今日から僕は 77
待機室に要はいた。
カウラとシャムも眼に入ったが、吉田と明石は嵯峨に呼び出されているのか、その姿は無かった。
黒のタンクトップに着替え、その手にあるグラスにはたぶんラム酒と思われる物が入っていた。
カウラは机の上の書類に目を通しながら、何か言いたげな視線を要に向かって投げかけるが、要はまるでそれを面白がるような笑みを浮かべてグラスを進めていた。
シャムはソファーに寝転がって漫画を読んでいる。そしてたまに腹を抱えて笑ったりしていた。
「西園寺さん?」
「なんだよ。テメエまでカウラみたいに『待機任務中でしょ!酒は禁止!』なんて言い出すんじゃないよな?」
先手を打たれて誠は押し黙った。
「なんだ?別件か。別に暇だから聞いてやるよ」
要はグラスを置いて、その手で目の前の椅子に座るように合図する。
誠は立っているわけにも行かないと気づいてそこにあった壊れそうなパイプ椅子に腰掛けた。
「出港が早まった件ですけど、何か心当たりはありますか?」
「なんだ、そんなことかよ。さっきまでリアナお姉さんや明華の姐御といたんだろ?正確な状況ならあっちの方がよく知ってると思うぞ」
そう言うと要はまたグラスに手を伸ばした。
「本間司令が近藤中佐に出頭命令を出したということは聞きました。それと、もし近藤中佐が拒否して篭城と言うことになれば、胡州でクーデターが起きる可能性もあるって……」
「ったく明華の姐御も心配性だなあ!まあそう簡単にはクーデターやろうなんて無理だろ。近藤の馬鹿野郎の関係する組織は非公然、公然問わず特務公安隊の内偵が進んでいるし、現在、帝都に一番近い加茂野宇宙港にはオヤジの右腕の赤松中将の第三艦隊が鎮座しているんだぜ?それこそ下手に動けば首が飛ぶ状況だ」
「そんな状況なんですか?」
「だが神前の、安心はしない方がいいな。長期戦になれば第六艦隊が直々に動き出すことになるだろうし、そんな状況をアメリカ海兵隊なんかの外野連中が見逃すわけもない。自然と状況は国権派の望んだ状況になる」
そう言うと要は、グラスに半分ほど残っていたラムを飲み干した。
「飲みすぎだぞ!要!」
ついに我慢できなくなったカウラが叫んだ。
「だからオメエは駄目なんだよ、カウラちゃん。今の所この船は『武装艦艇』扱いだ。宇宙法じゃあ空間跳躍航法はアステロイドベルトの外に出なけりゃ出来ねえんだぜ?まあ、目的地に着くまでこうやってのんびりリラックスしてないと疲れるだけだぞ」
「しかし……」
カウラは食い下がろうと立ち上がったが、扉を開けて入ってきた明石と吉田を見てとりあえず腰を下ろした。




