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今日から僕は 8

 ドアが開かれると誠はそのまま凍りついたような表情を浮かべて明石を見つめた。

「ここ、軍の組織ですよね?」

 正面を見つめたまま動けない誠はそのまま明石にそう言った。 

「保安隊は同盟司法局の実働部隊だから軍とは言えんぞ」

 明石は先ほどまでの怒りを静めて淡々とそう言った。 

「ですがまあ組織としては軍と同じですよね?」 

 誠の言葉が微妙にかすれていた。

「まあ同盟諸国の軍人上がりが多くを占めとるのう。まあ軍組織と言ってもいいんじゃろうなあ」

 明石は答えるのもばかばかしいと言うように左手の人差し指で耳の穴を掃除している。 

「じゃああそこの奥においてある『銀河戦隊ギャラクシアン』第三十五話で、ギャラクシーピンクに惚れて味方になろうとしてガルス将軍に自爆させられた、怪人クラウラーの着ぐるみが置いてあるのはなぜですか?」 

 訴えるようにして誠は明石の腕にすがりついた。呆れるを通り越してもう泣きたい、そんな表情で誠は明石の腕にすがりついた。うっとおしいと言うように明石は誠を振りほどくと何事もないとでも言うようにコンピュータルームに入った。

「ワシに言うな!んなこと。第一、そんな細かい設定よく出てくるのう。やっぱりワレはうちの隊向きじゃ。あれはな、シャムの奴がどうしてもこの部屋入りたがらんから、仕方なくあれを着せて中に押し込む時に使うんじゃ。あのアホ、あれ着とれば安心してこの部屋に入るけ。それとよう見てみい、ちゃんと手のところは開いとるじゃろ?あれで管理部の書類とか作る時に使うんじゃ。まあ殆どは吉田が代打ちしとるがのう」 

 誠はようやく落ち着いたというように明石に続いて恐る恐る部屋に入った。それ以外にも怪獣のフィギュア、見覚えのあるアニメのぬいぐるみ、作りかけのプラモ、それらが18禁女性向け同人誌や、銃器のカタログや、野球の専門誌の間に置かれている。誠は改めて自分がとんでもないところに来てしまったと後悔していた。

「こんなにしてて誰か文句を言う人はいないんですか?」

 呆れたように中央のテーブルに散らかっているそれらの雑誌をかき集めながら誠がつぶやいた。 

「いやあ、ここは冷房が効いてるけ、ワシも野球見たりする時はここ使っとるぞ。それに片付かないことに関しては究極の部屋、隊長室があるけ。いつか見ることになるだろうが、あそこはたぶんこの部屋の数倍むちゃくちゃになっとるぞ。おかげで月に一度は茜お嬢さんが来て掃除していきなさる」 

 そう言うとまた明石は野球雑誌を手にしてぱらぱらとページをめくっていた。

「茜お嬢さんって……」 

 とりあえず雑誌を纏め終わった誠はそのまま野球雑誌を熟読しそうな勢いの明石をこの場に引き止めるために声をかけた。

「隊長の双子のお嬢さんのお姉さんのほうじゃ。東都で弁護士やってなさる。あの嵯峨楓少佐の姉さんじゃ」 

 明石はそう言うと、手にしていた雑誌を誠が纏めた雑誌の束の上に乗せた。

「ああ、あの……」 

 誠はそこで声を詰まらせた。明石がそう言うのには、胡州海軍の教導隊のエースと言う以外の意味のことをさしているのだろうということも、誠から見ればこの個性が暴走している部隊では容易く察しられた。

「わかっとる。同僚の胸揉んで有名になったあの嵯峨楓少佐じゃ。まあうちに一回来たときは結構な見ものじゃったけ。まあまた来なさることがあったらお前も見とくとええわ」

 そう言うと明石はようやく仕事に目覚めたと言うように一つの端末に手をやった。

「とりあえずこいつにパスワードとか打ち込んどけ。あんまりお前の趣味に走ったの入れると後で吉田にからかわれるけ、そこんとこ少しは考えていれろや」 

 誠は椅子に座るとキーボードの位置を置き換えた。そして手馴れたようにRX78−2とパスワードを設定した。明石は何も気づいていないというようにぼんやりと束の上に置いてある野球雑誌を手にとって読み始めた。

「とりあえず入力終わりましたけど……」

 誠の言葉にしばらく反応しなかった明石だが、じっと彼を見つめる誠の視線に気付いたのか、再び雑誌を束の上に乗せた。 

「ああ……吉田の……後は頼むわ」 

 そう言うと明石は誠の隣の端末の椅子を引っ張って隣に座る。

「まあねえ、外出中で情報に枝がつくと面倒だから後で設定しとくわ。それよりとりあえずこれでも見ててくれ」

 吉田の外部からの操作で端末が切り替わる。映されているのは演習場と思われる瓦礫の山が広がる光景だった。明石はその急変を察知してさらに椅子を動かして端末へ身を乗り出した。



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