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第3話『試合の終わり』

更新ペース戻していくどころか遅くなりつつありすいません…

試合を終えた真那が闘技場を出ていくと、その先で仲間の二人が待ち構えていた。


「見てたわよ」

「おつかれ、真那」

「あ、遥樹、紅麗。いつの間に来てたんだね」


当たり前といえば当たり前だが、真那は観戦席の二人の姿に気がついていなかった。勿論、杏果たちのことも気がついていなかったが。


「気づいてなかったのかい?」

「遥樹もそんな馬鹿なこと言うんだね」

「ばっ……」


普段、そんなことを言われる経験が無いため、思わず絶句してしまう遥樹。別に不愉快とかそういう訳ではなく、単に衝撃的だっただけの事だ。


「仕方ないよ。よそ見できる相手じゃないもん」

「……うん、まあ」

「その通りだね。確かに、我ながららしからぬ発言をしてしまったよ」


将真がそれほどの実力をつけていることは、遥樹も見ていてなんとなく分かっていた。

おそらく彼でも、余所見をしていたら勝てないかもしれない。例え普通に戦う分にはそこまで苦労することはなくとも。


「まあでも、今の調子なら真那も予定通りに十席戦に上がってこれるでしょ」

「うん。今回はまだ大丈夫そうだよ。次も同じようにすんなり行けるかは微妙だけど」

「……それはどういう意味?」


紅麗が疑問に思うのも無理はないが、直接戦った真那は感じ取っていた。将真の尋常ならざる成長ぶりは。

学園内でも結構有名な将真の学習能力だが、傍から見るだけではいまいち分かりにくい。


「将真さんは多分、次にはブロック戦決勝まで上がってくると思うから、その時は感じかなぁ」

「何よ、私たちが負けるって言うの?」

「そうは言わないよ。遥樹は勿論、紅麗だってその気になれば学生の枠は超えてるし。問題は私だよ」


確かに真那は強い。遠距離戦に徹していれば、その実力は自警団の上位者にすら匹敵するかもしれない。

だが、接近されてしまえばせいぜいが多少優秀な魔導師という程度だ。

そして将真の作戦もまた、早々に接近戦に持ち込もうというものだった。

次に成長した将真と戦うことがあって、同じ戦法でこられたらどうだろう。

真っ直ぐ突っ込んでくるだけならばまだ何とかできるかもしれないが、絡め手でも使ってこられたら、今度こそ接近を許してしまうかもしれない。

そうなれば流石に、真那に勝ち目はない。


「だから、今回は運が良かったのかも」

「……そう」

「うん。そうかもしれないね。最近は猛や佳奈恵も力つけてきてるし、決勝も油断は禁物かな」


そう言う遥樹の口調は少し朗らかだ。

だがこれは、油断と言うよりは強者の余裕というやつだろう。

決勝と十席戦が行われるのは明日だ。立ち話も終えると、遥樹たちはそうそうにその場を立ち去り、明日に向けての準備に取り掛かるのだった。




医務室でウィンドウを開いていた莉緒は、将真の試合結果を見て苦笑いを浮かべていた。


「あちゃー、惜しかったんすけどねぇ」

「……う、ん……。あれ、莉緒ちゃん?」

「あ、リンさん、起きました?」


莉緒の声に反応したのか、将真の試合が終わったタイミングで、リンがようやく目を覚ました。

数時間も眠っていたこともあって、まだ少し寝ぼけた様子ではあるが。


「体は大丈夫っすか?」

「えっと……」


莉緒の問いかけに答えるように、リンはゆっくり体を動かして、異常がないことを示す。

それを見た莉緒は、ホッとしたように息をついた。

そしてそんな莉緒の様子に、リンは気を失う前のことを思い出した。


「あー、そっか……。やっぱりボクは、負けちゃったんだね」

「ま、まあそうっすけど……。でも、惜しい試合だったと思うっすよ?」


落ち込む様子を見せるリンを前に、取り繕うように慌てる莉緒だったが、実際は惜しくなどなかった。

攻撃は通らず、杏果からの攻撃はほとんど貰ってしまうような状況。

策は全て無駄となり、最後は杏果に一撃で落とされてしまった。

あれが惜しい試合だったとは、リンにはとても思えなかった。


そして、以前よりも突き放されたような実力差に、どうしてもショックを受けてしまうのは、仕方がない事だった。


「……もしかしたらボクは、このまま戦えなくなっちゃうのかな」

「リンさん、弱気になっちゃダメっすよ。絶対、そんな事はないっすから」


まあ、戦わずに済むのならば、それはそれでいい事かもしれないが。

それでも実力が伸びないどころか落ちていく事に悩む様子ならば、やはり戦える方がいいのだろう。


特に、こんな世界で生きる魔導師たちにとって。特に、こんな世界で、近い実力同士で競い合う生徒達にとって。

戦える、とても高い実力を持つというのは、存在意義にも匹敵しうるのだから。


莉緒の励ましもあまり効果は無く、俯いているリンを前に何も出来ないでいると、試合を終えて二人の様子を見に来た将真が、医務室に入ってきた。


「おっ。リン、目が覚めたんだな。全然元気そうで何より……」

「あ、将真くん、試合お疲れ様……」

「……って、訳でも無い感じ?」

「そっすねぇ」

「え!? あ、その、ご、ごめんね?」


普段、他者の感情の変化に鈍い将真ですら気づくことが出来た、その落ち込み具合を見て、将真はバツの悪そうな表情を浮かべる。

暗くなる雰囲気に、莉緒は慌ててリンの様子から話題を変えた。


「と、ところで将真さんも結構惜しかったっすよね」

「いや、一方的に滅多撃ちにあっただけなんだが……」

「まあそれでもほら……、動きとか、駆け引きとか、そういうのが良くなったんじゃないっすか?」

「そりゃ俺だって成長してるし」

「そうだよね、成長するよね。それに比べてボクは……」

「よしこの話はおしまいだ!」


再び暗くなるリンを見て、将真は両手を叩いて話を終わらせる。

とはいえ、かける言葉が見つからない。迂闊な発言はもしかしたら、リンを傷つけてしまうかもしれないから。

考えた結果、将真はある提案をした。


「次の休み、遊びに行かないか?」

「……え?」

「ちょっと将真さん、こんな時にナンパっすか?」

「ナンパじゃねーよ! 俺は至極真面目だよ! そうじゃなくて、みんなで遊びに行こうぜって話してるんだよ!」


呆れたような莉緒の物言いに講義する将真。リンはというと、唐突な提案にキョトンとしていた。


「リンの落ち込みも焦りも、全部わかるとは言わないけどさ。でも、ネガティブなままじゃ前には進めないと思うんだよ」

「えっと……、つまり?」

「切り替えろって言ったって、簡単じゃないのは分かるからな。だから、パーッと遊んで、胸の内のもやもや消し飛ばして、今回の事は次に活かせるように頑張ればいいんだよ……、って思っての提案なんだが……」

「うーん……」


将真の言いたいことは、リンもちゃんと理解していた。だが、その提案を呑むかどうかは、少し考えてしまう。

原因は不明だが、今もまだ続く弱体化。

今更どう足掻いたところで、無駄かもしれない。だが、何もしないよりは鍛錬に勤しむほうが建設的な気もする。


意見を求めるように、リンは莉緒に視線を向けた。

彼女はそれに目敏く気がつくと、少し考えるような仕草をして見せたが、すぐに口を開いた。


「自分はいいと思っすよ。思い詰めていると、視野も狭くなってくるものですし」

「そうかな?」

「少しは息抜きも大事っすよ?」


確かに、息抜きは必要かもしれない。

ただでさえ後輩達を助けに大変な任務を終えたばかりだと言うのに、その後すぐに序列戦だ。その準備があって、ゆっくり休める時間はあまりなかった。


「うん、そうだね。そうしようかな……」

「じゃあ決まりっすね。で、どこに行くんすか?」

「それはまあ……、また考えるとして」


何とも閉まらない感じで話は終わり、将真たちも学生寮の自室に戻っていった。




翌日、ブロック戦の決勝は、結局いつも通りの結果となった。

遥樹、虎生、莉緒、美緒、透、実、杏果、真那、響弥、紅麗。

この十人は、自分の小隊もまた、学年内ではトップの生徒達だ。

特に遥樹や虎生の小隊に至っては、その実績は地道に積み立てたものでありながら、三年生のトップに匹敵する程である。

そして第一中隊のメンバー内でまだ残っていた猛と佳奈恵、そして静音は、奮闘したものの、やはり中々敵うものではなかった。

猛の相手は遥樹、佳奈恵の相手は美緒、静音の相手は紅麗だったのだから、無理もないが。


そして残る十席戦だが、意外にも莉緒は4位にとどまった。

体調を考えれば、ここまで来ただけでも十分であったが、そこは流石と言うべきか。試合開始と同時に、瞬間的に〈神話憑依〉を使って勝負を決めていった。

だがそれも、莉緒の同類である虎生には通用せず、逆にうまく利用されたのだ。

そして少しとはいえ無理が祟り、美緒との試合ではそうそうにギブアップして終了した。


相変わらずほとんど順位に変動がなかったものの、1人だけずば抜けて順位が上昇した生徒もいる。

それが紅麗であった。

彼女は、一年生の時は何かと理由をつけて、十席戦では戦うことなく棄権し、学年序列十位にとどまっていた。

だが今回は、どういう心境の変化か、戦う気になったらしい。その序列は5位になり、遥樹と当たったことで負けてしまっただけなのだ。

試合を見ていた将真たちが、遥樹と当たらなければもう少し上まで行っていただろうと予想出来たのは、何もおかしなことではないのである。


ともあれ、十席戦はそれ以外には、特に大きな変化もなく、滞りなく終わりを迎えた。




そして翌日。

将真の提案で遊びに行こうとやってきたのは、第一中隊のメンバーだけではなかった。

なんと、遥樹の小隊までついてきたのである。

その理由が、将真たちが行く先を聞いて、「せっかくの機会だから」というものだった。

〈裏世界〉で遊ぶのに、せっかくの機会だからなどと言い出すはずもなく、つまり将真が考えた末に思いついたのは、〈表世界〉のレジャーランドであった。


丁度同じ顔触れで、年の変わり目に〈表世界〉へと遊びに行ったのだが、それ以来なので、大体5ヶ月と言ったところか。

たまに、というようにも思えるが、実際は〈裏世界〉の住人にしては、そこそこ頻度がある方なのだ。


ちなみに、柚葉に相談したところ、将真たちは十分すぎるほど単位が足りているので、なんなら休暇をとって学校も少し休んでもらって構わない、ということだった。

通常必要な勉学よりも、魔導師としての実績が遥かに成績として加味されるためということもあり、将真としてはあまり学校らしくないなぁという感想を抱いたのだった。




全員が集まると、柚葉の案内で二つの世界を繋ぐ転移魔法陣がある場所へ。

場所が分かっているのに柚葉の案内があるのは、下手なことをしないか、という監視の目的もあるらしい。今更ではあるが。


「よし、じゃあ遊びに行くぞ!」

『おぉー!』


年相応のテンションで楽しそうな彼らを見て、柚葉は思わず、クスッと笑みを浮かべた。

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