今日から僕は 66
「はい、運転ご苦労!荷物はとりあえずお前が運べ」
要は無情にもそう誠に言い残すと、新港の東和宇宙軍港に係留中の運用艦『高雄』の方へ走っていった。
「神前少尉。荷物なら私も手伝おうか?」
カウラはそう言ってバンの後ろの扉を開けようとした。
「いいです。これも仕事のうちですから」
誠は感謝の意味も込めてそう言う。
心のうちではカウラの手伝う姿を想像しながら。
「そうか?そう言うのならよろしく頼む」
カウラは誠の心など読まず、そのまま艦の方に歩いていってしまった。思わず肩透かしを食ったように肩を落とす誠。
「ああ、これ一人で運ぶのかよ……」
バンの後ろに詰まれた荷物の山を見て呆れながら、誠はとりあえず積荷を降ろし始めた。
「精がでるな。おいイワノフ少尉!手の空いてるものと一緒に手伝ってやれ」
後ろからマリアがそう言うと警備部の数人が手早く荷物を抱えて、船の方に小走りで向かった。
「シュバーキナ大尉、すみません」
「別に遠慮することは無い。今回は私達の出番はなさそうだからな。それより短気な西園寺の機嫌のとり方でも考えておくことだな」
部下達が次々と荷物を艦に運ぶのを見ながらマリアはそう言った。
「シュバーキナ大尉、あの……」
「なんだ?どうせ隊長の腹の内でも聞き出そうというのだろ?私もここに来て一年と少しだ。それほど分かるわけもない。それに君は子供の時から隊長に剣の稽古をつけてもらっていたそうじゃないか?たぶん君の方が隊長の考えそうなこと分かるんじゃないか」
マリアはそう言うと笑みを浮かべた。
しかし目つきだけは鋭く、誠の方を見つめている。
「しかし警備部が乗艦するということは白兵戦の可能性があるということでは?」
「この仕事は常に最悪の事態を考えて行動することが重要なんだ。もしかすると本当に演習だけで終わるかもしれん。すべては隊長の腹にある。噂をすれば影だ。あそこに居るの隊長じゃないのか?」
マリアが指差す所、木箱の山の手前、タバコを燻らせながらこちらに向かって手を振っている嵯峨の姿があった。
誠は招かれるままに、マリアと一緒に歩いていった。
「よう!良いところに来たじゃないか」
嵯峨は木箱を叩きながらそう言った。
木箱には『沖取り新鮭』と大書きされている。その後ろには野菜のダンボールが山積みされていた。
「何しているんですか?隊長」
マリアが素早くそう返した。
「なあに、遼南土産が届いてね。これでちゃんちゃん焼きでもやろうと思ってさ。明華にはちゃんとバーベキュー用具一式そろえるように頼んであるんだけど、どうせ今は搬入物資の点検に追われてそれどころじゃないと思うから……」
「それで警備部でこれを運べと?」
マリアは半分呆れていた。
「そんな顔するなよ。せっかくの美人が台無しだぜ?神前の、とりあえず木箱一つ持ってきてくれや」
嵯峨はそう言い付けると艦の連絡橋の方に歩き始めた。




