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終焉への反抗者《レジスタンス》Ⅱ  作者: 獅子王将
おてんば娘な後輩
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第1話『無礼千万』

続編やっぱり始まったばっかだからあまり見られてないなあと思う反面、前作は意外とまだアクセス数が続いててびっくり。

入学式が終わった後は、それぞれのクラスで先生から色々と話を聞き、午前中には解散。

それが高等部1年生の、初日の流れであった。




教室を出る空が、疲れた表情で大きく伸びをした。


「う……、くあぁ……。疲れた……」

「そうだね。どこか食べに行こうか?」

「そうするー」

「にしても、なんで話聞くだけでこんなに疲れるんだろうなぁ」


陸が不思議そうに首を傾げる。


今日のところはこのまま何も無いが、明日は予定通りに一般教科と魔導過程、要は魔導師に必要な、一般的な基礎知識を筆記テストという形で執り行われる。


そして明後日からは、2日間に渡り身体能力テストと適応能力サバイバルテストがある。


序列戦はさらにその後であるため、まだ小隊としての活動はない以上、適応能力サバイバルテストの段階ではまだ、この3人も敵同士なのであった。


「陸も海も、テスト全部終わったら、小隊組むでしょ?」

「そりゃ勿論」

「必然的に僕ら3人で決まりそうだね」

「一応、空の付き人って扱いだからな俺ら」


〈日本都市〉の中でも強い力を持ち、四大貴族程ではないものの、一族として名を挙げている〈星宮家〉。

空は、そこの次期当主候補だ。候補とは言うものの、もはやほぼ確定事項なのだが。

そして、その護衛として付けられたのが、陸と海の2人だ。


孤児院にいたところを、まだ当時は小さかった空が2人を気に入って連れ回していたのだが、そういう縁があって、2人は養子として〈星宮家〉に入った。

名無しだった孤児二人がその時に貰った名前が、『陸』と『海』なのである。


「それじゃあ、さっさと行きましょう。もうすぐお昼時だし、あんまりゆっくりしてるとどこのお店も混んじゃうわ」

「そうだね」

「おうよ」


今では、傍から見ている分には、普通の兄妹にしか見えなかった。


暫く廊下を歩いていると、ふと、曲がり角の向こうから3人の生徒が現れる。

どうやら相手は先輩らしく、そして1年の校舎にいるという事は、学園長に用があったのだろう。

そして空が、そのうちの一人に気がついたかと思うと、表情がパァっと明るくなって、そのまま駆け出す。


「あっ、おいおい急にどうした……って、あぁ」

「そういう事ね」


陸と海は、顔を見合わせて苦笑すると、駆け出して先輩たちの目の前まで迫る空を早歩きで追いかけた。




ほんの数十分前。


「うん、まあ……」

「逃げられないっすよねぇ……」


始業式には結局間に合わず、校舎の前で仁王立ちしていた杏果に捕まり、仕方なく学園長室まで連行されている最中だ。


流石に、学園長に責められることは恐らくないだろうが、面倒くさいというのは変わらない。

責められるようなら、こんな時期にあんな任務を出した学園長をむしろ責めたいくらいである。


学園長室につくと、すぐに学園長の前で杏果に説教された3人だったが、苦笑していた学園長の柚葉にも、杏果の小言が飛ぶ。


「__だいたい、学園長も学園長ですよ。何でこんな時期に長期任務を入れたんですか?」

「そ、それは仕方ないじゃない。遅く見積もっても、昨日のうちには帰ってこられる計算だったのよ。私も今日帰ってくるなんて予想外だったわ」

「それこそ仕方ないだろ。そもそも指定された任務地が、本来解決すべき問題が発生してる場所とズレてたんだから」


予定通りに進まなかったからおそらくでしかないが、ちゃんと指定された場所が正確であったなら、柚葉の言う通り、遅くても昨日のうちには解決したはずだ。

それがズレていて、更に予想を上回る魔物の大量発生。これで解決できようはずもない。


「まあ私も反省しているわ。今回の事を踏まえて、今後は春休み中の任務に制限をかけないといけないわね」


それは当然、任務を受ける側だけでなく、任務を出す側にも言える事だ。


「それで、任務は解決したのよね?」

「終わるわけないだろ、いいとこ八割くらいだよ」

「何で終わってないのよ!」

「だから仕方ないだろ! 任務完了したと思って昨日帰ってる途中で、場所がズレてるって発覚したんだぞ!」

『ぐぬぬ……』

「なんで喧嘩してるんですか、落ち着いてください学園長」

「将真くんもストップ!」


世話が焼ける、とばかりに仲介に入る杏果と、慌てて将真を宥めるリン。

1ヶ月前に卒業した美空楓が今の光景を見ていたのなら、きっと思っていただろう。


デジャブ、と……。


結局、この後再び任務に出発して、完遂の後に戻ることになった。


「あ、杏果と美緒のところの小隊もついてって。将真たちだけだと少し時間かかるかもしれないし」

「はっ!?」


早期解決の為に巻き込まれる事となった、美緒小隊と杏果小隊には不憫な話だが。




学園長室を出てすぐ、杏果は文句を言いながらも、自分の小隊仲間2人と美緒小隊を呼びに行くと言って先に駆けていった。

響弥と静音はどうしたのかと気になって聞いてみた将真だったが、仲のいい友人で小隊仲間とはいえ、四六時中ずっと一緒にいるわけではないと言われては納得するしかない。

杏果にはむしろ、


「あなたたち3人がくっついて行動し過ぎなのよ」


と言われたくらいである。


とりあえず、第1中隊メンバーで今回の任務は改めて行われることになったので、みんなの準備が整うまではゆっくりしていられそうだった。


将真たちは将真たちで、ゆっくり2年生の校舎に戻ろうと歩いていたのだが、曲がり角を曲がったところで、誰かが物凄い勢いでこちらに向かってくることに気がついて、思わず警戒心を露わにする。

だがもちろん、こんなところに魔族や危険な魔導師がいるはずもなく、突っ込んで来たのは1人の女生徒だった。


そう。突っ込んで来たのである。

リンに向かって。


「リン先輩__!」

「はぐぅっ」


強烈なタックルを食らったリンが、衝撃に耐えかねて呻き声を漏らした。

そのまま足がもつれて、リンは尻餅をつく。

だが、少女は構わずリンの上に乗っかったまま、ハイテンションである。


「リン先輩、覚えてますか? 空です!」

「え……、あっ。空ちゃん!?」


どうやらリンは、空というこの女生徒を知っているようだが、将真と莉緒は状況を飲み込めないでいた。

そこに、更に2人の男子生徒が駆け寄ってくる。どうやら、空を追いかけてきたようだ。


「先輩方、空が迷惑かけてすいません」

「いや、リンならともかく、俺たちは別に迷惑かけられたわけじゃないし」

「ところで、えっと……、空さんだったっすかね。リンさんと知り合いなんすか?」

「当然です。私はリン先輩のこと、尊敬してますから!」

「まあ知ってるって意味では、1年生の大半は先輩たちのこと知ってると思うっす」


片方の少年が同意する。

その口調は莉緒に似ていたが、おそらく体育系何だろうと大して気にすることは無かった。


「そんなに俺ら有名か?」

「そりゃそっすよ! 何回も高難易度任務をクリアしている先輩たち……、第1中隊のことは、みんなの憧れっすよ!」

「いや、遥樹たちの方が実績は上だと思うんだが……」

「確かにあの人たちは強いし実績はありますけど、高難易度の任務をいくつも完遂したという話は聞いてないので、多分積み重ねだと」

「まあどうせ、片桐先輩は足引っ張ってたんでしょうけど!」

「やけに敵愾心向けてくるなお前……」


先ほどからリンの上に乗っかったままこちらを睨む空に、少しうんざりする将真。


「そういえば、お前ら名前は?」

「あ、名乗ってませんでしたね。これは失礼しました。俺は星宮海ほしみやかいです」

「俺は星宮陸ほしみやりくっす。それでこの生意気なのが……」

「あなたに名乗るような義理はないわ!」

「えっと……、将真くん、この子は星宮空ほしみやそらちゃんっていって、ボクの中等部時代の後輩なんだけど……」

「なんだけど?」

「ボクにもよく分からないんだけど、懐かれちゃって」


ああ、と将真は逆に妙に納得していた。

かっこいいかはともかく、こう見えてリンはカリスマ性のようなものがある。

杏果のような信者臭い友人もいるし、友人はあまり多くないが、他生徒は何気にリンに畏敬の念が少なからずあったりもするくらいだ。

別にリンは、人付き合いが得意というわけでもなく、何が周りにそういう感情を抱かせるのかはわからないのだが。


「というか片桐先輩、リン先輩をそんないやらしい目で見ないでください!」

「見てねーよ!」


空のあんまりな物言いに、思わず怒鳴り返しながら、将真は昨年にも似たようなことがあったことを思い出した。


(柚姉と口論して、リンのことをいやらしい目で見るな、と言われて……。まあ、あれは杏果だったけど)


あの時のことを考えると、今は杏果と一応友人としてやって行けているから、そう考えると自分で意外に思うが、1年も仲間として共に戦っていたら、そんなものなのかもしれない。

とはいえ、あの時杏果にも感じた事だが、


(ウザイ……!)


「何ですかそんな目で見て。あんまり見ないでくださいリン先輩が妊娠したらどうするんですか」

「するわけないだろ!」

「ちょっとした冗談にそこまで怒鳴ることないじゃないですか大人気ない」


(こいつ……!)


将真は確信した。空は杏果を軽く凌駕するウザさだと。将真が顔をひきつらせていると、未だに空の下敷きになったままのリンが、困ったように口を開く。


「えっと、空ちゃん。ボクの上から退いてくれるとありがたいんだけど……」

「ダメです、片桐先輩は危険ですから!」

「おい。……で、本音は?」

「リン先輩とくっついていたいからに決まってるじゃないですかあいたっ!」


調子づいて我欲を隠そうともしない空の頭に、陸から軽く手刀が振り下ろされた。

頭を抑えた空が、そのまま陸を睨もうと顔をあげようとするが、その前に陸が、空の首根っこを掴んで持ち上げる。

少し慣れてきたとはいえ、こうも簡単に軽々と人を持ち上げる光景は未だに少し驚く将真であった。


「ちょっと、何するのよ、離して!」

「いや、流石に失礼が過ぎるっての。しかも仲良くて理解のある先輩ならまだしも、まだ初対面だろうが」

「初対面じゃないわ!」

「リン先輩は、だろ」

「片桐先輩、うちの空が失礼ばかりでほんとすいません」

「……まあ、別にいいけど」


空に呆れたような表情を向ける陸と、頭を下げる海をみて、将真も少し冷静になった。

確かに空の態度は失礼極まりないが、別に先輩後輩の上下関係に対して口うるさく言うつもりはないし、後輩の無礼に、いつまでも腹を立てるつもりもなかった。


そしてすぐに拘束から逃れた空は、ゆっくり立ち上がったリンの手を取って、満面の笑みを浮かべて言った。


「リン先輩、今度の序列戦、見に来てくださいね!」

「え? あ、そっか1年生はもうすぐだったっけ」

「はい! 絶対1位になりますから!」

「また随分大それたことを……」

「いや将真さん、案外そうでもないっすよ?」

「え?」


自信満々にトップをとると宣言する空に呆れたため息をついた将真だったが、以外にも莉緒からの否定に驚きを見せる。


「〈星宮家〉っていうのは、自分とこの〈鬼嶋家〉同様、かなり力のある一族で、中でもそこの3人は、次期当主候補とその側近って感じらしいっすからね」

「……マジか」


わざわざ自分の一族の名前を持ち出してまで嘘はつかないだろう。つまり莉緒の言っていることは真実だということになる。

ただ、この少女の性格や態度のせいで、次期当主候補などという扱いには見えないだけで。

信じられないというような表情をしている将真に、空が首を向けたかと思うと、ビシッと指を刺してくる。


「片桐先輩も見に来るといいですよ。私の実力、見せてあげますから!」

「はいはい、もう分かったから」

「あっ、ちょっ、引っ張らないでっ!」

「それじゃぁすいません先輩方。俺たちはこれで失礼します」

「あ、ああ……」


海と陸が頭を下げると、空を引き摺って去っていった。そして、色々と引っ掻き回してくれた後輩達が去ったのを認識すると、ハッと気を取り戻す将真たち。


「リン、大丈夫だったか?」

「うん。ただやっぱり、空ちゃん嫌いじゃないけど、あんまり近くにはいたくないかなぁ」

「確かに鬱陶しいやつだったけど、お前のことは慕ってるみたいだし、そこまで言うことは……」

「あ、ううん。そうじゃなくて、あの子発育いいから、身長低いボクと並ぶと、ボクが更に小さく見えちゃって……」

「発育が?」


リンに言われて、少し空の容姿を思い出してみる。

そして確かに、リンよりも少し背が高買ったのを思い出した。

ただ、陸と海の身長が将真くらいはあって、気がついていなかっただけである。

だが、ある一部を思い出して、ふと視線を落とした将真の口から、ポロリと本音が漏れる。


「発育……、いいのか?」

「……将真くん。今どこ見て言ったのかな?」

「……あ。いや、違うんだ!」


無意識にリンの胸に向けてしまっていた視線に気が付かれ、リンが胸元を腕で隠しながらジト目で将真を見た。

リンより確かに身長があった空は、だが背の割に胸が膨らんでいるリンとは違ってあまりなかった気がしたせいだった。


「……将真くんのスケベ」

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