今日から僕は 84
これまで経験したことの無いような頭痛。
そして平衡感覚がつかめないのはまだアルコールが抜けていないせいだろうか?
食堂までの道のりがこんなに遠いとは。
そう思いながら、軽いもので朝食を済まそうと自動ドアを開けた。
待機任務中の整備班員や警備部の面々でそれなりに混雑した食堂。
誠はカードを出して食券販売機の前に立つ。
そこに横槍を入れるように透き通るような白い手が先にカードを挿入する。
「たまにはお姉さんに奢らせなさいよ」
またアイシャである。
「好きなの食べていいのよ」
いつものいたずらっぽい視線が誠を捕らえている。
「すいません。じゃあ納豆定食で」
アイシャの笑みがさらに広がる。
「要ちゃん!神前君も納豆好きだって!」
「なんだと!新入り!テメエ裏切りやがったな!」
すでに鮭定食を食べ終わろうとしている要が叫ぶ。
誠がそちらの方を見ると、サラとパーラ、それにシャムが朝食に手をつけていた。
「私も納豆定食っと。やっぱり朝食は納豆に味噌汁よね」
そう言うとアイシャは誠から見てもはっきりと要の視界から誠をかばうように、カウンターへ向けて歩き出した。
「納豆好きなんですか?」
「アタシが製造されて始めてレーション以外で食べたこういう食事が納豆だったのよ。本当にこんなに味覚があるってことが人生を楽しくするなんて知らなかった頃だったわ。さすが東和の食事は銀河一よね」
「信用するんじゃねえぞ!ゲルパルトの人造兵士工廠を制圧したのは遼北軍だ。中華料理は出たかも知れんが、納豆なんて無いはずだぞ!」
「良いじゃないの要ちゃん。それくらい印象が深いと言うことよ」
要の茶々を無視して定食を受け取ったアイシャはそのまま要の隣、シャムの真向かいの席に着いた。
成り行きでその隣に腰をかけた誠はシャムの前に置かれた、2kgはあるだろう巨大な肉の塊を見つけて凍りついた。
「シャムさん?もしかしてそれ全部食べるつもりですか?」
「食べる時に食べないといけないんだよ!」
シャムはそう言うと巨大な肉の塊にナイフを突き立てる。
「それ以前にあんなメニューありましたっけ?」
「ああ、こいつは猟友会の助っ人で猪狩りとかしてるからそん時の肉でも持ってきてたんじゃないのか?」
要が食事を終えて、テーブルの中央にドッカと置かれたやかんから番茶を注ぎながらそう答えた。
「そうじゃなくて、僕が言いたいのはこんなに食べれるんですかと」
「じゃあ見てりゃあ良いじゃねえか」
ようやく機嫌が直った要が楽しそうにつぶやく。
その目の前では明らかに大きすぎる肉塊をすさまじい勢いで無理やり口に押し込んでいるシャムの姿があった。




