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今日から僕は 63

 ようやく悪戦苦闘の末、演習要綱を読み終えた誠は自販機でジュースを買っていた。

「どうしたの暗いじゃん」 

 誠が突然の声に振り返ると、そこでは嵯峨が退屈そうにタバコを燻らせていた。

「まあ若いうちに馬鹿やるのはいいことだと思うよ、俺は。まあそうして人間大人になっていくものさ」 

 嵯峨はだれた感じでタバコの灰を灰皿に落とす。

「しっかしあれだなあ、喫煙者結構居るのに何で喫煙所がここ一箇所なんだ?そう決めたシンの旦那だってタバコ吸うくせに」 

「一応、健康のためだと……」 

「お前もシンと同じ事言うんだな。ったくそんなに長生きしたきゃあこんな危ない部隊なんか辞めちまえって言いたいが。まあお前さんに愚痴ってもしょうがないか。それより今度の演習、休んでもいいんだぜ。」 

 嵯峨は口調を変えずにそう切り出した。

「どういうことです?」 

 誠は嵯峨の真意が読めずにそう返した。

「鈍い奴だな。何でわざわざ政情がいまだ安定していない胡州の、しかも殆どの宙域が使用不能になってる演習場を選んで訓練しようなんておかしいと思わないか?」 

 嵯峨はそう言いながら、吸い終わったタバコの火をゆっくりともみ消した。

「それは実働部隊としての保安隊の練度向上のため……」 

「そいつは俺が今回の演習を同盟治安機構に上申した時に使った方便だ。でもお前もそれにしちゃあおかしいなあ、とか思ってんだろ?」 

 この人に隠し事は通用しない。誠は観念したように頷く。

 嵯峨は再び胸のポケットからタバコを取り出すと火をつけ、上体を起こして天井に向けて煙を吐いた。

「これから話すことは他言無用だ。」 

 そう言った嵯峨の目は先ほどとはうって変わった鋭いものだった。

「今回の演習宙域は胡州海軍第六艦隊の管轄だ。しかも隣の宙域には遼州星系最大のアメリカ海兵隊の基地がある。そのくらいは綱領に書いてあるだろ?」 

 誠は嵯峨の言葉にひきづられるようにして頷いた。

 確かに改めてその事実を突きつけられると、いつ衝突が起きてもおかしくないその緊張した宙域に行くことの意味が違って見えてきた。

「第六艦隊司令の本間さんはそれほど政治には関心の無い人だが、参謀室には先の胡州紛争で敗れた官派の連中が残っててね。それがちょっとおかしな動きしてるんで、ある人物のプロフィールをリークしてどう言う反応が出るか試してみたんだ。そしたらまんまと食いついてきやがってね」 

「誰の情報をリークしたんですか?」 

 すかさず誠はそうたずねた。

「お前さんのだよ」 

 嵯峨は表情も変えずにそう答えた。



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