第10話『火を囲んで』
ようやくペース戻りました。
絵描くならSDイラストの方が描きやすいかも…
その後も〈空小隊〉、そして離れてみていたフレミアたちは、〈真尋小隊〉の行動に驚かされていた。
主に、紫闇の行動に、であるが。
海が、〈アースドラゴン〉がまだ絶命していない可能性を示唆すると、
「じゃあ確実に殺ったほうがいいわね」
「そうだね。多分首を落とせばいいと思うけど……、これだけ太い首は、簡単には落とせそうにないかな」
「ふーん……、じゃあ、こんなものかしら」
「うん?」
海が紫闇の方を振り向くと、その手に握られているのは、刃渡り2メートルには達するかという、首切り包丁。
絶句する一同を差し置いて、紫闇は〈アースドラゴン〉のそばまで歩み寄ると、その首めがけて容赦なく凶器を振り下ろす。
切断、と言うよりは叩き折るような感じで、〈アースドラゴン〉の首は易々と千切られ、今度こそ、誰の目から見てもわかるような、完全な絶命だった。
((よ、容赦ねぇ……))
まあ、魔獣相手に容赦も情けもかけてる場合ではないのだが。そんな事をしていたら、危なくなるのは自身なのだから。
その後、それぞれ回収できそうな素材をすべて回収して、今は余った龍の肉を、焚き火を使って串焼きにしているところである。
そして、〈アースドラゴン〉の首を断った紫闇はというと、パッと見では分かりにくいが、珍しく幸せそうに、次々と肉を頬張っていく。
その食べる勢いがまた、空たちを驚かせていた。
全員がゆっくり咀嚼して食べているところに、飲み込むような勢いでどんどん口に運ぶものだから、もうリスのような状態になっていて、皆、若干引き気味であった。
〈アースドラゴン〉の肉自体は、まだまだあるので別に無くなる問題は無いのだが。
こうしていると子供っぽい一面があって可愛らしいと思わなくもないが、食べる量がそれをぶち壊しにしていく。
(まあ、それも仕方の無いことなのかしらね……)
空は、紫闇の〈裏世界〉に来るまでの様子を知っていた。そして今、無理を押し通して学園長から聞き出した、紫闇の過去の話をされた時のことを思い出す。
それと同時に、その時に感じた後悔も共に呼び起こされた。
(他人の過去に、不用意に首を突っ込むもんじゃないわね。流石にこればっかりは、私が悪い……かな)
紫闇は、自分が生きていくためなら何でもする。そういう少女なのだ。
そして、紫闇が生きていくために最も必要としたもの。それが、「食」である。
食べられる時に、食べられるだけ食べる。それが紫闇のスタンスだった。
……それだけ聞くと、まるでただの食いしん坊だが。
「……ねぇ、紫闇」
「? んぐっ?」
「……とりあえず口の中のものを何とかしなさい」
流石に黙っているのも悪いと思い、紫闇の許可もなく彼女の過去を探るような真似をしたことを正直に言おうと思ったのだが、今の彼女を見ていると如何せん、緊張感が抜けていく。
紫闇はというと、少し訝しげにしながらも、空に言われた通りに従い、口の中のものを飲み込んだ。
「なに?」
その声音は冷静そのものだったが、口周りがベトベトになっているため、締りがない。
「……私、あんたに謝らないといけないことがあるの」
「謝る? 何を?」
「……一応、あんたに勝って、序列1位になったけど、それは逃げに徹していたからよ。それで、悔しくて、あんたの意味不明な強さについて、学園長を問い詰めたの」
「意味不明って……、問い詰めた?」
「ええ。そしたら、学園長は根負けして教えてくれたわ。……あなたの、ここに来るまでの話を」
空がそこまで言い切ると、不意に立ち上がった紫闇が、空の胸ぐらを掴んだ。
急変した紫闇の様子に全員が驚き、真尋があわあわと慌てふためく。
「し、紫闇ちゃん、落ち着いて、ねっ?」
「……確かにプライドが高いやつだって思ってたし、何かと突っかかってくるし、あんまり好きなタイプじゃないけど。それでも、人の過去を探るような真似をするなんて、思わなかったわ」
「……ええ、そうね。何言ってもいい訳にしか聞こえないだろうし、全面的に私が悪いわ。だから……、ごめんなさい」
勿論、空だって紫闇の過去がそこまで重いものだと考えていた訳では無い。だが、それが紫闇にとって不快だというのなら、紫闇に怒りをぶつけられるのはもっともだ。
すると意外な事に、紫闇はすぐに手を離す。意外だったものだから、何も警戒していなかった空は、お尻から地面に落ちて、打った場所を摩っていた。
「いたたた……」
「まあいいわ。知ってしまったものはしょうがないし、私が思い出したくないだけで、別に聞かれて困る訳でもないし」
「ならいいのだけど……」
じゃあそこまで怒らなくてもいいじゃん、とは、口にはしない空だった。
そして今度は、気になったのか真尋が紫闇に追求を始める。
「ねぇ。良かったら、紫闇ちゃんが〈表世界〉でどんな生活してたか、聞いてもいいかな?」
「え? 嫌だけど?」
「即答!?」
紫闇からしてみれば当然の拒絶に、真尋は大袈裟なリアクションをとる。
(さっきの話、ちゃんと聞いてたのか? 私は話したくないって、そういう雰囲気だったと思うんだけど……)
実を言うと、真尋は別にオーバーリアクションな訳ではないのだ。オツムが弱いだけである。精神年齢が実質2桁に乗っていないのだから、無理もないが。
そこに、横から空が首を突っ込む。
「勝手に話を聞いた私が言えるような事じゃないんだけど、同じ小隊の仲間には、少しくらい話してもいいんじゃない?」
「まあ、そうなったら、真尋さんも自分のことについて話さなくてはいけないと思うけどね、礼儀として」
「勿論、何でも教えるよ!」
海の助言に勢いよく頷く真尋だったが、その発言は少し危険な気がしてならない一同。
紫闇は、少し思案した様子を見せると、少し長めのため息をついた。
「はぁ……。わかったわよ。じゃあ話してあげるわ。後悔しても知らないわよ」
「う、うん……」
「な、なぁ、それって、俺も聞いて大丈夫なのか?」
「別にいいわよ。さっきも言ったけど、思い出したくないだけだし」
知られたり、聞かれたりするのは問題ない、というのが、紫闇の考えだった。まあ、聞かれれば答える時に思い出してしまうし、空のように「知った」という事を告知されれば、結局のところそこでも思い出してしまうのだが。
詰まるところ、彼女は自分の過去には、不干渉でいて欲しいのである。
だが、今後もしつこく追求されては溜まったものではない。諦めたように、紫闇は自分の過去を語り出す。
その内容を纏めると。
彼女の父親は、いわゆる「ろくでなし」な人間だったという。
酒とタバコに明け暮れ、仕事もせず、借金をしてはパチンコ店へ行き、家庭内では暴力的。
それでも紫闇の母は、頑張っていたという。借金を返そうと身を粉にする勢いで働き、父の暴力にも無言で耐えていた。
ある日、紫闇の母は亡くなった。幼い彼女と、その妹を残して。
原因は、考えられるものが多すぎて、逆に検討がつかない。だが、その考えられる原因すべての大本に、父がいるのは明確であり、紫闇は父を憎んだ。
だが、腐っても大人であり、権利を持つ父とは違い、子供である自分たちが、2人でどう生きるというのか。紫闇は、その場に留まることしか出来なかった。
そしてついに、恐れていた事態が起きる。
ストレスの捌け口を失った父は、紫闇と彼女の妹を標的にし始めた。更には妹が病気になる始末。
悔しさに地面をケリつけて__この時初めて、自分の力に気がついた。
コンクリートに、ヒビが入ったのだ。それも、予想以上に大きい。
元々入っていたヒビだとか、老朽化が進んでいたのだとか、そういう感じではなさそうだった。
不審に思った紫闇は、もう一度地面を攻撃する。今度は拳で。
するとどうだ。
殴りつけたところを中心に、地面に亀裂が入ったではないか。
もちろんコンクリートを拳で攻撃して、無事で済むはずもなく、自分の拳も傷ついていたが、紫闇は希望を見つけた気がしてむしろ喜んでいた。
後日の話になるが、その傷も数日で感知してしまったのだ。
唐突に目覚めた力に、この絶望的な状況を切り抜けられる可能性を見出し、高揚感に満たされた紫闇は、家に帰って__再び、絶望に叩き落とされた。
妹が、死んでしまったのだ。
それだけなら、どれだけ良かったことか。父は、その死んだ妹の体を陵辱し続けていた。
その光景を目撃してしまった紫闇を見て、父が襲いかかろうとする。
そこから先の記憶が、紫闇にはなかった。
気がついた時には、見るも無惨な姿になり、絶命していた父が目の前に転がっていた。
状況が理解出来ず、自分の体を見下ろすと、全身は返り血で汚れ、拳は特に酷く血に濡れていた。
紫闇は、罪には問われなかった。
理由は色々あったようだが、主に、小学生の女の子が、成人男性を素手で殺すなど、常識的に考えられなかったこと。
そして、凶器が見当たらなかったこと。
つまり、『紫闇は精神的に錯乱していて、事件の記憶が無いだけで、父親を殺したのは別の誰かだ』と、周囲は思い込んでいた。
加えて、家族を全員失ったことによる精神的なショックも危惧していたのだろう。
だが、紫闇は自分でも恐ろしいことに、そこまで大きなショックは受けていなかった。
心にぽっかり、穴が空いたような気はしていたが、それだけだった。
その後、児童養護施設に預けられた紫闇は、ある行動をとるようになった。
それは、現在異常と言われている紫闇の強さの基盤となったものだった。
〈表世界〉という、基本的に平和な世界でありながら、子供が常に争い事に身を置くような場所があるとしたら。
紫闇は、中学に上がる少し前から、不良狩りを始めていたのだ。
何らかの理由で絡まれるたびに、路地裏に連れていかれ、人目のつかないところで返り討ち。カツアゲをされようものなら、返り討ちの後に、逆にカツアゲ仕返していたりもした。
不良たちが、警察に逃げ込む可能性は、おそらくかなり低かった。逆に補導されるのが落ちだろう、そう出なくても、小学生にボロ負けなど、彼らにとっては恥でしかない。
そんな危険な生活をしているうちに、紫闇は暴走族の下っ端に手を出していたことに気がつく。
組織が、やり返しに来たからだ。
おそらく、この時に魔導師たちに目をつけられたのだろう。
無傷とは行かなかった、どころか、相応のダメージはおったものの__なんと紫闇は、暴走族をひとつ潰したのである。
流石に見かねたのか、警察が首を突っ込んできたが、そこへさらに首を突っ込んできたのは、知らない女性だった。
そしてその女性に連れられ、紫闇は〈裏世界〉へとやってきた。そう、その女性は、魔導師だったのである。
「……〈裏世界〉には無いけど、一応暴走族って言うのがなにかは知ってるわ。でも、いくら魔導師の適性があったからって、そんな幼い頃に組織ひとつ潰すなんて……」
「暴走族潰したのはここに来る少し前だから、中学三年の時よ」
「いや、それでも普通ねーよ」
いやいや、と首を横に振る晃。同じく〈表世界〉出身の晃には、その異常性がよく分かっていた。
そして真尋は__
「紫闇ちゃん……」
「な、なにっ?」
唐突に真尋が、両手で紫闇の手を握り、思わず紫闇は戸惑いの声を上げた。
次に真尋が勢いよく顔を上げた時には、目尻に涙を貯めていた。
「わ、私は絶対、見捨てないからね! 紫闇ちゃんの味方だからね!」
「見捨てられたなんて話じゃなかったでしょ、ていうか暑苦しいから離れなさいよっ!」
1人で盛り上がる真尋に、ついていけないと呆れたように、紫闇は首を降るのだった。
そうして暫くその場で時間を潰すと、遅い時間に2つの小隊は帰還した。
後ろからついてくる、フレミアたちの気配を感じながら。




