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今日から僕は 82

 嵯峨、明華、明石、リアナ、マリア、アイシャ。

 それぞれの視線が吉田に向けて注がれる。

 しかし、吉田は彼等の問いに答えようとせず箸を進めていた。

「なるほどねえ、まだ動くに動けんと言うわけか。しかし、あれだな。今回の一件で一番美味しい思いをしている奴がいるねえ。わざわざ俺の手でかかわらないで済む口実を与えてもらった当事者。そして……」 

 誠は目の前に見たことが無いような真剣な視線を送る嵯峨を見ていた。

「こいつの力に一番関心を持ち、いかなる犠牲を払ってもそれを手に入れたいと思っている連中」 

「アメリカですか?」 

 その誠の口から発せられた言葉を聞いて、吉田は思わず笑いをこぼしていた。

「いい勘しとるなあ。そんじゃあワシがオヤッサンに進言しようとしとることもわかるか?」

 からからと笑いながら明石がそう言った。

「僕にどんな力があるか知りませんが、全てを知りうるだけの諜報網と、この一件を収拾するだけの軍事力、政治力を持つのはアメリカだけでしょう。となれば、同盟会議に圧力をかけることも簡単に出来るんじゃないですか?いえ、そんなことまでしなくとも近藤中佐の活動を内偵するくらいのことはやっていたはずです」 

「だろうなあ。じゃあどうやってどこにその情報を使うと思う?大統領の任期も半年を切った。ことは起こしたくないのが本音だ。手を汚さずに済む為には確実に俺達にお鉢が回ってくるように仕向けなきゃならねえんだぞ?」 

 からかうようにして嵯峨が口を挟む。

「今回『自由と民主主義の拡大』という大義をアメリカと共有しているのは胡州ですからね。他国の介入によって近藤一派を駆逐することは簡単ですが、そのことは民意で政権を維持している西園寺内閣にとっては致命的なダメージになりかねない。かと言って下手に自国軍で鎮圧に乗り出せば近藤シンパの活動の口実を与え、悪くすれば西園寺首相は寝首をかかれる可能性すらある。胡州民主化の象徴死すとなれば、不安定な政情の大麗、ゲルパルトが政策転換を図る可能性もある」 

「なるほどねえ。俺もいい部下を持ったもんだ。ただそれだけじゃあアメちゃんはたぶん動いてくれないぜ。別に俺達が近藤一派の前でかんかん能を踊った所で腹は痛まないんだから」 

 笑っている。

 誠は自分がこんな状況に置かれて笑っていることに気がついた。

「もう一つ手土産を用意するんです。よく分かりませんが僕の力とやらを出せば……」 

 嵯峨はゆっくりと猪口を傾けると、手酌で飲み始める。

「そうだな。俺の次にお前さんに目をつけたのがアメちゃんだ。俺と吉田の解説付きの戦闘データをプレゼントするなんて言ったら土下座でも何でもするだろうな」 

「隊長、その線で行って見ますか?」 

 皿を置いた吉田が立ち上がった。

 嵯峨は頷く。そそくさと吉田はハンガーから出て行った。

「自分で言っといてなんですが、僕の力ってなんなんですか?」 

「それは……なんだ……。俺、文系だからねえ」

 猪口を傾けながら嵯峨はじっと徳利を見ていた。

 アイシャが気を利かせて新しい徳利を持ってくる。

 嵯峨はそれを受け取るとまた手酌でやり始めた。

「それをお前が知っちゃうとそれに頼るようになるからねえ。力はあれば良いと言うもんじゃない。それを支えるだけの意思と倫理観が必要だ。少なくともどちらもお前にゃ縁遠いな。そのうち嫌だって言っても分かるようになるだろうけど」 

 嵯峨はそれだけ言うとまだクレーンの操作盤のところでじゃれているシャムたちを手招きした。



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