今日から僕は 79
「ちゃん!ちゃん!ちゃーんの、すったか、たったったー!飲んでー飲めない酒はなしー!じゃあ島田正人曹長!日本酒、中ジョッキ一気!行かせていただきます!」
「技術部の根性見せたれー!」
「整備班副長の実力思い知れー!」
ハンガーは完全に出来上がった技術部、運用部、警備部の連中に仕切られていた。
「ほれ!はれ!はれ!ほれ!ひれ!はれ!飲めや!はい!一気!一気!一気!」
誠から見ても間違ったベクトルで動き出す保安隊員。
しかし、誠の目には別の存在が映っていた。
一気騒ぎで盛り上がっている集団の隙を突いて、シャムと要が鮭が一匹丸ごと置かれているバーベキューセットを三つ占領している。
要は得意げに遅れてきた誠に自分の戦果を見せようとして、誠がある光景に眼を奪われていることに気づいた。
「おい新入り!何見てんだ?」
呆然と立ち尽くしている誠に要はいぶかしげに尋ねた。
「あれ……と言うか、あの人何をしているんでしょう?」
誠が指差す先には、簀巻きにされて天井からクレーンで吊るされている技術兵がいた。
「あれか?やっぱ珍しいか?」
「そりゃそうですよ!誰も助けないんですか?」
「何言ってるの?彼は今回の宇宙のたびの生贄に自ら志願した奇特な人よ!みんなでちゃんと成仏させてあげましょう!」
誠の大声に気づいたのか、アイシャが抱きついてくる。
「なんですか?アイシャさん!それより、あの人助けないと……って、あの人、誰です?」
「なに?知らずに命乞いしてたの?あれは鎗田司郎曹長。女の敵よ!」
「は?」
猿轡を噛まされて吊るされている鎗田が、必死に事情を知らない誠に向かって全身でアピールする。
「アイシャの。いい加減許してやらんのか?あの馬鹿」
「いいえ!パーラの純情をもてあそんだ罪は決して消えません!パーラが許すと言うまで……」
「アタシは別にもうどうだって良いんだけど……」
「分かっているわよ、パーラ。あなたはそう言いながら、かつての思いから立ち直ろうとしているのね!でもそんなあなたの暗い過去を、明るい未来へと昇華させるためには生贄が必要なのよ!」
「アイシャ。アタシをからかってんじゃないの?」
「ああ!友情を守るためならアタシは鬼にだってなるわ!」
「いいから人の話を聞け!」
一人で盛り上がっているアイシャを、パーラは思わず怒鳴りつける。
「酷いわ!パーラちゃん!せっかくの私の友情を……」
「もう良いわ。いい加減降ろしなさいよ、あれっ……て、要とシャム!クレーンぶん回すの止めなさいよ!」
いつの間にかクレーンの操作盤で哀れな生贄をぶん回している要とシャムに、パーラは思わず声を上げていた。




