第13話『模擬戦』
みんなでわいわい(?)試合です。
リンは、彩と模擬戦をすることになり、溢れた莉緒は、彩に頼まれて〈星宮家〉の3人と真尋、晃の計5人を面倒見る事となった。
……莉緒が1番、面倒臭そうな役割に当てられてしまっていた。
「それじゃあ、始めようか」
「は、はいっ」
よそ見をしていたリンに開始の合図を促し、リンはその声に少し肩を跳ねさせながらも、模擬戦に集中し始める。
それを横目で確認しながら、将真は少しひきつった笑みで紫闇と向き合っていた。
「本当にいいのか、俺で?」
「はい。序列は普通なのに、今まで何度も大きな事件の渦中にいて、場合によっては解決に尽力すらしたという……。私と同じ、編入組であったはずの、あなたのその異常性、直に見てみたいと思いました」
「異常性て」
自身の言われように、思わず呆れる将真だが、確かにリンがよく言われている不幸体質があるとしても、将真が大きな事件に巻き込まれ、ましてや渦中にいるなど、異常だった。
(……あっ、もしかして俺も不幸体質?)
そして、気が付きたくないことに気がついてしまったかもしれない、と内心げんなりし始める。
「多分、お前の方が強いぞ、いいのか?」
「そう簡単にやられる人だとは思ってませんよ」
「……そうかよ」
将真は諦めてため息をつくと、少し腰を下ろして構えをとる。
それを、模擬戦の了承と受け取ったか、紫闇も同じように構えをとった。
「それでは__」
「ああ。始めようぜ__!」
模擬戦開始と同時に、将真は紫闇に向かって駆け出した。
残された莉緒も、早々に1年生の相手を始めていた。
最初に飛び出してきた陸と海は、2人揃って前衛型の優秀な魔導師だ。もっとも、海は前衛以外のポジションでも動けるが。
そして2人の動きをしっかり目で捉えながら、難なく回避していく。
「ちょ、マジで当たんねぇ!」
「歴代でも最強の世代と呼ばれる今年の2年生だから、仕方ないね。しかもその中でも、高位序列者だ」
「じゃあ諦めるっすかー?」
『冗談ッ!』
勝ち目が薄い事は承知しているが、それでも陸と海は、諦める気がないようだ。それを2人の目に見て感じ取った莉緒は、ニッと笑みを浮かべた。
(貧乏くじ引いたかと思ったけど、そうでもないみたいっすね)
「陸さん、海さん、少し退いて下さぁい!」
『っ!?』
真尋の声が響き、退治していた3人は驚いてそちらを見た。すると、晃が拳を振りかぶって突進してきているのが見て取れた。
それを確認すると、真尋の指示通りに陸と海が莉緒から少し退く。
「おぉぉっ!」
「むっ……!?」
莉緒は、その攻撃を受け止めようと前に手を出したが、すぐに気がつく。
(あっ、これは受け止めたらやばいっすねー)
そう判断すると、受け止めるのはやめて回避する。
そして、顔面の横を通り過ぎる拳の威力を見て、莉緒は冷や汗を垂らしていた。
「おぉ〜……。回避にしといて正解だったっすねぇ」
「油断大敵、ですよ!」
「うごっ」
晃の攻撃を回避して一安心していた莉緒の背中に、空が飛び蹴りをかましてくる。
そこまでは回避できなかった莉緒はバランスを崩すが、立て続けに攻めに入ろうとしている陸たちを見れば、呑気に構えている余裕などない。
追撃から逃れるために、莉緒は彼らと距離を取りながら、後ろに跳んで下がる。
「き、効いてない……」
「そりゃお前、言うほど近接型じゃないしな。莉緒先輩にダメージ与えられるほどじゃなかったってことだろ」
「なんか悔しい……」
莉緒も特別丈夫なタイプではないのだから、ダメージが小さいのは詰まるところ、空の物理攻撃があまり強くないだけである。
対する莉緒は、少し気を引き締め直していた。
(むぅ、予想よりやるっすねぇ。流石に多勢に無勢か。だったら……)
調整には丁度いい、と全身に魔力を行き渡らせる。
実は、将真が言っていた〈肉体強化・肉体活性魔法〉の使用は、戦闘中の短い時間限定で、莉緒も使えるのだ。その時間を伸ばすために彼らを練習相手に使い、さらに自慢のスピードを維持する為にも、不要な時にも少しは使わなければいけない。
あまり使わないと、体が動きを忘れてしまう。
「よぅし、いくっすよ〜」
「そんなゆるい調子で何する気ですか」
「見りゃわかるっすよ__」
呆れたような空たち。
そんな彼女たちを放置して、莉緒は少し姿勢を屈める。
そして、地面を蹴り__地面スレスレを疾走する。
めにも止まらぬ速さで。
「……へっ?」
「フッ!」
「ギャッ……!」
少女があげるような悲鳴とは思えないような声を上げ、掌打を顎に受けた空は、少し宙に浮いて、地面に落ちた時には気絶していた。
「はやっ……」
「そりゃ、速さが売りっすから」
「……すぎだろ!」
空がやられたのを呆然と見ていた陸の目の前に、すぐさま莉緒が現れる。
だが、流石に目の前で莉緒の動きを見せられたばかりだ。凄まじい速度で迫り来る掌打を、陸はギリギリで回避した。
分かっていてもギリギリというのは悲しい話だが、莉緒の動きが速すぎるので、これはもう仕方がなかった。
「よっ、し……!」
「__はい残念」
「はギュッ」
苦しい姿勢だったが、即座に反撃に移ろうとする陸。その後に、超高速で回り込んだ莉緒は、首の後ろを叩いて陸の意識を刈り取った。
その光景に呆気にとられている海の視界から、莉緒が不意に消え去る。
「なっ、ど、どこに……」
「__こっちっすよぉ!」
「……う、上!?」
声がした方を仰ぐと、既に莉緒の蹴りが、海に向けられているところだった。
だが海は、持ち前の冷静さと適応力で、咄嗟に莉緒の攻撃を受け止める。そして、受け止めきれずに、少し後方へと吹き飛ばされた。
「くぁっ……!」
「これで3人……、っと!」
「させねぇですよ!」
海が一時的に行動不能になったところを確認すると、莉緒は迫っていた晃の攻撃を回避する。そうして、隙を見つければ攻撃を入れようとしていたのだが。
(おぉ、意外と戦いなれてるっていうか……、隙が少ないっすね)
将真に挑んだ紫闇と同じく、晃も編入組の生徒だったはずだが、予想を上回る実力に、莉緒は少し感心していた。
だが、晃はおそらく気づいてはいない。
事今における、彼の圧倒的弱点を。
莉緒は、その弱点をつくために、即座に動いた。
といっても、晃が振り下ろしてくる拳を、バックステップで回避して少し距離を開けただけだが、これでも致命的な一瞬だった。
そして莉緒は、即座に晃の視界から消える。
「ぐぬっ」
晃はその速さに歯噛みしつつも、何処から攻撃が来てもいいように構える。
だが、莉緒の攻撃はいつまでたっても飛んでこない。
不可解に思い、顔を上げた晃の耳に、背後から莉緒の声が届く。
「__はい、おしまいっす」
「はっ?」
その声は、少し離れて聞こえた。
晃が慌てて振り向いてみると、莉緒が、真尋の頭を掴むように手を置いていた。
咄嗟に晃が動き出そうとすると。
「おっと、動いたら真尋さんがどうなるか、分からないっすよ〜?」
「ひぇっ……」
「な、何でそんなこと……」
遅まきながら状況に気がついた真尋が悲鳴をあげ、真に受けている晃が莉緒を睨む。
その様子に呆れながら、莉緒はパッと手を離した。
「え……?」
「何でも何も、今のはそういうシュミレーション。戦えないお姫様を守りきれずに、人質にでも取られたらどうするんすかって話っすよ」
「ぐぅ……」
ぐうの音は出たが、返す言葉もないとはこの事だった。
その後、意識が戻った2人も含めて、莉緒はまとめて評価を伝えていた。
その結果に、1番悔しそうだった空が、危ない橋を渡ろうなどとは、この時誰も想像していなかったが。
開始と同時に、迷わず紫闇は地面を蹴って前進する。
踏み抜かれた地面は窪み、一瞬で距離を詰めてきた紫闇に、将真は驚きを隠せなかった。
(普通の人間の速さじゃない!?)
ここにいる時点で、普通の人間とは違うのだが、将真が言いたいのはそういうことではなかった。
魔導師にしたって、速すぎるということだ。
莉緒は例外だが、虎生ですら魔導の行使がなければ、凄く速い程度で、莉緒を上回る速度は出せない。虎生の速さは、魔導に依存した能力による神速なのだから、莉緒の身体能力による才能を生かした速さとは種類が違う。
そして紫闇の速さは、莉緒程ではないが、同じ類のものだった。
だが、反応できない訳では無い。
紫闇の、突き上げるような拳に対して、腕を交差させて受け止める構えをとる。
そして紫闇の拳は__将真の予想よりも速く、将真の顎を捉えた。
「くぉ……!」
「っ、浅い……!」
紫闇が自ずと理解した通り、将真は少し重心を後ろに退いていた。そのため、丁度威力を殺すような形での回避行動に繋がったのだ。
無論、頭を揺さぶられたのだから、全くのノーダメージとはいかない。ふらつく将真に、紫闇は容赦なく追撃を加えに行く。
将真はそれを逃げるように回避しながら、紫闇の動きについて考えを巡らせる。
(やっぱり、普通でこの動きはおかしい。多分、柚姉が言ってたあれを使えるんだろうな)
このタイミングで柚葉が呼んだのだ。それも、普通は2年生の将真に、1年生の紫闇を当てるなどまずない。実力の差が明確だからだ。
それでもあえて2人を戦わせようという柚葉の意図は__
「つまり、使えるやつの動きを見て学べってことか!」
「一人でなに言ってるんですか!」
「まあそう__気にするなよ!」
「うっ……!?」
将真が、急激な加速を見せる。
あまりにも唐突だったために、紫闇の反応が遅れた。
後輩相手に可哀想だとは思うが、将真はアッパー気味に拳を振り上げた。
「うぎっ」
「のぉっ!?」
だが、何とか目で捉えたらしく、強引に体を反らして躱す紫闇。
当たると思ってかなり勢いよく振り上げたものだから、将真の体は隙だらけだ。
「今のは、ちょっと危なかったですよ!」
「ぐふぅっ!」
体を反らしたまま、紫闇は上体を逆立てると、勢いよく足を振り上げる。
結果的に、将真は見事な蹴り上げを食らうことになり、宙に浮いた。
紫闇は、足を地面につけると、立て続けに攻撃を加えてくる。それも、お返しと言わんばかりの、容赦のないアッパーだ。
そして将真は、迫り来るアッパーを__両手で弾いた。
「うそっ」
「ちょっと、なめてかかったなぁ!」
将真と同じような形で隙が生まれた紫闇。
その間に、将真は体勢を立て直すと、先程の加速と同じように、全身に魔力を行き渡らせる。
「〈肉体強化・肉体活性魔法〉同時使用__10パーセントぉ!」
踏みつけた地面が窪み、将真の体が一気に加速して紫闇に迫っていく。
だが、その頃には紫闇も体制を立て直していた。
将真の行動を確認すると、変に固くならず、脱力した自然体で構えて、将真の攻撃を受けにきた。
(戦闘中なら加減しなくていいからな。そう簡単には躱させないぞ、紫闇!)
拳をぐっと引いて、一気に前へと突き出す。
振り抜かれた拳は、狙い通りに紫闇へと向かっていく。
だが、最後の最後で、ずっと体をずらしながら、手を使って将真の力をうまく受け流した。
(おいぃ、今のにも反応するのかよ!?)
思わず心の中で絶叫するが、もう遅い。
この魔法に関して、将真よりもずっと上手であった紫闇は、何度目かの隙だらけの将真の背中に、強烈な裏拳を打ち付け、今度こそ将真をノックアウトしたのだった。




