今日から僕は 78
「喧嘩か?とりあえずやめとけや」
明石はにらみ合う要とカウラの間に割って入った。
「要の、酒ならハンガーでいくらでも飲めるぞ。オヤッサンがちゃんちゃん焼きの準備が出来たから来いつうとる。早よせえや」
「ご馳走?ねえそれってご馳走?」
シャムが眼を輝かせながら吉田に尋ねる。
「旬の沖取り鮭がメインだって言うからそうなんじゃねえのか?」
「おい、タコ中酒飲めるってホントか?朝まで飲んでも何も言わねえな?」
「西園寺!貴様朝まで飲むつもりなのか?」
シャム、要、カウラが一斉に話し掛けてきたため、うんざりした顔で明石は誠の顔を見た。
「あの、いいですか?」
誠はおずおずと手を挙げる。
「何じゃ?」
「一応待機状態ですよね?今は」
「それがどうした?」
明石はまったく理解できないという風に誠の顔を穴が開きそうなほど凝視する。
「そんな時に飲み会って……」
「まあなんだばれなきゃ良いんじゃ。ここはそういうところで、それがワシ等の流儀なんじゃけ。まあ郷に入ればなんとやらと言うこっちゃ」
「はあ……」
誠は釈然としないまま飛び出していくシャムの後に続いた。
それを捕まえようと走り出した吉田が不意に止まった。
何かを確認するように天井を見上げた後、低い笑い声を立てて笑い始めた。
「気持ちの悪い奴よのう。なんかあったんか?」
「大丈夫?俊平?」
あまり気持ちのよくない笑い声を立てる吉田に、シャムと明石が話しかけた。
「また馬鹿が動いたぜ」
全員の空気が固まる。
堂々と酒が飲めると沸き立っていた要の瞳が鋭くなったのが誠にも分かった。
「どこが動いた?」
敵を目の前にしたときのように、要の口調は明らかに厳しい。
「特務憲兵隊。隊長に言われて軍幹部と近藤中佐の愉快な世間話をリークしてやったら、早速軍本部付きの将官三名をしょっ引いたってよ。まったくオヤッサンの下にいると退屈しないぜ」
「ワレがリークした通信は証拠性はあるのか?」
真剣な口調で明石が詰問する。
「まあ軍法会議での証拠にするには難しいだろうな、あんな通信なんか俺ならいくらでも捏造できるぜ。まあ憲兵隊のかぼちゃ頭は3週間の拘留期間中にゲロさせるつもりだろうが、そんなにうまく行くわけねえよ」
吉田は他人事のように話す。
その口元の笑みはどこから来るのか、冷や汗をかきながら誠はそう思った。
「叔父貴の奴、篩にかけるつもりか?」
相変わらず殺気を帯びた態度で要がそう言う。
「憲兵隊が動いたと知れば、小心者は身を引く。そして度胸のある奴は事を起こす。そしてそうなれば正式な出動命令が我々に下る。隊長の狙いはそこか?」
それまで黙っていたカウラが口を開いた。
吉田は否定も肯定もせずハンガーとは反対の船尾に向かって歩き始めた。
「じゃあ俺は冷蔵庫に寄ってくから、よろしくね」
「コンピュータ室かよ。まあテメエの分はアタシが食っといてやるからがんばれや」
去っていく吉田に要はそう語りかけた。
「酒だ!酒だ!酒だ!」
要はそう言いながら吉田のことを気にしているシャムを連れてハンガーへ向かって走り始めた。




