今日から僕は 95
「いい推理だな!それでこそ俺の姪っ子と言うものだ!正解!正解!大正解っと」
急に扉が開き、嵯峨が入り込んできた。
「隊長。一応この部屋禁煙なんですが……」
ヨハンは胸のポケットに手をやろうとした嵯峨に向けてそう言った。
「そうかい。で、オメエ達は俺が何しようとしてるか知りたいわけだろ?」
別に誰に話しかけると言うわけでもなく中空に言葉を発しながら、嵯峨は手近な所に会った端末を操作している。
「まあねえ、俺もこんな派手なデモンストレーションはしたくなかったんだがな。臭いものには蓋をした上で縄で縛って海に沈めるのが俺の性分だが……これで隊長権限のパスワードを入力してっと」
全員の視線がモニターに注がれた。
まず東和の現行の軍組織図と警察組織図が映し出される。
「叔父貴。何が言いてえんだ?」
要がわざわざそんな図面を引っ張ってきた嵯峨に噛み付いた。
「焦りなさんな、物事には順序ってのがあるんだぜ?これが現行の東和の実力執行部隊の組織図って事は、まあこの業界にいる人間には周知のことだ。それが今回の騒動が終わるとこうなる」
嵯峨がキーを弾くと図面が瞬時に入れ替わり軍の機動部隊が一挙に減り、警察部隊に飲み込まれた。
そして同盟直属の遊撃部隊の欄が新たに書き加えられている。
「おい、叔父貴。なんだってこうなるって言えるんだ?」
「俺は一応一国の皇帝やってたことがあるんだぜ?反対勢力の切り崩し方なんざ朝飯前だ。ちょっとした魔法を使えば簡単に……」
「叔父貴。またあれか?スキャンダルでもつかんで脅しでもかけたのか?」
「人聞きの悪いこと言うなよ。ちょっとした世間話をしたら分かってくれただけだ。まあ今回の件ではかなり借りが多くなっちまったがな」
平然と政府関係者に脅しをかけたことを認める嵯峨の目が実に生き生きとしているので、誠は半分呆れながら話を聞いていた。
「まあこの組織図は全部俺がお偉いさんに出した仮の奴だからこうなるとは限らんがな。まあこの体勢の実現に向けて一つ段階を踏まにゃあならん」
「地球諸国に対しての法術の軍事使用の一方的停止宣言。そういうことですか?」
黙っていたカウラがそう切り出した。
それまでニヤついていた嵯峨の口元が一瞬で引き締まる。
「鋭いねえベルガー大尉殿は」
薄ら笑いを返しながら、嵯峨はそう口にした。
「何やかや言いながら政治の世界じゃ力と金が全てだ。まあ俺はどちらも好きじゃねえがな」
また胸のポケットに手をやろうとする嵯峨だが、ヨハンが見ているので手を出せずにまた端末を動かして、今度は条文のようなものの映る画面に切り替えた。
「声明文の試案か?用意がいいねえ」
要が皮肉たっぷりにそう言って笑う。
「俺はサービス精神の塊だからな。ついでに祝いの酒樽でも贈ろうか?って兄貴に言ったらどやされたよ」
「当たり前だ!」
今度は要がポケットのタバコを手に取ろうとしてヨハンに睨まれた。
「力があることを示しつつ、その力の行使の放棄を宣言する。有利なうちに相手を交渉のテーブルに着かせる。外交での駆け引きの基本だ」
「別にそりゃ外交だけじゃないだろ。一応、やり手と評判の叔父貴のことだ。ぶう垂れてくる連中の弱みを使ってゆする。いつか刺されるぜ」
要の皮肉も嵯峨が相手では通用しない。
「一応はな。今頃、ホットライン上での同盟最高会議が行われていて、俺の提出した案件に関して審議しているとこだが、まあ西モスレムがごねるだろうが通るだろうね。それでももめるようならこのカードを切る」
さらに端末を操作して英語で表記された文書を表示させた。
明らかにアメリカの公文書であることが分かるようなその文書に全員の視線が釘付けになった。
「それってアメリカ陸軍の秘密文書じゃないですか?しかも最高機密クラスの」
誠でもそう分かる文書。
要の視線は題字に引き付けられていた。
「第、423、実験、魔法大隊?」
「名前聞くと、なんだかなあと言う気分になるねえ。お前等ほうきで空でも飛ぶんかいと突っ込んじゃったよ俺は」
ヨハンが眼を逸らした隙に素早くタバコに火をつけながら嵯峨はそう漏らした。




