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第6話『適合者探し』

斯くして、急となったロボットの適合試験が開始された。


その方法は至って単純。

ボディーに触れて、自身の魔力を流し込む。ただそれだけだ。


そして方法が簡単だけに、試験は面白いようにトントン拍子で進んでいった。

こういっては彼らに失礼だが、試験の為に集められた約百人近くの生徒が、どんどん落第していくのだ。

方法が間違っている訳では無いのだろう。

魔力を流し込んだ瞬間、ロボットは淡い光を放ち始めるのだが、それは徐々に萎んでいき、最後には何度やり直しても、反応すら見せなくなる。


目の前で落ちていく生徒達を見ながら、自分の番が近づいてくることを実感して真尋は、猛の服の裾をキュッと掴む。

それに気がついた猛は、真尋に目を落とした。


「……どうした。不安か?」

「う、うん。みんな落ちていってるし、私なんかが通るとは思えないよ……」


真尋が不安がるのは仕方の無いことだった。

参加しているのは高等部の生徒だけだが、何も一年生だけではない。二、三年生も参加しているのだ。

試験の順番に学年は関係なく、既に二、三年生で落ちている生徒もチラホラと見て取れる。

加えて、魔導師としての才はあっても、体内に爆弾を抱えてろくに戦えない身だ。

真尋に自信が無いのも、当然と言える。


だが、猛は真尋に微小を浮かべると、彼女の頭に手を置いて撫で回す。


「あ、あうあぅ」

「何も心配することはねぇよ。まずは肩の力抜け。別に落ちたって、死ぬわけでもあるまいしな」

「う、うん、そうなんだけど……」

「らしくねぇぞ。もっと前向きに行ってこい!」

「ぃたあっ!?」


少し強めに背中を叩かれ送り出された真尋は、恨みがましい目で猛を少し睨むと、前の方へと出ていった。

試験を終えた生徒達が、悔しそうな表情で横切って行く。

その度に、真尋の鼓動は早くなり、心臓が苦しくなる。


(お、落ち着かなくちゃ。このままじゃ私、試験どころじゃなくなっちゃう……!)


そう自分に言い聞かせると、真尋はゆっくりと深呼吸を繰り返す。


吸って、吐いて。吸って、吐いて。吸って__


「次、御白真尋!」

「ぅ、ゴホゴホっ!」

「ちょ、大丈夫!?」


心臓を落ち着かせることばかりに気を取られていたが為に、自分の番が回ってきていたことに気がつけなかった真尋。

そのせいで、名前を呼ばれた瞬間思わず驚き、咳き込んでしまった。

真尋の体のことは柚葉もよく知っているため、余計に心配されることになってしまったが。


「だ、大丈夫、です。やれます!」

「そ、そう……。体調悪いなら、無茶しちゃダメよ?」

「いえ、問題ありません。今のは少し驚いちゃっただけですから!」

「……わかったわ。それじゃあ、始めて」

「は、はいっ」


まだ緊張が残る、上擦った声で返事をする。

足取りも傍から見ていると不安になるような感じではあるが、それでも真尋はなんとかロボットの前まで辿り着き、今一度、深呼吸をして心を落ち着かせる。


(……ここで、頑張って合格しなくちゃ)


心を決めると、真尋はゆっくりと下げていた手を伸ばし、ロボットの一部にそっと触れる。

そして手順通り、魔力を流し始めた。


(確かに、私は魔導師になれる才能があるって言われたけど、そんなもの、ただあるだけなんだ)


彼女の周りにいる猛を初めとした二年生たち、そして彼女の小隊仲間の二人。

前者も後者も、学生としては常軌を逸した力を持っていて、自身とは比べ物にもならないのは自覚していた。

だがそうでなくとも、真尋の魔導師としての才は、学生としては平均的なものだった。

学生としては『超』のつくほど優秀な兄や先輩達から指導を受け、一年生の中では比較的優秀な方ではあるが、心臓に抱えた爆弾をどうにかしない限り、結局はどの生徒達にも置いていかれてしまう。

タダでさえ迷惑をかけてきたというのに、また今後も足手纏いでい続けたくはなかった。

それに、普通に生活している分には問題ないだろうが、いざ時が来て、自身の力不足が原因で「何も出来ずに大事な人が殺されました」なんて事になるのは嫌だった。


(私は……、紫闇ちゃんや晃くん、今まで迷惑をかけてきたお兄ちゃんや先輩たちに報いるためにも、力が欲しい。守られるだけじゃなく、守れる自分になりたい__!)




実はこの試験、ガバガバもいいところだった。

まず、一番肝心な合格基準が確立していなかった。

とりあえず起動できれば合格で、次のことはまた合格者が現れてから考えるつもりだったのだ。

だが、起動に成功した時にどうなるかすら、柚葉や瑠衣は知らない。

と言うより、誰も知らない。

調べてわかっているのは、あまり強すぎる魔力を持つ、優秀な魔導師ではむしろダメだということだ。


だがら、柚葉たちは、目の前の状況の変化に、戸惑い、硬直してしまった。


淡い光を放つロボット。

それが他の生徒たちの時同様に、少しずつ弱くなっていく。

そして完全に消えるかと思われたその時、淡い光が再び灯り、またも弱くなっていく。

それを規則的に繰り返し、ロボットが放つ淡い光は点滅していたのだ。


気になって柚葉が、真尋の表情を覗き込む。

そして息を呑んだ。

焦点の合わない、虚ろな瞳だったのだ。

それは傍から見ると__非常に、危険な状態にも見えた。


「ちょ、真尋ちゃん大丈夫__、っ!?」


学園長としての威厳が解けて、真尋に呼びかけようと手を伸ばすが、すんでのところで弾かれる。

まるで、結界におおわれているように。


「これは……」

「学園長!」

「柚姉、そこどけ!」


ハッと気を取り戻すと、そこには異変に気がついた猛と将真が、攻撃の構えを見せていた。

慌てた柚葉だったが、その場から離れることはなくむしろ、二人と真尋を遮るかのように、その間に立つ。


「なっ……」

「何してんだよ柚姉!」


柚葉の行動に絶句する猛と、怒鳴り散らす将真。

確かに、彼らの焦る気持ちはよく分かる。だが、むしろ柚葉は、そんな二人を叱るように声を荒らげた。


「何もわからないこんな状態で、いきなり攻撃ぶつけようとか、馬鹿なこと考えてんじゃないわよ! あんたらの攻撃じゃ、下手したら真尋ちゃん大怪我するわよ!」

「ぐっ……」

「……そ、そうだよな、ゴメン……」


自身の焦りを素直に認めると、不安はあるものの、二人はすぐに魔力を抑えた。


だが、叱ったはいいものの、焦りがあるのは柚葉も同じ事だった。


「……真尋ちゃん、あなたちゃんと、無事よね?」


そんな周りの不安など知る由もなく。

真尋は、深い意識の中で、不思議な声を聞いていた。




『__ふむ。中々にいいな、小娘』


「……え?」


聞こえてきた声に驚く真尋。

戸惑う真尋を置き去りにしたまま、謎の声が真尋に語り続ける。


『さっきまでのやつとは違い、自分の意思がはっきりとしている。ただ漠然と強くなりたいと言うだけの、強くなりたいその理由も忘れて焦るだけの童共ばかりだったが、お前はそれを、見失っていないようだな』


「えっと、あのぉ……、もしかして、ロボットさんですか」


『その呼び方はやめんか。無性にかっこ悪いだろう』


「一応ロボットさんで間違いはないんですよね。じゃあなんて呼べばいいですか?」


とりあえず自分の予想が当たっていることは確認できたので、我儘を言ってくる声に対して、真尋は問いかける。

すると、声の主は考えるような唸り声を上げたあと、「そうだ」と声を上げた。


『長らく目覚めることもなく、使われることも無かったので忘れていたぞ。我のことはそうだな、〈白蘭ビャクラン〉とでも呼ぶといい』


「〈白蘭ビャクラン〉、ですか」


そう呟いて、真尋はこのロボットの機体が白だったことを思い出す。

そして、遺跡から発掘された、古の平気でありながら、綺麗な状態であったことも。


『当然だ。我は周囲の魔力を吸収、変換することが出来る。永らく眠ってこそいたが、その間にも吸収、変換した魔力によって、劣化することは無かったのだ。幸いにも、外界は魔力で満ち溢れているからな』


「それ、人にはかなり有毒なやつなんですけどね……」


『知っているとも。だから言ったであろう? 吸収と変換だと』


有害な魔力を無害な魔力へと変える。

魔導師が使える、一般的な魔力へと変換する。

それが、このロボット〈白蘭〉の能力というわけだ。

魔導師が強くなるわけである。

魔力が無尽蔵にあるようなものなのだから。


「えっと……、私に声をかけてくれたってことは、私と契約してくれるってことでいいの?」


『そう思ったが、お前達はどうやら我に適合するものを探すための試験をしているようだな』


「え? う、うんそうだよ」


『ならばお前と同様、力を貸すに値する人間であり、お前以上に優秀であれば、そちらを選ぶかもしれんな』


「そ、そうですよね……」


当たり前といえば当たり前なのだが、〈白蘭〉の言葉に少し落ち込む真尋。だが意外にも、〈白蘭〉はそんな真尋を励ますようなことを言った。


『案ずるな。お前が初めて起こした変化に、ほかの連中は戸惑いと焦りを隠せていない。精神状態的に見て、お前に並ぶものは我には感じんよ』


「そ、そうなんですか?」


『そうとも。それにしてもお前……』


〈白蘭〉は少し口を閉ざすと、フッと息をつく。まるで、笑みでも浮かべたような。


『随分と、大事に思われているようだな』


「え?」


『早く戻るといい。お前の様子に、心配している連中もいるようだ。安心させてやれ』


「……うん!」


真尋が元気よく返事をすると、〈白蘭〉の声と気配が遠ざかっていき、不覚に潜り込んでいた意識が浮上して行った。




ロボットから放たれる淡い光がついに消え、ふらっ……、と真尋が体を揺らして尻餅をつく。


「あいたっ!?」

「真尋っ!」


ボーッとしていた意識が、痛みによってハッキリとする。

真尋の意識が戻った様子を目撃するやいなや、猛がその場を飛び出して真尋の元に駆けつける。


「大丈夫か、おい大丈夫か!?」

「待ってお兄ちゃん。そんな大声出されると頭ガンガンするよぉ……」

「あっ……、わ、悪い」


気が動転して、気が回っていなかった猛だが、真尋がいつも通りであることを確認できると、安心すると同時に真尋に謝った。

そしてあとに続くように、柚葉と〈莉緒小隊〉も駆け寄ってくる。


「真尋、大丈夫? おかしな所はない?」

「あっ、えっと……、体は特に問題なさそうです」


ゆっくりと立ち上がり、両手を握ったり開いたり、軽く跳ねてみたりしたが、体に違和感を感じることは無かった。


「なにか、変わったことはあった?」

「……声が聞こえました」

「声って……、なんの?」


柚葉の問いかけに、真尋は顔を上げて、再度ロボットの方を見る。


「このロボットは、〈白蘭〉という名称があるらしく、知性があるみたいで、話しかけてきて……」

「それで、会話をしていた、と……」


にわかには信じ難い出来事であるが、ここまできて唯一の変化だ。疑っていては、進むものも進まない。


「なら、合格ラインは淡い光の点滅と、謎の声を聞く……、という感じに設定し直すかな。真尋ちゃん、ありがとね」

「は、はいっ」

「あと、真尋ちゃんが一人目の合格者ってことになるから、安心していいわよ」


柚葉は真尋の頭を撫でると、立ち上がってすぐに試験を再開した。

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