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今日から僕は 76

 シミュレーターの外ではヨハンが息を切らせていた。

「何処が動いたのかしら?」 

「部長。第六艦隊司令名義で近藤中佐に出頭命令が出たそうです」 

「それはまずいわね」 

 とりあえず安静にした方がいいほどの、汗をかきながら、肩で息をしているヨハン。

 それを見た明華は忌々しげに答える。

「許大佐。でもそれほど大変なことじゃあ、査問会議とかで話が済むじゃないですか」 

「神前君。たぶん吉田の馬鹿ははしょったでしょうけど、タイミングが悪いのよ。現在、大河内海軍大臣の指示で特務憲兵隊がやっとのことで動き出して、近藤中佐のシンパを洗い出し始めたところなの。まだ近藤中佐が握っている資金ルートにはたどり着いていないわ」 

「でもそれが出港が早まることとどう関係が?」 

 そんなことを口にしたが、明華が鋭い視線を投げかけてきたので口を閉ざした。

「つまり、まだ近藤中佐には身柄を拘束されるだけの資料は揃っていないということよ。今回の出頭命令はどこかのルートから本間司令が情報を得て独断で出したものね。気に食わない近藤一派を第六艦隊から放逐しようと言うわけよ。でも、今の所、物証は本間司令の手元には何も無いのよ。ヨハンとりあえず後で行くから」 

 ヨハンは言われるままにのろのろと動き出す。 

「何やってんのよ!駆け足!」 

 急かすように明華が一喝すると、ヨハンは飛び跳ねるようにシミュレータールームから出て行った。

「ですが、大佐。そんな状況で近藤中佐が出頭命令に応じるんですか?」 

「最悪、揚陸作戦演習場と重巡洋艦『那珂』に篭城するわね」 

「そんなことになったら……」 

 誠は彼の顔を見るわけでもなく中空に視線を泳がせる明華を見ていた。

「近藤中佐のシンパがそれに呼応して決起するわ。賭けてもいいわよ。そうなれば倒閣運動どころではないわ、クーデターよ」 

 同盟参加国の中でも軍事力が抜き出ている胡州帝国のクーデター。

 誠は耳を疑った。

「そのあたりの事情なら要が詳しいんじゃないかしら?あの娘は胡州陸軍出身だし、非正規戦部隊に居たから、裏事情は嫌でも耳に入ってくるでしょうしね」 

「じゃあ聞いてきます……って、西園寺さんの行きそうな所ってわかりますか?」 

 呆れたというように明華は天を見上げた。

「たぶん食堂の隣の喫煙室かこの下の階にある待機室じゃない?」 

「ありがとうございました!」 

 直立不動の姿勢で敬礼した後、誠は走ってとりあえず待機室に向かった。



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