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力の無いおはなし  作者: 椥桁
4/5

二-二

 再開した学校は驚くほど普段通りだった。


 他のクラスの人たちは何があったのか知らないから当然だろう。

 あたしのクラスもいつも通りだった。

 いつも通り、イジメが行われている。

 最初にイジメの標的にされていた人達が、蜜原蜂野の取り巻きをイジメていた。

 あたしと違って、普通の人は恨みを簡単に消せない。やり返すチャンスがあればそれを逃すわけがないだろう。


 一緒にイジメないかと誘われたけど断った。

 あたしは蜜原蜂野の取り巻きということにされ、またあたしはイジメの標的になった。


 彼女が刺していった針は本当に大きい。

 抜くのが大変そうだった。


 まずはあたしに狙いが定められた。

 何の成長も感じられない選択だと思う。

 あたしには何も効かない。

 何をされても平気だった。


 そんなあたしに飽きたのか、恐れをなしたのか、イジメられることはなくなった。

 ただし、それだけでイジメが根絶できたわけじゃない。

 次の対象が決まるとまた新たなイジメが始まる。


 あたしはその子を助けようとした。

 とにかくイジメから庇った。

 助けているのにその子からもバケモノ扱いされて、その子のストレスの捌け口となった。


 それでも庇い続けた。

 痛みを感じないあたしに邪魔されるのはおもしろくなかったのか、それともバケモノの友達に手を出す勇気がないのか、イジメの標的は別の人へ移っていった。


 二人目を助け始めた頃、ようやく感情が落ち着き気持ちの整理がついた一人目の子から、感謝と、これまでの行為の謝罪の言葉を貰った。

 あたしは黙ってその手を握ることしかできなかった。


 あたしでも誰かを救うことができた。

 まだ一人だけだけど、心の中に確かな自信が生まれた。


 きっとあたしの顔は嬉しさと喜びでぐしゃぐしゃだったのだろう。

 クスリと可笑しそうに笑われて、あたしもなんだか楽しくなって。

 しばらくの間、二人は微笑み続けた。


 今イジメの対象になっている子は、やはり最初の子と同じように、どれだけ助けてもあたしを拒絶し続けた。

 その助けがもう一人増えたことであたしは信頼を得たのだろう。

 伸ばした手を掴み返してくれた。

 これで堂々と一緒にいることができる。


 常に三人で行動していると、イジメの対象が切り替えられた。

 今度は三人で助ける。

 またイジメられる人が変わる。

 次は四人で。

 また変わる。

 五人。

 変わる。

 六人。

 あたしの味方は着々と増えていった。


 十人を超える頃にはもう、あたしがその場にいなくても、皆が前に出るだけでイジメが止まるようになっていた。

 イジメに怯えていた後輩達も、あたしを慕って付いてきてくれるようになった。


 人数が増えると、皆赤い腕章を巻き始めた。

 それは、イジメに立ち向かう意思の表明であり。

 また同時に、あたしの仲間であることを一目で証明するものであり。

 確実にあたし達の権勢を見せつけるものであった。


 気が付けば、あたし達はイジメっ子たちの人数をゆうに超えていた。怖れをなしたイジメっ子たちは身内同士でイジメを始めた。

 それすらもあたし達は助けた。


 最後の人は逃げるようにあたし達に謝ってきた。よっぽど怖かったのだろう。

 これでこの学校のイジメはなくなった。

 支配は圧倒的な恐怖の下で。あたしというバケモノの恐怖で。


 蜜原蜂野が刺した毒は、あたしの更に強い毒で上書きしてやった。


 そう思っていたのに。

 誰かから、たぶん後輩の、それも複数人から、赤いジャージにマスクを着けて走り回る姿はまるでヒーローみたいだった、なんて感激された。


 あたしはバケモノではなくヒーローになっていた。


 言われて見れば、たしかに物語の主人公みたいだな、なんて自画自賛しちゃって。

 少し照れくさくて。

 既に三年生の三学期も終わる頃だった。


 後輩に、最後くらいちゃんと制服を着てくださいと怒られ、サイズの近い人のものを貸してもらった。

 卒業式が終わったあと、何人もの生徒や先生があたしのために涙を流してくれているのが嬉しくて、あたしも声を上げて泣いた。

 ようやく、蜜原蜂野の棘があたしからも抜けた。

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