今日から僕は 68
「やめろー!アイシャー!」
抱きつかれてシャムはじたばたと手足を動かしている。
「アイシャ、ブリッジの方はいいのか?」
カウラがそう言ったのでアイシャはシャムから手を離すと、頭を撫でながらカウラに向き直った。
「ああ、私の仕事はしばらくなさそうだから」
「おい吉田の!オメエこんな所でシャムと遊んでていいのか?」
相変わらずタバコをくわえたまま要が話しかけた。
「ああオヤッサンなら茶室で許大佐と鈴木中佐、それにマリアとタコ中相手に作戦の説明してるとこだよ」
ガムを噛みながら呆けた調子で吉田はそう言った。
「それをシステムで外から監視してると。ホント性悪人形だな」
「うるせえ!それよりお前等から質問が無いのがなんと言うか……正直、情けないな」
悠然と構えて吉田は要をにらみ返す。
要は見事にその挑発に乗って残忍そうな笑みを浮かべた。
「んだと!この野郎!どうせ演習場でなんかやべえこと……」
「だからそのやばいことがなんだか推測ぐらいつけてみろってことだよ」
噛んで含めるように吉田はそう言った。
誠は先日の嵯峨からの言葉を思い出していた。
「じゃあ鈍い要でも分かるようにヒントをやるよ。まず、食堂に運ばれたキャベツの箱の製造元は?」
「遼南中央高原夏キャベツだな」
要が忌々しげにそう漏らす。
吉田はニヤリとして一つ間をおいた。
その間がさらに要を苛立たせる。
「次のヒントだ。シャム!お前の山岳レンジャー教習の教え子から連絡届かなかったか?」
「ええとねえ。近衛騎士団の子から元気でやってるってメール着てたよ!」
「吉田!何で遼南の青銅騎士団と……!」
「計ったな。隊長は」
要とカウラが目を合わせた。
遼州最強と呼ばれるアサルト・モジュールで編成された精強部隊、近衛第一騎兵隊、通称『青銅騎士団』。
現在アステロイドベルトでの演習を行っているというのは新聞の記事にも出ていた。
「アタシ等の演習時にわざわざ遼南の大規模演習……近衛師団はおとりか?」
要がポツリと漏らした。そして暗い顔でさらに続けた。
「今回の演習はカモフラージュで狙いは国権派の首領、近藤忠久中佐・・・か」




