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今日から僕は 92

「別にどう言い換えてもかまわない。魔法、超能力。そういった方面がオカルトとして扱われている分野の話だ、地球人の常識から言えば理解の範囲外の言葉だからな。法術と言う名称は同盟機構軍上層部の決めた名称。つまりただの記号でしかない」 

 誠にはそんなマリアの言葉が殆ど聞こえていなかった。

 自分がそんなものを使えるということなど実感したことはまるで無かった。

 普通に都立高校の体育教師の父と道場当主の母のもとに生まれ、平和な東和でごく普通に暮らし、ごく普通に剣術を習い、野球や勉強に打ち込んできたただの東和軍の幹部候補生。

「こいつが法術使いだって?笑わせんな!あんな自爆技同然の力がこいつにあるってのか?」

「自爆技?」 

 そう口を開いた誠の前に、自分の言葉の意味を知って当惑する要の姿があった。

「東モスレムなんかの自爆テロを起こす連中のことだ。報道管制がかかってるから少尉は知らないかもしれないが、多くの自爆テロでは自らの体を水蒸気爆発させる能力を持った法術師による犯行が70%を占めている」

 カウラはそう言うと番茶を飲んだ。

「この業界じゃ常識だぜ。覚えておきな」 

 カウラの言葉を継いで、静かに要がつぶやいた。

「先の大戦以降。いや、遼南の女帝ムジャンタ・ラスバの治世が崩壊してからと言うもの、彼等に対する管理は殆ど行われていない。力を持つと分かったものは単純な自爆の方法を教えられた後、多くがテロに使用される。素手で数百キロの爆弾と同じ破壊力を実現できる能力となれば当然だ。要も言ったように自爆テロ要員としてはこれほど適した才能はない。ちょっとした自己暗示さえ施せばコストもかからず、タイミングさえ間違わなければ疑われることもなく標的に近づくことができる」 

「遼南の東モスレム自治州、ベルルカン、大麗。私が知っているだけでも法術使いの自爆テロは百件を下らない」 

 冷たく言い放ったカウラ。誠の心は凍りつく。

「人間爆弾ですか……僕は」 

 マリアがうなだれる誠の肩を支える。

「自爆的な法術の使用は一番簡単に行えるものだ。しかし、それを応用できれば兵士としてはきわめて有能な存在となる。カウラにも隠していたが、私も多少だが法術を使えるんだ」 

 声をかけられたカウラは唖然としていた。

 要、そして警備部の要員もマリアの真剣な表情にひきつけられた。

「神前少尉ほどではないよ。単純な空間干渉能力があるだけだ。百メートル半径の空間に軽度の干渉をすることができる。またそのテリトリーでの思念会話や思念解読が可能だ」 

「いわゆるテレパシーみたいなものですか?でも僕はそんなこと出来ませんよ」 

「それはお前が力を引き出す意思が無いからだ。私の力は貴様に比べると明らかに落ちる。だが私はある機関でその為の特殊訓練を受けたことがある。隊長に見せてもらったデータでは貴様の能力の適正はシン大尉のそれに近いようだがな」 

「まあアタシも与太話程度には聞いたことがあるぜ。あの旦那がパイロキネシストだって噂だろ?」 

 開き直ったとでも言うように足を組みなおした要がそう言った。

「その噂は正確ではないな。それに私が知っているのは広域空間干渉能力と、菱川のラボで研究中の思念誘導型エネルギー兵器の実験にシン大尉がかかわっているという事実だけだ」 

「広域空間干渉能力?思念誘導型エネルギー兵器?」 

「そのあたりの専門家はシュぺルター中尉だ。時間が有るなら聞いてみるがいい」 

 それだけ言ってマリアはカレーを食べ始めた。

「オメエが爆弾人間とは……今、爆発するんじゃねえぞ」 

「西園寺!そんなこと言うもんじゃない!神前少尉。後でヨハンのところで詳細を聞けばいいじゃないか。お前がどんな能力を持っているか、私は楽しみだ」 

「そうですか……」 

 カウラの慰めを受けてもあまり気は晴れなかった。誠はただ漠然とした不安を感じながらコップの水を食道に流し込んだ。



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