1話
『たかがゲーム。されどゲーム。』この言葉はLierを開発した興梠謙三の言葉である。
いったいどれ程の人がこの言葉の本当の意味を理解できたであろうか。
今でも多くの人が興梠のゲームに対する熱意を語ったものだと信じてやまない。
しかし、実際に彼の言葉を体験してみると嫌でもその意味が理解できてしまう。
ーー『死』というとてつもなく重い代償と引き換えに。
『初クリア者には1000万ドルを贈呈する』この異様な謳い文句と共に世に発信されたフルダイブ型MMOのLier。
興梠の最高傑作であるこのゲームは彼の言葉そのものを体現していると言っても過言ではない。
これまでに公式より発信された情報は発売前に公開された三分間のPV映像のみ。
そのたったの三分間の映像と莫大な賞金に心を奪われ一年間でおよそ二万にも及ぶ尊い命が失われた。
この尊い命達が失われた原因の一つに完璧な情報統制がある。
興梠自らが開発したプログラムを用いて実行されている情報統制は人類史上最高の出来である。
ゲーム発売から一年程経つがPV上に出ている以上の情報が何一つ出て来ていない。
これまでにLierにログインをして生還した者は誰一人としていないからである。
ゲームに一度ログインしたら最後、2度と陽の光を浴びることはできない。たった2つの方法を除いて。
公式の発表ではないがログアウトするには、『ゲームオーバー』つまりはゲームの世界で死を経験する、もしくはゲームをクリアする事のみ。
しかし、このゲームでのゲームオーバーは即ち現実世界での死を意味するので実際のところ1つと言っていいだろう。
このとても重要な情報でさえ世の中で認知され始めたのは二月程前のことである。
今日ネット上では数多のLier攻略サイトが開かれ日々議論が行われているが、彼等は所詮誰かが流した虚偽の情報で盛り上がっているにすぎない。
しかし、それらが本当に虚偽であると気付いた時にはすでにゲームの中にいるだろう。