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今日から僕は 64

「そんな僕に何か変わったことでも?」 

 誠は嵯峨の意外な一言に戸惑っていた。

 自分はただの都立高校の体育教師兼剣術道場の一人息子だ。

 そんな国や組織が求めるような力は無いと思っている。

 確かに脳波に一部地球人には見られない特徴的な波動が有ると言われたことはある。

『遼州系の特徴だね』

 以前死球を頭に受けた時、脳波を見ていた医者が言ったのはそれだけだった。

 嵯峨はさらに続けた。

「その人物はあるシステムを起動するキーになる可能性があるってのが、その筋の専門家の一致した意見と言うことになってる。俺はそいつがモルモットにされるのがかわいそうで引き取ったが……まあいいかそんなことは」 

 そう言うと嵯峨はタバコを一回ふかした。

「あるシステム?何ですか?精神波動システムとか、ちょっと眉唾の話ばっかり聞いていたんで」 

「俺は文系でね、そう言ったことはヨハンあたりに聞けば分かるかも知れんが、まああいつが機嫌がいい時に聞いてみろや。それより今回の演習は建前で実際の狙いは官派の特に強硬派として知られる近藤忠久中佐の首を取ることだ。それも出来れば第六艦隊に身柄の確保をされる前に内密に動く必要がある」 

 早口に嵯峨はそう話す。

「そんなに簡単にいくんですか?」 

 誠にはそう答えるしかなかった。

「なあに、やらにゃあならん。近藤中佐はゲルパルトの残党連中や東和の経済界とのコネを使って遼州星系ベルルカン大陸の失敗国家に非正規ルートで物資を捌いて勢力を蓄えつつある。実際その資金で政治活動を行っている政治家はこの東和だけでも覚え切れん数ほど居る」 

「そんな人物を中隊規模以下の我々が対応するって言うんですか?」 

 恐る恐る誠はそうたずねた。

「逆だな。この規模だから何とかなるんだよ。たとえ証拠をそろえた上で艦隊引き連れて身柄の引渡しを求めても、第六艦隊は面子にかけて自分で処理しようとするし、その結果は逃亡されるか上から握りつぶされて降格程度の処分を受けて何食わぬ顔で奴は組織を再構築するだろうな。あくまで敵の意表をつかなければどうにもならん」 

「そんなものですか?」 

「そんなものさ、世の中なんてのは多少混沌としているのがいいんだよ……誠ちゃん混沌と言う言葉の語源が古代中国の空想上の動物の事だって知ってるか?」 

「いえ……」 

「そうか。麒麟とかは有名だがそれと同じように混沌と言う動物が紹介されているんだ。その混沌と言う動物だがな、目も頭も口も足も無い、まるでアメーバーのような生き物なんだそうな」 

 嵯峨はタバコを一ふかしして話を続ける。

「その混沌は自らの姿にコンプレックスを持っていてな、ちゃんと一丁前の動物の姿になろうとするんだそうな。だが、普通の動物のような均整の取れた姿になると死んでしまうんだそうな」 

「師範代は何が……」 

「世界もまたしかり、法と秩序と意思とで一つのまとまった形にしようとすれば、死んでしまう。死にはしないとしても、どこかに無理が来る。俺はね、誠。そんなこの世界を自分勝手な理想という型に押し込めようとする奴を潰して回ることが俺の使命だと思ってるんだよ」 

 これまで見たことも無い、嵯峨の真剣な視線が誠を穿った。

「理想を語るのは結構だが、その理想がすする血のことまで想像力を働かせることの出来ない馬鹿にはそれにふさわしい最期を用意してやるのが俺の仕事さ」 

 嵯峨はそう言うとタバコの吸殻をもみ消して立ち上がった。

「さあてと、ちょっと東和のお偉いさんに根回しでもしておくかなあ。誠、お前も準備あるだろ?とりあえず進めとけや。それと出港後、作戦に参加するかどうか考えさせる時間をとるからそん時までに答え出しとけや」 

 去っていく嵯峨の後姿を見ながら、誠は呆然と立ち尽くしていた。



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