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第2話『VS名草真那』

先に試合があった莉緒は、医務室を出ていくと、順当にブロック戦準決勝に勝利して戻ってきた。

彼女もまた、万全の体調とは言い難い。それでもここまでやれるのだから、流石の一言しかない。

ともあれ莉緒はこれで、少なくとも学年序列二十位以内が確定したわけだ。


「お疲れ。あっさり勝ったな」

「まあそう簡単に負けはしないっすよ」


将真が片手をあげると、莉緒も同じように手を挙げてハイタッチする。

もうすぐにでも、次の試合が始まる。将真は立ち上がると、莉緒と入れ替わるように医務室を出ようとする。

その直前、莉緒に声をかけられた。


「相手は真那さんっすけど、諦めなければ可能性はあるっすよ。頑張ってください」

「当たり前だろ。ちゃんと勝ってくる」


莉緒からの激励に答えながら、将真は試合会場へと駆け出した。




試合開始まではまだ少し余裕があるものの、到着した時には既に真那が待っていた。

おそらく将真が到着する前からなのだろうが、魔法で生み出した銃を両手に、くるくると回し続けている。到着した将真に声をかけることもなく、どこか虚ろな目をしていた。

それは単に、集中していて他事に意識が向いていないだけだろうが。


将真も準備運動を始めていると、途中でアナウンスがなり始める。


『まもなく試合開始です。両者、位置に立ってください』


「うしっ、やるか」


意識を集中させ、いつでも戦闘に入れる状態にしておく。真那も、先程回していた銃を一度消して、将真をしっかりと見据えていた。


そして、カウント直後の『__試合開始』という合図と共に、将真は一気に真那との距離を詰めようと地面を蹴る。


真那は同じ状態仲間の遥樹と比べると目立たないが、その実力は学年内ではかなり有名だ。

何せ、学年最強の遥樹に勝てる可能性のある、数少ない生徒なのだから。

得意とする遠距離戦に持ち込めば、遥樹ですら近づくことは用意ではなく、距離を取り続けている限りは永遠に真那の距離で攻撃を続けられる。

しかも、火力は相当なものだ。


いくら闘技場がそこまで広くないとはいえ、うまく距離を取り続けられるようなことがあれば、将真に勝ち目がない。

接近戦に持ち込み、短期決戦というのが理想の形だ。故に、将真の行動は正しい。


だが、その作戦は真那にとって、使い古されて対応に慣れているものであり、そう簡単に接近を許してくれるはずがなかった。


接近してくる将真の目の前が、唐突に爆ぜた。

驚いて退避する将真を追いかけるように〈炎弾〉が飛んでくる。


それらも何とか躱して真那の方を見直すと、既に彼女は両手に銃を構えていた。

その形は、所謂狩猟銃と呼ばれるものであった。


「俺は獣じゃないんだけどな」

「どの道相手を狩るのには結構使えると思うけど?」


そう言うと、真那は迷わず引き金を引く。

発射された弾は勿論、魔力で作られたものだ。

真那が得意とする属性は〈火〉だが、弾丸程度のものを作るだけならば、どの属性でも使える。彼女が生成する銃は、言わば増幅器なのだ。


例えば、今発射された弾。

距離があったために何とか躱すことが出来た。だが、着弾と同時に拡散した氷がウニのように棘を伸ばし、僅かに将真を掠める。


「いって!」

「む、割と簡単に躱してくれるなぁ」


おそらく、今の一発で将真の動きを封じ込めようとしたのだろう。

無論、その程度で行動不能にされるほど弱くはないが、少なくとも隙が生まれるのは確かだ。そして立て続けに今の弾丸を打たれ続ければ、結果的に封じられるのは目に見えている。


真那は、少し頬を膨らませて不愉快そうな表情を浮かべていたが、将真が躱す可能性も勿論考えていたのだろう。

特に驚くこともなく、続けて弾丸を放つ。


今度の弾速は、速いがさっきよりはマシだった。

だが、実はそれは、真那の企みによるものだったのだ。それに気がつけなかった将真が、躊躇なく弾丸を弾き飛ばそうと剣で薙ぐ。

刀身と弾丸が接触し、弾丸に強い衝撃が与えられた瞬間、爆発を引き起こした。


「ぐあっ!?」


当然、将真は爆発に巻き込まれ、驚いたように声を上げながら後ろに吹き飛ばされて転がる。

思ったより大したダメージにはならなかったが、将真が動揺してくれただけでもよしとしよう、と真那は次の攻撃に移る。


将真もその様子は視界に入っていた。そして真那が駆け出すと同時に、将真は再び驚きを露わにする。


「なっ、速いっ!?」


そう、足が速いのだ。

莉緒や虎生には及ぶべくもないが、あの二人は例外だ。〈自警団〉の中でも速さで2人に勝てる魔導師はほとんどいないと言われているほどなのだから。

真那の速さは、生徒としては十分過ぎるほどで、身軽ですばしっこいという感じだ。


真那の間合いで、あんな動きを続けられれば、将真の攻撃がまともに当てられない。

とりあえずは、彼女の足を止めなければ始まらないのだ。


ならば、と将真は幾つも〈魔弾〉を生成し、それらを不規則なタイミングで飛ばしていく。

殆どは真那の動きを完全に捉えられずに、その近くへと着弾する。

だが、そのうち一つだけ、確実に着弾するような起動を描く〈魔弾〉が真那に迫る。

それを察知したのか、真那は急ブレーキをかけ、さらに後方へと跳ぶ。


(よしっ!)


〈魔弾〉は当たらなかったものの、今の真那は自由が利かない空中だ。

チャンス到来。

この機を逃すものかと、将真は剣の形状を刺突に特化したものへと変化させる。

そしてそれを、加減無しで投擲した。


「お、らぁっ!」


その軌道は、狙い違わず真那へと向かっていく。

流石に少し驚いたように目を見開いた真那だったが、逆に将真が驚くほど、短時間で冷静な判断をして見せた。


両手の狩猟銃は消えて、いつの間にか構えているのは、狙撃銃。

その銃口は、正面から狙うには小さい的である、将真が投擲した剣を向いていた。


(おい、まさか__)


集中力が研ぎ澄まされている事が、その表情を見るだけでわかった。同時に、背筋が凍るような悪寒と、嫌な予感も。


そしてついに、真那が引き金を引く。

放たれた弾丸は__見事、将真が投擲した剣に命中した。だが、威力が拮抗していたためか、一瞬火花を散らして留まったが、次の瞬間にはお互いの力に耐えきれずに壊れ、爆発した。


「うっそだろ、オイ!?」

「見込みが甘いよ、将真さん!」


さらに立て続けに発射された弾丸が、将真の右腕を吹き飛ばす。

そう思われた直前、将真の右腕を硬質な魔力が覆い、弾丸を防いだ。一瞬だが、〈魔王〉の力を使ったのだ。

とはいえ、流石狙撃銃と言うべきか。

相当な威力だったらしく、弾いた反動で将真は少し後ろに吹き飛ばされた。


「……見込み違いは、お互い様だろ」

「まさか。びっくりはしたけど、想定の範囲内、です」


そう言うと今度は、少しごつい二丁拳銃を生成する。そしてそれを宙に投げ出すと、更に同じように二丁拳銃を生成する。すると再び、それらを放り投げて、再び生成する。

その銃口は、今度こそ将真を向いていた。


「まだちょっとだけ余裕あるし、少し魅せる戦いでも」

「……はっ、余裕こき過ぎて、変な負け方しないでくれよ!」


諦めずに、またも正面突破にかかる将真。

正直、経験不足と才能が祟って、戦術はほとんど素人なのだ。

咄嗟の判断力には長けても、常時賢い選択ができる訳ではなく、将真の主な戦術は結局、正面突破が中心なのであった。


そんな将真に対して容赦することはなく、真那が引き金を、タイミングをずらして引いていく。

いくつかの弾丸は剣で弾き飛ばせたが、弾けなかった弾丸が将真を直撃する。


「い……ってぇ!」


だが、そこまで威力は高くないらしく、当たったところがとても痛い、程度で済んでいた。

これならまだ、強引な突破でも行けそうだ。

そう思った将真は、弾丸を気にせず真那に向かって突き進む。


「強引だね」

「こうでもしないと近づけないからな!」


先程までは、弾丸の軌道で動きを制限されていた部分もあるが、将真とて〈エクス・ブラスター〉を使って戦っているのだ。

前進すると決めれば、それなりの速さで真那へと近づいていた。


すると今度はなんと、二丁拳銃を将真に向かって投げてくる。

驚いた将真は、咄嗟に切り伏せようとするが、先程の爆発した弾丸を思い出して、その手を止める。


仕方なく後ろに跳んで回避した将真。その選択は正しかった。

どうやら直撃しなくとも任意で操作出来るらしく、将真が退避した後に少し遅れて拳銃が爆発した。


(くっそ、手榴弾の代わりのつもりか!?)


爆煙を両腕で遮りながら、次の攻撃に備える。

実はこの時、将真の位置では見えなかったが、跳躍して空中の銃を確保。それらを再び手榴弾の代わりとして爆煙の中に投げ込み、更にもう一セットの二丁拳銃を空中で掴んで、爆煙の中へと撃ち込んだ。


どこかに直撃したのだろう。

さらに二つの爆煙が上がり、撃ち込まれる銃弾のせいもあって、立ち込める煙が晴れる様子はない。




「うっわ、えげつねー……」


思わず観戦席で呟いた響弥。同じく試合を見に来ていた杏果も、その隣で表情を顰めていた。

その席には、他にもいつものメンバーが揃っていたが、静音は将真のように別会場で試合中でいない。


するとそこに、真那のチームメイトである遥樹と紅麗までやって来て、まさに勢揃いという感じだった。


「……ねぇ、遥樹」

「何かな?」


杏果の問いかけに、遥樹は横目で彼女を見返す。意識は闘技場の二人の試合に向いていたが。


「どっちが勝つと思う?」

「真那だと思うな。贔屓目ではなくね」


遥樹の率直な意見を、杏果は「まあそうだろうな」と聞きながら思っていた。

将真の成長速度は相変わらず驚異的だが、真那とて学年序列十席入を果たしている生徒だ。そして同じように成長しているわけだから、まだ追いつくには至らないだろう。

せめて遥樹と渡り合えるくらいになれば勝ち目はあるだろうが。


「僕でも真那を倒すのは少し骨が折れるからね。僕とよく似た戦闘スタイルの将真では力不足なのは目に見えているよ」

「結構、いいせん言ってるんだけどなぁ」


〈魔王〉の力を全力で使えば、或いは勝てるかもしれないが、将真その気は無い。

そしてそれは、賢明な判断だ。


確かに序列戦は、実戦も想定した試合であり、致命傷を負ったとしても、敗北判定を受けるだけだ。なので、実際に死ぬ事は無い。

実戦を想定している以上は、卑怯も何もないため、勝つためにはむしろ何でもしなくてはいけない。

そうでなくては、その時が来てしまったら、躊躇の隙に自身や仲間の身を危険に晒す事になるやもしれないから。


だが、将真の場合は、使用するだけで魔王の侵食が進んでいくというリスクを抱えている。

いずれは魔王の魂を体内から追い出すつもりでいるが、それはつまり力を手放すということでもある。

だから、〈魔王〉の力に頼りきって、いつか手放した時に戦えなくなるようでは話にならない。


まあ、咄嗟に使ってしまう時と言うのは、どうしてもあるようだが。


「……さて、そろそろ煙も晴れそうだけど、将真はまだ立っているかな?」


視界に関係なく、既に将真が戦闘不能になっているならば、試合終了の合図がなる。それがないということは、まだ将真は戦える状態であるということだろう。もちろん、遥樹はそれを分かっていて口を開いたのだが。

真那も爆煙の中に紛れてしまったので、今の攻防がどうなっているか、簡単に判別がつかないのだ。


周りが注目する中、ついに煙が晴れる。


『あっ』


その瞬間、決着が見えた。

地面に膝をついて、しゃがみこんでいる将真は、既にもう限界が近い。

まだ使いこなせていない状態で〈エクス・ブラスター〉を使い過ぎたのだ。その結果、無駄に身体に負担をかけ、限界を早めていた。

そもそも、将真が真那との試合で使っていた〈エクス・ブラスター〉の出力は、ろくに制御しきれない三十パーセントだ。


対する真那は、既に砲台を構えていた。

おそらく、先程の爆撃や弾幕で、まだ戦闘続行できる状態だった場合の将真の位置を、特定していたのだろう。

そして砲弾は、既に魔力の充填を終えて、発射準備を完了していた。




「__降参は?」


攻撃準備は既に整っている。余裕のある声音で、真那は将真に問いかけた。

対する将真は、ペース配分を誤り、既にへばっていた。このまま真那と戦える体力が残っているかと言うと、もうそんなに残されていなかった。

だからこれは、もはや意地だが、ゆっくりと立ち上がった将真は、真那に向かって笑みを浮かべる。


「降参……、するかよ!」

「わかった」


ぽつりと真那が呟く。

それと同時に真那は引き金を引いた。

砲台から、高密度の魔力が発射される。

将真は、少し慌てながらも、最後の手段に移った。これが失敗に終われば、将真の勝ちはない。


(〈エクス・ブラスター〉出力五十パーセント……!)


「〈黒断〉!」


将真の手に握られた剣が、魔力を纏って大剣のような刃を形成する。

観戦席が少しどよめく。

将真には、止められる確信があった。ここで上手くいっていれば、確実にこの一撃を防ぐことが出来る。


だが、やはり限界は限界、それもろくに制御も出来ないまま、出力を跳ねあげた。

その結果、一歩踏み込んだ瞬間、膝が崩れて自分の魔力も消滅。


「うあぁぁあぁっ!」


無防備なまま、真那の砲撃をその身に受けることになった。

決定的な一撃を受け、将真の体が浮き上がる。それを見た観戦席の遥樹たちが「ああ、やっぱりな……」というような表情を見せていた。


『__勝者、名草真那』


アナウンスは、試合終了と共に、将真に敗北を知らせていた。

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