今日から僕は 75
『今ならいける!』
別に何も根拠は無かったが、誠は最大出力で先ほど当たりをつけたデブリ帯に突撃をかけた。
「牽制するから一気に距離を詰めて!」
通信ウィンドウが開き、リアナの声が響く。
一発、明華機の重力波ライフルが掠めるが、リアナ機と挟まれているだけあって照準は正確さを欠いており、楽にかわしてさらに距離を詰める。
「いける!」
長い重力波ライフルの銃身が予想をつけたデブリの端から見える。
誠は読みが当たったこともあり、先ほどまで自分を縛っていた縄が解けたような感じで思ったように機体が動いているのが分かる。
「悪いけど私がもらうわ!」
リアナの声が響き、明華機が身を翻して射界からの脱出を図っているのが見える。
誠の機体に飛び道具が無いことを知っている分、誠側からの攻撃が遅いと知っての行動だろう。
しかし、ほとんどリアナ機に神経を集中している明華の機体が大きく見え始めるにつれ、誠は口元に笑みが浮かんでくるのを抑え切れなかった。
その時、シミュレーターの画面いっぱいに、パーラの顔が映った。
「お姉さん!隊長から出港命令が出ました」
誠の体から不意に力が抜ける。
それまで止まっていた汗が、再び滲み始める。
しかし、リアナは少し息を漏らしただけで、特に残念がる様子も見えなかった。
「じゃあおしまいね。明華!とりあえずブリッジに上がらなきゃいけないから」
シミュレーターの電源が落ちる。
ハッチが開き、誠は明華とリアナがこちらの方を見つめているのを感じた。
「明華ちゃん。言ったとおりでしょ?誠君は結構やれるって」
「そうね、まあこっちとしてはアイシャが誤算だったけど」
「酷いですよ!大佐!あそこまで粘られたら打つ手無いじゃないですか!」
明華に責められてアイシャは頬を膨らます。
「じゃあブリッジ上がるから!後、ヨロシクね!」
そう言うとリアナとアイシャは早足で部屋を出て行く。
誠はぴりぴりした感じの印象しかない明華と二人きりにされた。
「神前君。正直、見直したわ。冷静に状況を判断できるのはパイロットとしては重要なことよ。特にカウラと要は二人とも頭に血が上りやすい性質だから、結構いいチームになれるかもね」
誠はなんとなく未だ威圧感は受けるものの、表情の明るい明華に笑い返した。
「でも、今すぐ出港ってことは、隊長の描いたプランの最悪の展開になりそうだって言うことになるわね」
そんな言葉を吐いた瞬間にはもう明華の顔には笑顔は消えていた。
「最悪のシナリオって……?」
誠は暗い視線で天井を仰ぎ見ている明華にそうたずねた。
「胡州軍部が近藤中佐に決起の口実を与えるようなことをしちゃったということよ」
明華が言葉を選びながら話す。
誠は頭の中でその言葉を何回か繰り返しているうちに、事態の重要さをじわじわと感じてきて、自然と額の汗が冷たくなっていくような感覚に襲われた。




