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今日から僕は 9

「この前の慣らしの時のか?」 

 明石はゆっくりとそう尋ねた。サングラスで目つきは読めないが誠もそれなりに真剣に明石が画面を見ている事はわかった。

「まあねえ、お前らにも分かるようにちゃんとモニター画面風に作ってやったんだから感謝しろよ」 

 吉田はマイペースにそう言った。そこで明石はふと思い出したようにつぶやいた。

「外出中って、車か?貴様免停中じゃないのか?」

 その言葉を聞いて誠は唖然として明石の顔を見つめた。 

「それはなあ……テメエがオヤジに告げ口したからだろ?それに……」 

「はいはい、おとなしくしててねえ・・・あんたが暴れるとハンドル取られるんだから。」 

 うって変わったお気楽な女性の声が響く。その声を聞いたとたん、それまで吉田に乱暴な言葉を浴びせていた明石の表情が急に緊張したものに変化した。

「許大佐でありますか?」 

 スピーカーからの言葉だと言うのに、明石の背筋が急に伸びる。放っておけば敬礼でもしかねない。誠は思わず噴出すところだった。

「そう。上豊川のラボまで用があるって言ったら乗せてけっていうわけ。義体のメンテと髪型何とかしろって事でしょ?」 

 先ほどの女王様然とした明華の姿を思い出していた。あの人にモノを頼めると言うことはやはり吉田と言う人物は大物だ。誠は少し吉田のことを見直していた。

「だって隊長に顔を合わせるたびにあんな顔されてみろよ。そのうちノイローゼになるぜ。それより画面動かして良いか?」 

 吉田はその言葉とともに演習場を映し出しているモニターの中が動き出した。

 画面を見つめる誠。画面のセンサー表示がすばやく入れ替わる。教育部隊のシミュレータの動きとはまるで違う見るものの追随を許さないほどの素早い画面転換。そして警戒音が響くと同時にロックオンゲージが画面の全面を埋め尽くした。

「なんですか!これは!」 

 誠は思わず叫んだ。明石は興味深げに画面を除き見ながら淡々と言葉を選ぶようにして話し始めた。

「吉田のは相手の動作パターン蓄積から数百手先まで読んでロックオンかけるんじゃ。さらに一発一発の反動や、各パターンの誤差等が全て計算に入るからこんな画面になるんじゃろ。まあワシも前の97式特機改での模擬戦じゃ吉田に近づけたことも無いからのう」 

 画面の中を白銀の機体が通り抜ける。ライフルの模擬弾が発射される。

 白銀の機体はそのすべてを紙一重でかわして障害物に消える。ロックオン表示が消え、センサー類にエラー表示が並んだ。

「全弾回避ですか?しかもチャフばら撒いてセンサーエラー?相手は誰なんですか?」

 誠がこれまで見たことも無いような機体動作。赤外線探知に切り替わった暗い画面を見つめながら誠は息を飲んでいた。 

「ああ、あの色は決まっとるだろ?遼南で二人しかいない騎士の称号を持つ御仁以外に誰がいる?」

 誠の頭にハンガーで見た白い機体が浮かんだ。 

「ナンバルゲニア中尉……?」 

 あの小学生みたいなちびっ子が操縦しているとは思えない老獪な動きだった。モニターの吉田の機体もロックオンされたアラームが鳴ると同時に市街地のビルの残骸が次から次へと回転する。誠はめまいを感じながら画面に見入った。

「なんじゃ、ワシはまだあれは本気でぶん回しちゃおらんが、結構動けるもんじゃのう」

 すっかり明石はパイロットの顔になって画面を見つめていた。

「まあねえ。といってもこっちは限界性能で動いてるんだ。シャムの奴がどうしてよけてるのかわからねえけどよ」

 吉田は淡々とそう答えた。背後に熱源を示すセンサーが点灯し、次の瞬間イルミネート・被撃墜の表示が並んだ。

「ワレは本当にシャムには相性悪いな。なんでだ?どのスペックだって上なんだろ?それにワシもカウラも西園寺もワレ相手に一度も180秒持ったことないんだぞ?」

 確かに吉田の狙いはすべて正確に着弾予想地点に命中していた。それを紙一重でかわしたシャムの動きが異常なのだと思えなくも無いが、05式のシミュレータでもシャムのあの動きが出来るなどとはこの画像を見た今でも誠には信じられなかった。 

「そんなのこっちが聞きたいわ。まああいつはなに考えてるか分かるようで分からん奴だからな。でも勝ち方はあるぜ」

 きっと得意げな笑みでも浮かべているんだろう。

「あの『あっUFO!』って奴か?」

 明石はあきれたようにそう尋ねる。明石はずれたサングラスをかけなおした。

「あのー、そんな手に引っかかるんですか?」 

 渋い表情の明石に誠が尋ねる。次第にこの部屋のきつすぎる冷房が身にしみたようで、明石は貧乏ゆすりを始めていた。

「新入り。あいつがいかに頭の中が幼稚園だってこの部屋に入れば分かるだろ?あいつ単純だからこれまで百パーセントの確率で引っかかってるんだぜ」

 スピーカーから響く吉田の声。そんなものなのか。いま一つ納得できない誠だが、次々に訪れた常識に外れた現象を目にしてきた誠にはとりあえず事実は事実として受け入れようという寛容な心が生まれていた。

「ああ、着いたわ。それじゃあちょっくら義体のチェックしてくるわ、それと新入り。今その話題の人がお前の荷物をロッカーで……ってまあ雑談はこれくらいにしてと。うわ!隣で大佐殿が怖い顔で見てるよ。じゃあ後で」

 吉田はそういうと通信を切った。

 吉田が途中で言葉を切ったロッカーの話。そこで荷物をシャムに預けたことを思い出した誠は、次第に顔の血が引いていくのが分かった。



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