

そしてまた、紫闇はあと少しで真尋へと辿り着きそうだと言うのに、見えない壁に阻まれる。

勢いを落としたとはいえ、受身を取っていた訳では無いので、それなりにダメージはある。

今回は、ぶつかった時の衝撃だけで、少し後退させられるに留まったが。


「……結界?」


進行を阻む壁の正体に察しがついたようで、紫闇はボソッと呟く。

正体がわかり、その範囲も二度の突進で大体把握出来た紫闇は、三度真尋へと突っ込んでいく。

今度は、障壁目がけて体当たりなどということはせず、凡その位置でブレーキをかけ、後ろに引き絞った腕を前に突き出す。


真尋の想像を超える強打が障壁を叩く。

だが、結界は破られるまでは行かずに、返ってくる反動に耐え切れずに紫闇の足が浮く。

真尋もまた、受けた衝撃に耐えられず、後ろにバランスを崩して転んだ。


「うう……、結界ごと吹き飛ばすなんて……」

「かったいわねぇ……」


予想もしなかった結果に真尋は泣き言のように呻き、紫闇は紫闇で、攻撃をした方の手首をプラプラさせていた。

どうやら、紫闇にはそこそこダメージが残ったようだった。


直に戦ったことがある将真は、紫闇の強さを知っている。

少なくとも、半端な結界では紫闇の攻撃は防げない。

攻撃、と言うよりは、破壊を得意とする彼女の一撃は、その気になれば鋼鉄すら突き破るだろう。

そんな一撃を防ぐ〈白蘭〉の結界は、相当頑丈であることが分かる。

物理だけではなく、おそらく魔術や魔法にも強いのではないだろうか。


「あの結界、すげぇ硬ぇな……」


どうやら猛も、その驚異的な防御力に気がついたようだった。

これだけ頑丈ならば、生半可な魔族では彼女に触れることも出来ないだろう。猛としても、妹が安全であるということは有難いものであった。

だがそこに、莉緒が疑問を呈す。


「確か、〈白蘭〉は大気中の魔素を吸収して、使える魔力に変換するんでしたよね?」

「……そういやそうだったな」

「じゃあ……、今ここに、その魔素はあるんすかね?」

「あっ……」


莉緒の言いたいことがわかって、リンが小さく声を上げる。

吸収するための魔素がなく、魔力が確保できない今、どうやって動いているのか。


「そんなの、本人の魔力で動いているに決まっているでしょう?」

「……いや、まあ、普通に考えればそうだろうけども」


普通に考えれば、その通りなのだが。

帰ってきた答えが当たり前のもの過ぎて、逆に驚いてしまった。

ともあれ、〈白蘭〉は今、真尋の魔力で動いていることがわかった。

だが、真尋にあれだけ強力な結界を維持する力があるのかと言われると、あるとはとても思えなかった。


「魔力量の問題だろうけど……、大丈夫なのか?」

「多分大丈夫よ。動かすだけの魔力が足りなかったら、昨日が停止するはずだもの」

「それも調べてわかったことなのか?」

「そうよ。まあ、あくまで予想の範疇を過ぎないけど、心配しなくとも、万一の時は私が止めるわよ」


そう言うと、柚葉は真尋の方を指さす。

将真たちは、吊られてそちらに視線を移し、そこであることに気がついた。

この距離でも、僅かに聞こえる。


何かが、ひび割れていくような音が。

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