今日から僕は 83
「叔父貴よう。話は済んだのか?」
呼ばれてきた要が遊びの途中で食事に呼ばれた子供のような口調で切り出した。
「まああれだ。お前にゃあもったいないほど出来た後輩だってことはよく分かった」
「そりゃあねえよ叔父貴!」
嵯峨の一言に天を仰ぐ要。
一方、そんな言葉を軽く無視するように杯を重ねる嵯峨。
「要ちゃん!とりあえず食べようよ!」
「シャムの言うとおりだぞ!とりあえず食えるときに食っとけ。それも仕事のうちだ」
「言われなくてもそうするよ」
要はそう言うとせっせと鉄板の上の料理を盛り分けていたアイシャから皿を受け取った。
しかし、その中身を見るとすぐにアイシャに突き返した。
「アイシャ!テメエ、アタシに恨みでもあんのか?」
「あらどうしたの?要ちゃん」
「ピーマンだらけじゃねえか!アタシがピーマン嫌いだって知っててやってんだろ!」
「ちゃんとバランスよく食べないと、その巨乳が維持できないでしょ?」
箸にワザとピーマンだけをより分けて拾ったアイシャは、それを要の手の中の皿に盛り付けた。
二人の間に緊張した空気が流れる。
「じゃあ、アタシが食べるの!」
空気を察してか、それとも野生の勘がなせる業か、シャムが要の皿からピーマンをより分け始めた。
「神前!オメエも取れ!」
「西園寺さん。実は僕もピーマンあんまり好きじゃないんです」
誠は不安を抱えたまま要と眼も合わさずにそう答えた。
少し間をおいて、罵られるかと思いつつ要の顔を見ると、そこには満面の笑顔があった。
「聞いたか?アイシャ!神前とアタシはピーマンを憎む同志なんだ。お前やシャムのようにピーマンを好む人間とは一線を画してるんだ。分かるか?神前!やっぱオメエ気に入ったよ!じゃあこれを飲め!」
要は誰も手をつけようとしていなかったテキーラの瓶を手に取ると栓を抜いた。
「それって結構きついですよね?」
「ああ、アルコール度数40パーセントだ」
「飲まなきゃだめですか?」
「アタシと同志であると言う所を見せるにはこれを飲み干さないとな」
据わった眼で見つめてくる要を前に、自然に後ずさる誠。
「西園寺!また神前少尉を潰すつもりか!」
それまでハンガーの隅で烏龍茶を飲んでいたカウラが、要の腕を握っていた。
「いつだってアタシは潰すつもりなんか無いぜ?ただこいつが勝手に潰れてるだけだ」
そんな要の声を聞いた所までは、誠も覚えていた。不意に暗転する世界。
『またやっちまった』
そんな独り言が頭の中で回転している。




