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今日から僕は 87

 既に第三装備保管室の前には行列が出来ていた。

 火器整備班員が各隊員に拳銃とライフル、そして各種の装備品と弾薬を配布している。

「あまり緊張感が無いですね」 

「それはあの隊長の資質によるものだろう。あの人を止められる人間など、この部隊にいないな」 

 誠は正直何を話したら良いのか分からなくなっていた。

 あのゲルパルトの千年帝国を目論んだ指導部が鳴り物入りで戦線に投入すべく開発したクローン兵士。

 そんな彼女達でも多くはリアナやアイシャのように人生を楽しむようなことも出来る。

 実際、東和軍の中で見たカウラの妹とでも呼ぶべき人々もそれなりに取り付くべき所があった。

 しかし、カウラにはそれが無い。

 明石が彼女を野球部に誘ったのはそんな気遣いからなんだろうか?誠は黙ったまま保管室の開け放たれた扉を見つめているカウラを見ていた。

「なんだ?」 

「いいえ、なんでもないです」 

 また沈黙が二人を包む。

 銃器の支給を待つ列の合い間を抜けて歩くガンベルトを腰に巻く隊員を多く見かけるようになった所で、ようやく二人は保管室に入れた。

「ベルガー大尉はこいつですよね。それとこれがガンベルト。ライフルと装備品なんかはどうしますか?」 

 拳銃を受け取ったカウラは慣れた手つきで弾の装填の終わったマガジン二本を受け取ると、すばやくそれを叩き込みスライドを引き、素早くデコッキングレバーでハンマーを落とす。

「大丈夫ですよ。シグザウエルP226。ガンスミス嵯峨の特注モデルですから」 

「そうだな。隊長の趣味のおかげで保安隊での作戦行動時に銃のトラブルは皆無だからな」 

 カウラは受け取ったレッグホルスターを右足の太ももに巻くと、マガジンを刺した銃を入れた。

「それにしても神前……」 

「………」 

「お前、要人略取任務でもやるのか?」 

 無理も無かった。

 22口径の競技用銃。その昔ベトナム戦争時にCIAが工作活動に使用した銃だということはこれが自分用だと決まった時に調べた。

「あくまで護身用だ。銃口を向ければ相手もこの銃の威力までは分からないはずだ」 

 カウラは彼女なりに気遣ってくれているのはよく分かる。

「いいから下さい」 

 まあどうでもいいというように、キムが銃とガンベルトを渡した。

「神前。そいつの弾丸はまだ手配中だったから、弾はワンケースしかないぞ」 

「いいです。どうせ撃っても当たりませんから。それより、その後ろの巨大なリボルバーはなんですか?」 

 一刻も早く自分の話題から逃れたい一心で、誠は銀色に光る巨大なシリンダーを持ったリボルバーを指差した。

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