今日から僕は 57
「意外と早かったじゃん」
吉田は豚玉を鉄板の上に広げながらそう言った。おまけのように隣に座っているシャムはすでに豚玉に夢中である。
要とカウラは明石と誠の座る鉄板に居を定めた。
誠は泣きそうな目の菰田と目が合うが、すぐさま攻撃的な視線を浴びせてくる菰田から目を逸らした。
「吉田の。オヤッサンが何考えてるか知っとるか?今日は同盟機構の軍事関連の実務者会議で東都訪問中の胡州海軍軍令部長の馬加准将と一席設けてるって聞いとるで。今度の宇宙での訓練もわざわざ胡州の第三演習宙域を借りたっちゅう話やし」
明石は小夏が持ってきた冷酒を受け取ると小さめのガラスのお猪口を手にする。
「気がきかねえなあ、うちの隊長は」
要はそう言うとカウラの前に無理に体をねじ込んで明石に勺をした。
「知らねえよ。あそこが訓練に向いてるからって事しか聞いてないし。それ以前にあのおっさんの考えてることなんて読めるわけ無いじゃないか」
そう言うと吉田はつきだしに箸を伸ばす。
「ほうか。なんかお前を当てにしたワシが間抜けみたいじゃのう。神前の、気にせずジャンジャンやれや」
誘拐事件に不自然な演習区域。あまり気分のいい出来事は起きないものだと思いながら誠はたこ焼きを口に運んだ。
熱い。そのまま勢いで口にビールを流し込んで冷やす誠。
「じゃんじゃじゃーん!ブリッジ三人娘到着です!」
そう叫ぶアイシャが死んだ鯖の目のパーラとサラをつれて二階に上がってきた。
その後ろから春子が注文の品を運んでくる。
「またややこしいのが」
明石は下を向いてため息をつく。
「要とカウラは相変わらずねえ。まあ別にいいけと……先生!夏コミの売り子、頼んじゃって良いかな?どうやらアタシは今度の演習後に艦長育成プログラムが入っていて出れそうにないのよ」
そう言うと空いていた明石の隣の上座に席を決めてアイシャは座り込んだ。
「えー!アイシャ居ないの?」
シャムが思わず声を上げる。
「しょうがないじゃないの!仕事なんだから。その代わりパーラとサラとシャムと他のブリッジクルーも手配するから。今度は……」
指を数えて動員する面子を考えているアイシャ。
「ワレラは何やっとるんじゃ?」
明石はそう言うと手酌で日本酒をガラスの猪口に注いだ。
しかし急にアイシャ達とシャムから射るような視線を浴びて、さすがの明石も目を伏せた。
「いいんじゃないの?別にフリーの時まで拘束しなくても。それに隊長はこういう馬鹿なこと好きじゃん?」
吉田は別に気にする様子でもなくジョッキを傾けた。
「そうね、もし良かったら小夏もつれてってくれる?あの子はシャムちゃんと同じでお祭り大好きだから」
春子の言葉にアイシャが嬉しそうに小夏を見上げた。
「へえ、姐御の頼みなら……」
少し遠慮がちにつぶやく小夏に飛び起きたアイシャが抱きついた。
「おお!心の友よ!」
その大げさなアクションに死んだ目をしていたパーラとサラは呆れたように目の前に置かれたビールのジョッキを息を合わせたように傾けた。




