第9話『紫闇、無双』
前回の投稿が遅れ過ぎてたので、今回は早め。これでもまだペース戻しきれてない……。
前作とシリーズで統一したので、よろしくお願いします。
そして当然、〈空小隊〉の様子を隠れ見ていたフレミアたちは、目の前の光景に驚きを露にしていた。
「……何あれ、ホントに1年生?」
「あなたもだいたい変わらないでしょ」
「私はあんなに強くないですよ!」
「とても、1年生とは思えない強さだね」
いざとなったら自分たちが助けいいかなければ、と思っていたフレミアたちだが、その予想を遥かに超える強さに、自分たちの認識を恥じた。
フレミアだけなら、あの3人より遥かに強いが、レイラは勿論、唯ですら敵うかどうか。
まだ結成されて初日の〈空小隊〉だ。初見ということもあってか、〈空小隊〉の3人が〈星宮家〉であることも、フレミアたちは知らないのだった。
だが、それはともかくとして、空たちの無事と、その実力に一安心したフレミアたち。
もう〈空小隊〉もすぐに帰還するだろう。
今度こそフレミアたちは、その足を〈日本都市〉へと向けようとして、だがすぐに、その足は止まる。
こちらに迫る__正確には、〈空小隊〉に迫る魔力反応があったからだ。
1つはかなり大きいが、そのあとを追うように、そこそこ強い魔力反応が少しずつ距離を詰めている。
さらに、その後から同じくらいの魔力反応が1つと、あまり大きくはない魔力反応が1つ。
「何かくる……!」
再び茂みに身を潜めたフレミアたちは、一先ず様子を見る事に決めた。
何があっても、すぐ動けるように。
「っ!」
「海? どうかしたの?」
探索魔法を使える海は、フレミアたちと同様、近づく者の気配を感じ取っていた。
さらに少し経つと、地鳴りのようなものが耳に届いてくる。
「な、何この音……!?」
「この地鳴りで、まだ姿が見えないとか、どんだけでかいのが向かってきてんだよ!?」
「言ってる場合じゃないよ、臨戦態勢! 速度はかなり速いよ!」
3人の中で1番冷静な海の指示に従い、空は再度〈武器生成魔法〉で剣を作り、陸は大地に手をつけると、次に腕を抜いたと同時に、頑強な槌が出現した。
そして数十秒後。地響きと共に巨大な生物が飛び出してきた。
その大きさ、目測で10メートルは超える。
緑色の体を持つこの巨体は、先程のドラゴンたちの悲鳴が呼び寄せたものか。
グリーンドラゴンとは格が違う。
その二段階上位種にして、魔獣判定を受けている、〈アースドラゴン〉である。
「なんで魔獣がこんな所に!?」
「言ってる場合か! とりあえずやるしかないわ!」
向かってくる〈アースドラゴン〉を前に、空たちの武器を握る手が強くなる。
そして、接触するかと思われた直後__〈アースドラゴン〉は、空たちの真横を通り過ぎようとした。
「なっ……」
「あり?」
「にげた? どういう……」
「待てコラ、逃げんなぁ!」
『っ!?』
横を通り過ぎていこうとする〈アースドラゴン〉を目で追ったすぐあとに、〈アースドラゴン〉が来た方から少女の怒り声が響いてきて、思わず空たちはそちらを振り向く。
だが、相当な速さだったのか、空たちの目に人影だけ残して、〈アースドラゴン〉に向かっていく。
そしてその蹴りが〈アースドラゴン〉の顎を捉えて、巨体が宙を舞う。そのまま巨体が地に落ち、地響きが鳴り響いた。
「うわっ」
「おう!?」
「おっと……」
その地響きに、空たちはバランスを保てず、思わず膝をついた。
そして、〈アースドラゴン〉の意識を刈り取った少女は、宙でバランスを取りながら、猫のようにしなやかに、何事も無かったかのように着地をして。
「ったく、喧嘩売っておいて、ヤバくなったら逃げるとかふざけんじゃないわよ」
「……あんた、紫闇!?」
「は?」
空が少女に気がつき声を上げると、その少女、紫闇は空の方を振り向く。
そして、両者は目を合わせて硬直した。
さらに、紫闇が来た方から、2つの魔力反応と、少し情けない声が。
「ちょっと待てよ、紫闇!」
「紫闇ちゃん、速すぎるよぉ〜!」
「あ、晃!?」
「……と、血を吐いてた子だね」
「そ、その覚え方はやめてぇぇぇっ!」
羞恥に悶えた真尋の絶叫が、暗くなりつつある森の中に響き渡った。
「あんたたち、もしかして小隊組んだの?」
「半ば強引にだけど」
ようやく落ち着きを取り戻した両者。そうして気がついたことに、空が質問する。
「じゃあ今は任務中? もしかして、こいつの討伐?」
そう言って空が示したのは、勿論意識を刈り取られた〈アースドラゴン〉である。
確かに常軌を逸した強さではないが、仮にも魔獣の域に達している怪物だ。討伐任務のランクはCランク相当にはなるだろう。
それを、いくら優秀である晃や紫闇がいるとはいえ、編入組がいきなり挑む。到底考えられることではない。
Cランクの任務は、学生魔導師が小隊を組んだばかりの頃からでも挑むことが許されている難易度の中で、最高難易度なのだ。まだ魔導に慣れてもいない、紫闇たちのような生徒がそんな任務を受けるのは、危険なことこの上ないのである。
だが、紫闇は少し不機嫌そうに首を振る。
「そんな分けないでしょ。そもそも私は出来ることなら戦いたくもないんだから」
「はぁ?」
「こいつは突然出てきたのよ。なんかの叫び声が響いた後にね」
「あっ……」
その、『叫び声』に心当たりがある空たちは、それに気がついて声を上げる。
おそらくそれは、空たちが容赦なく叩き潰したにした〈グリーンドラゴン〉の悲鳴だろう。
それを聞いた〈アースドラゴン〉の進路上に、たまたま任務に出ていた真尋たちがいて、出くわす羽目になったという事だ。
だが、それにしても不可解な点があった。
「……ドラゴンのほう、やけに傷だらけなんだけど、その割にあんたたちは大して怪我もなさそうね?」
倒れた〈アースドラゴン〉の身体中には、無数の打撃痕と、何かで抉られたような痕跡がこれまた無数に残っていた。
これだけの傷を負わせたのだから、さぞ激しい戦闘だったのではと考えられるのだが、戦っていたはずの真尋たちに、大した怪我はない。
唯一怪我が目立つ紫闇も、せいぜいが擦り傷程度だった。
すると、これもまた否定された。
ただし、今度は真尋が否定し、晃からは驚愕せざるを得ないような真実を聞かされる。
「えっと、実は私、全く戦ってないの。まず足手纏いにしかならないし……」
「俺も、自分と真尋を守るので精一杯でな。このデカいのをやったのは全部紫闇なんだ」
『…………は、はあぁぁぁっ!?』
「な、何よ……!?」
思わず大声を上げる空たち。勿論目の前にいた紫闇は、いきなりの事に驚いていた。
だが、空たちの驚きはその比ではない。
「そんなに驚くこと? 私にもできるんだから、あんたらにもできるでしょ?」
「驚くわよ、出来るわけないでしょ!」
いや、もちろん不可能ではない。
だが、今の実力で、大した準備もなく、単独で魔獣に挑もうなど、命知らずもいいところだ。
無論、空たちの実力であれば、将来的には……、具体的に、早くて半年もすれば、魔獣の単独撃破は十分可能だ。
だが、今は無理である。それなりの準備をしていても、単独撃破で行くなら相当時間がかかるだろうし、ハードな戦闘になるだろう。
そして、今年の1年で最も優秀と言われていた、星宮兄妹ができないことを、何でもないことのようにやってのけた紫闇。
〈序列戦〉の時から薄々感じていたことだったが、改めて空たちは再認識した。
まだ〈裏世界〉にきて日の浅い紫闇は、やはりそこまで魔導を使いこなしている訳では無い。
だが、戦闘、特に近接戦闘においては、間違いなく紫闇は1年最強だ。
いや、その才能を考えれば、1年生の枠に留まるような強さではない。
今年の1年生から、学園序列十席入りを果たした者はいなかった。
だがそれは、空が学年序列で1位をとったからだ。紫闇に、僅かに当てた攻撃分のポイントを守り、逃げに徹した事によって。
では、空が紫闇に敗北し、紫闇が1位になっていたらどうだっただろうか。
そうなっていたら。
(そうなってたら、紫闇が学園序列入りを果たしている可能性はあった。十分に……!)
前回の〈序列戦〉といい、今回の〈アースドラゴン〉といい、経験の差をひっくり返すような才能を見せつけられ、空は悔しがる。
下だと思って、半ば見下している節があったくらいであったはずが、実は相手は見上げるような位置にいたのだから、無理もない。
そんな空の心境を知る由もなく、紫闇が張り詰めた雰囲気を緩めると、呑気なことを口にした。
「そういえばさ。……こいつ倒したはいいけど、食べたりとかできないの?」
「……そんなことも知らないの?」
「知らないわよ。そもそも任務出る気すらなかった私が、下調べですらしてるわけがないじゃない」
嫌味な言い方をする空だが、紫闇は大して気にした様子もないどころか、開き直ったような言い方でむしろ空を苛立たせる。
(その実力で、やる気なしとか、腹立つわねほんと……!)
獣のような唸り声をあげる空を置いて、海が気前よく丁寧に解説を始める。
「勿論、食べられるよ。ただ、魔獣クラスの龍種となると、高級食材だからね」
「へぇ、高級食材……」
「と言っても、そうとんでもなくレアな訳では無いんだけどね。それに、皮や牙、爪、骨なんかは武器の素材になるし、ほかの部位をとっても、貴重な素材ばかりだから、龍種は綺麗に倒せたら素材の宝庫なんだよ。勿論、魔獣クラスに達していれば、だけどね」
興味が無いと言っておきながら、思いの外、真面目に話を聞いている紫闇。
だが、海は気づいていた。紫闇が、『高級食材』という単語に、一瞬妙に反応していた事に。
「……食べてみるかい?」
「!」
この時、紫闇の表情が、初めて年相応に緩んだ。
すぐに気を取り直して表情を元に戻した紫闇だったが、少し考えるような仕草を見せたあと、こくこくと頷いた。
表情が元に戻ったのは、どうやら恥ずかしくて引っ込めた訳では無いようだった。
「いいのかよ? 今からだと結構暗くなるぞ?」
「うーん、まあ、いいんじゃないかな。幸いにも、どこかの誰かが見守ってくれてるようだし」
「……え? まさか、誰かに見られて!?」
「うん。でも大丈夫。多分敵ではないよ」
海の言う通り、見ていたのはフレミアたちなのだから、敵ではない。
唯が海の結界に気がついたのは、実は1度触れてしまっていたからだった。
そして星宮兄妹の会話が聞こえていた唯たちが、自分たちの存在が筒抜けになっていることに驚きを隠せないでいたが、そこまでは星宮兄妹たちも知る由がなかった。
ともあれ、急遽決まったキャンプの準備を、各々でし始めるのだった。




