今日から僕は 70
「ずいぶん深刻な状況なんですねえ」
誠は吉田と要の話を頭の中で要約しながら感想を搾り出す。
「馬鹿か?テメエは?ウチの正式名称が遼州星系政治共同体同盟最高会議司法機関実働部隊機動第一課ってこと分かってるだろ?要するに近藤の旦那はその網にかかった国家転覆を図る犯罪者と言うわけだ。そしてそれに対応可能なのはうちしかない。犯罪者の逮捕および関係者の摘発はうちの仕事だ」
要は淡々とそう言うとカウラ、アイシャ、そして誠を置いて歩き始めた。
「何処行く気だ?」
「とりあえず部屋の荷物片付けるわ」
要はそのまま歩いていく。
まるで何事も無かったかのように。
「カウラちゃんと誠ちゃんはどうする気?」
「とりあえず私は荷物の整理が終わっている。とりあえずハンガーに行くつもりだ。今回の作戦はそれなりに覚悟してかかる必要がありそうだからな」
カウラはそういい残すとハンガーに向けて歩き出した。
「じゃあ誠ちゃんは?」
「自分はとりあえず荷物の整理をします」
「手伝うわよ。それに何処が居住区か分からないでしょ?」
アイシャの顔にいたずらっ子のような笑みが浮かんだ。
誠は断っても無駄だろうことを悟って歩き始めたアイシャに付き従った。
汎用戦闘艦は幹部候補研修で何度か乗ったことがあるが、『高雄』の艦内は明らかにそれまで乗った船とは違っていた。
第一、通路が非常に広く明るい。
対消滅式エンジンの膨大な出力があるからといって、明らかにそれは実用以上の明るさに感じた。
それに食堂の隣が道場、そしてその隣にフリースペースとも言える卓球台と自動麻雀卓を置いた娯楽室のようなものまである。
「やっぱり変でしょ?この船の内装。全部隊長が自腹で改修資金出した施設だから。おかげで定員が1200名から360名に減っちゃったけど」
「それってまずいんじゃないですか?」
「うちの持ち味は少数精鋭なのよ。実際、艦内のシステム管理要員は吉田少佐だけで十分だし、マリアのお姐さんの警備部が白兵戦闘時には威力を発揮するから別にそんなに人間は要らないの。じゃあこのエレベーターで……」
アイシャに続いて誠はエレベーターに乗り込む。
「しかし長期待機任務の時はどうするんですか?吉田少佐一人じゃあ」
「部隊編成自体、長期間の戦闘を予測してないのよ。第一、二個小隊しか抱えていない保安隊に大規模戦闘時に何かできるわけ無いでしょ?それに保安隊は軍隊じゃなくあくまで司法機関の機動部隊という名目なんだからそんなことまで考える必要なんてないわね。着いたわよ」
アイシャは開いた扉から居住スペースの方に向かって歩き出した。




