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今日から僕は 61

「菰田先輩……?」 

 誠は鬼の目に変わった菰田に向けてそう言った。

「何でお前ばっかり!何でだ!この受けキャラが!」

 菰田の叫びが座敷に響く。誠の視線の中でパーラはできるだけ離れようと壁に張り付いている。 

「受けキャラと聞いたら黙ってませんよ!」 

 菰田のその言葉に反応して泥酔状態のアイシャが起き上がった。

 完全に出来上がった視線で誠に向き直るアイシャに誠は冷や汗が流れるのを感じていた。

「めんどくさいから、オメエは寝てろ!」 

 要が誠をかばうように立つとアイシャは懇願するような瞳をして両手を合わせて要に向き直った。

「要ちゃん!人には戦場と言うものがあるのよ!」 

 そのアルコールで赤く染め上げられた頬を見て要はアイシャを捕まえる。

「わけわかんねえよ!」 

 そう叫ぶ要の手を振りほどいてアイシャは起き上がった。

「ヒンヌー教徒が立ち上がった今!カウラちゃんフラグは消えたも同然!今こそ私とのフラグが!」 

 立ち上がって演説を始めるアイシャ。誠は事態の収拾を期待して明石を見る。そこではできるだけ話の輪から遠ざかろうと下を向いてたこ焼きを分解している明石の姿があった。

「だから分かるように言えよ!」 

 もう一度要は叫びながらアイシャを組み伏せようとする。その動きを読んでかわしたアイシャはそのまま誠に熱い視線を送る。誠はアイシャの濡れた視線に戸惑いながらじりじりと後ろに後退した。

「フラグとは何のことだ?」

 誠をかばうように間に入ってきたカウラが誠に尋ねる。 

「何なんでしょうねえ……」

 そう言って誠はアイシャの顔を見た。

 舌なめずりをしながらじりじりと誠に近づいてくる。

 そんな誠達のやり取りを菰田は手を震わせながらそれに聞き入っている。

「やれー!もっと修羅場になれー!」 

 気の無いように吉田がそう叫んだ。

 島田とサラは騒動を無視して二人だけの世界に旅立っている。

 キムを見れば野菜玉を焼き上げることに集中している振りをして係わり合いになることを拒絶しているようにも誠からは見えた。

 頼れるものは自分ひとり。酒を飲むのを躊躇していた誠は隣になみなみと注がれていた要の酒を奪い取ると一気に飲み干した。

「おい!何しやがる!」 

 要が慌てて誠に声をかけた。

「やられた!間接キッスフラグとは!」

 その場に崩れるようにして頭に手をやるアイシャ。 

「だからわけわかんねえよ!」 

 要の突っ込みをアイシャは軽くかわす。

 誠は40度のアルコールにしたたか頭の中を回転させながらそれを聞いていた。

「分かりました!」 

 誠はそう言っていた。

「大丈夫か?」 

 カウラは振り向いて誠をその澄んだエメラルドグリーンの瞳で見つめる。

「馬鹿が」 

 そう言うと要は誠からグラスを奪い取った。

 しかし、もう誠の意識はここには無かった。

「神前誠!脱ぎます!」 

 全員がやっぱりかと言う視線を誠に送る中、誠はTシャツを脱ぎ始めた。

「馬鹿が!ワンパターンだな」 

 要はそう言うとあきらめたと言うように先ほど誠が口をつけたグラスにラム酒を注ぎ始めた。

 何も言えずにカウラは立ち尽くす。Tシャツを壁際に投げ捨てた誠は今度はズボンを脱ぎ始めた。

「止めろや!キム!酒が不味くなる」 

 そんな明石の一言が届く間もなく、再び要のグラスを奪い取って飲み干した誠はそのまま仰向けにひっくり返り、意識を失っていた。



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