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85/167

今日から僕は 85

「いつも思っているんだが、一体どこにあれだけのものが入るんだ?」 

 カウラは要がやかんから手を離すと、それを奪い取って自分の湯飲みに茶を注ぎながらそう言った。

「保安隊の七不思議って殆ど全てシャムちゃん絡みだもんね」 

「七不思議?なんだそりゃ?」 

 いかにも今考えたようなアイシャのフレーズに要が突っ込む。

「でもまあ一番はなぜ隊長が隊長でいられるかって事だけどね」 

「そうだよなあ。あの人格破綻者が隊長でいるっていうのは無茶があるなあ」 

 番茶を飲みながらアイシャにそう切りかえす要。

 カウラは何か言いたげに誠の方に視線を送る。

「そう言えば、神前の剣道道場にしょっちゅう叔父貴が出入りしてるって話だが、やっぱり叔父貴、あんな感じなのか?」 

 別に答える必要なんかどこにもないとでも言う風につぶやく。

「僕は野球部の練習と大学の実験なんかの都合で殆ど家には帰りませんでしたから」 

「そうか。大学の硬式野球部だと寮とかあるとか?」 

「まあそうですね。地方出身者優先でしたけど休憩室には自宅組みも入り浸ってましたから。休みの時は殆ど宿舎で寝泊りしてましたし、研究室の実験が殆ど一日がかりのものばっかりで、そうなると帰るのが面倒で後輩の下宿とかで寝泊りしてましたから」 

 誠はそう言ったとたん、どこからとも無くきらりと光る視線を感じた。

 アイシャだ。

「でも、アイシャさんの想像に答えるようなことしていませんよ!一応、僕ノーマルなので」

「つまんないの!」 

 彼女は落ち込んだように、よくかき混ぜた納豆をご飯に丁寧に乗せた。

「ご馳走さま!」 

 シャムの叫び声で全員がその皿を見つめる。

 タレが少し残っているくらいで、肉も付け合せの野菜もその上から消えて無くなっていた。

「シャム。オメエ全部食ったのか?」 

 恐る恐る要がそうたずねた。

「うん!もうおなか一杯!」 

「そうか……良かったな」 

 全員の声を代弁するかのような要の言葉が残った。

 突然スピーカーからマイクを叩くような音が響いた。

『あー、あー、あー。えーとなんだったっけ?』 

 嵯峨の緊張感と言うものをどこかに忘れてきたというような調子の声が響く。 

『明華。そんな怖い顔で見るなよ、気が小さいんだからさ。さて、よし。じゃあ吉田。頼むわ』 

『隊長!逃げるんですか!』 

 明華の甲高い声が響く。

 ゴツンと音が響いたのは明華に向かって嵯峨が謝ろうとして、マイクに頭を強打したからだろう。

『言えばいいんだろ!ったく誰が隊長かわかりゃしねえよ。えーと。東都標準時9:00時を持って同盟最高会議司法長官名義で甲二種出動命令が出ました。各員は班長及び所属部署の上長の指示に従い作戦行動準備に取り掛かること。繰り返すぞ……』 

 誠は聞きなれない出動命令と言う言葉に呆然としていた。

「なるほど。二種か。……二種ねえ」 

 要は何度かその言葉を繰り返した。

 アイシャ達は明らかにピッチを変えて、食事を胃の中に流し込み始める。

 シャムは関係ないとでも言うように満足げに天井を見上げていた。

 カウラは一口で湯飲みの番茶を飲み干すと食器を返すべく急ぎ足でカウンターへ向かった。

 誠は嵯峨の言葉を引き金にして動き出した彼等の態度をどう判断すべきか迷っていた。



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