今日から僕は 86
「よかったな、新入り。早速テメエが望んでた『実戦』て奴だ」
要が誠の肩を叩く。
「甲二種出動ってなんですか?」
「おいおい、冗談きついぜ。一応ウチの規則関連の書類は目を通したんだろ?」
そう言うと要はズボンからくしゃくしゃになったタバコの箱を取り出すが、カウラの視線を感じてそれを引っ込める。
「神前少尉。甲種出動とは、アサルト・モジュールの出動を含む実効戦力での戦闘行為を許される出動だ。その中で一種は保安隊が対応可能な全ての処置をとることが出来る。二種はこの艦の主砲の使用制限や同盟法での各種の制限等を受ける出動のことだ」
「つまりアイシャ達が走っていったのはこの艦を戦闘速度まで加速させることと、二種限定の戦術プログラムのチェックなんかのためだなあ。まあどうせ吉田の電卓野郎が全部済ませてると思うけどな。一応、確認作業でもするんだろ」
「そうなんですか。僕は何かすることありますか?」
誠は額の辺りに汗が滲んできているのを感じた。
実戦である。未だ05式の実機を運用したことのない自分に何が出来るだろう。
そう思いながら、表情を変えない二人の上官を見つめていた。
「甲種出動の際は常に拳銃の携帯が義務付けられている。それと……」
カウラの視線が黒いタンクトップを着ている要の方に向かった。
「甲種出動の待機時は04式作業着の着用が義務付けられていて……」
「へいへい分かりましたよ。小隊長殿には逆らえませんからねえ」
そう言うと要は鮭定食のトレーを持ってカウンターに向かう。
「拳銃の受領はどこで行うんですか?」
「ハンガーの手前の第三装備保管室だ。技術部、火器整備班のキム少尉が担当だからとりあえず出かけるとするか。西園寺はちゃんと着替えてからにしろ」
「へいへい。まあその前に一服させてもらうぜ」
要は手に握られたままのタバコの箱から一本タバコを取り出すと、それをくわえて食堂から出て行った。
ようやく番茶を飲んで一息した誠は、カウラが立ち上がるのにあわせて席を立つとその後に続いてトレーをカウンターに戻した。
「こっちだ。着いて来い」
そう言うとカウラは誠を連れてエレベーターの所まで行き、下るボタンを押した。
「意外と緊張していないようだな」
そう言って微笑むカウラ。
「そんなことは無いですよ。実際、冷や汗かいてますから」
「誰でも緊張するものだ。隠す必要などない。別に神前は戦うために作られたわけじゃないだろ?私達のように」
そう言うカウラの眼にうっすらと影が浮かぶ。
「でも誰かが止めないといけないんですから」
「そうだな。誰かが戦わなければならない。私はそのために存在しているようなものだからな」
自嘲の笑いとでも呼ぶべきものが、カウラの頬に浮かんでいた。
誠は何も言えずに開いたエレベーターにカウラに続いて入った。




