今日から僕は 96
「アメちゃんの実験部隊か。所在地はネバダの砂漠っと。そう言えば叔父貴が捕虜になってたのもネバタの砂漠かなんかだったろ?」
要は思い出したようにそう言った。
「察しがわるいぜ要坊。まあ拡大して文章読んでみりゃすぐ分かるがこいつは俺のデータを基に作られた人工的法術師養成部隊だぜ。まあアメちゃん風に言うなら魔法学校か?」
薄ら笑いを浮かべながらそう口にする嵯峨の姿が、誠には少しばかり自虐的に見えた。
「つまりその部隊の実戦投入阻止の為に今回の事件をでっち上げたと言うわけですか?」
カウラは真剣だった。誠は身を寄せてくるカウラを背中に感じていた。
『ほんとにペッタンコなんだな』
誠は話題についていけず、口にすれば張り倒されるような言葉が浮かんできて苦笑いを浮かべたが、すぐ要が鋭い視線を投げてくるので無意味に口をパクパクさせてごまかす。
「だったら叔父貴よ。何でこの事件をぶつけたんだ?南部諸島や外惑星系にゃあもっと破裂寸前の爆弾が埋まってるだろ?デモンストレーションとしてはそちらの方が効果的なんじゃないのか?」
そんな問いに下卑た笑いを浮かべて嵯峨は答えた。
「天秤はな。計るものを置いた位置によってバランスが狂うもんだ。確かに他にも遼州星系には火種なんざ店を広げるくらいあるわな。だが、今回は火種そのものが問題じゃない。俺の顔が使えて、法術に関心がある列強が顔をそろえた舞台での作戦実行と言うことになると近藤資金は一番だったと言うことだ」
この人はこんな笑いしか出来なかったのか?嵯峨の浮かべる笑顔が妙に誠の心に引っかかった。
突然内線が鳴った。
「神前の。隊長居るか?」
礼服姿の明石の姿がモニターに浮かんだ。
「タコか。すまんねいつもこんな仕事ばかり頼んで」
嵯峨はタバコをふかす、横でにらんでいるカウラとヨハン。
しかし、不敵な笑みを浮かべる嵯峨はまるで気にする様子は無い。
「気にせんでください、オヤッサン。ワシはこのためにいるんですから」
「じゃあ忠さんにヨロシク」
モニターが消え、再びアメリカの機密文書に切り替わる。
「隊長!忠さんて……」
「そんなことも知らんのか?新入りはこれだから……」
「仕方が無いだろ要。神前少尉、胡州第三艦隊提督、赤松忠満中将のことだ。隊長とは……」
「胡州の西園寺家に養子に入った時からの幼馴染でね。高等予科の同期の桜だ。まあ忠さんに言わせりゃあ腐れ縁って答えるかも知れんがな」
これまで見たことの無い緊張感がありながら穏やかとでも言うべき表情を浮かべた嵯峨の姿がそこにあった。




