今日から僕は 55
「しかし、暑いのう。今年はなんか異常気象じゃ言うとったから、ことさら暑さが身にしみるわ」
のんびりと明石がそういうのを聞きながら、誠はその隣でお絞りで軽く手を拭った。冷たい感触が心地よく、そのまま頬を撫でていた。
「まあ気にすんなや。ウチの飲み方覚えたら裸踊りも収まるじゃろ……まあ、要やアイシャが自分等が楽しむ為にそう仕組むかも知れんがな」
明石はニヤつきながらすっと立ち上がってハンガーに脱いだ背広を引っ掛けた。
「ビールお待ちです!それと枝豆です」
小夏が元気に入ってくる。明石の誠への言葉を聞いていたようで先ほどまでの攻撃的な視線を誠に投げることはやめていた。
「すまんのう、小夏の。下に誰か来とったか?」
ビールのジョッキを並べる小夏にそれとなく明石が尋ねる。
「そう言えば師匠がウチのお母さんとなんか話してたけど……」
その言葉にすぐさま明石は反応した。
「神前!窓を覗けや!」
明石のその言葉を聞くと誠は立ち上がって窓から身を乗り出した。
やはりいた。吉田が窓から入り込むべく、階下で靴を脱いでいた。
「吉田少佐……何がしたいんですか?」
あきらめたようにつぶやく誠と目が合って頭を掻く吉田。
「何がって?タコの奢りの飲み会に来たんだよ?」
「だからなんで窓から入ろうとするんですか?」
その問いにしばらく考えるような振りをしたが、すぐに吉田は答えた。
「だって二階でやるって言うから……」
吉田は悪びれる様子も無く、靴をバッグに仕舞うとそのまま塀を登り始めた。
「アホの相手すんな。まあ奴はああ言う性分じゃけ。そんなこと気にしとったら寿命がいくらあってもたらんわ。それより小夏の。追加で生中二つ頼めるか?」
小夏はその言葉を聞くと普通に階段のほうに駆けていき、上ってきたシャムに挨拶をした。
「俊平。大丈夫?」
ようやく窓枠に手をかけて部屋に入り込もうとしている吉田にシャムが声をかける。
「すまんがワシ等はさきにやらしてもらっとるぞ」
明石はジョッキを傾ける。
「せっかく暑い中、来たって言うのに冷たい奴だねえ」
吉田は悪びれもせずにそう言うと隣の鉄板をシャムと一緒に占拠した。
「あのう、ナンバルゲニア中尉。今日はおとなしめな……」
誠が話しかけようとするが、シャムのベルトの腹の辺りの異物を発見して口ごもった。
「それってもしかして……」
誠の視線がベルトに注がれているのにシャムも気付いた。
「そうだよ!変身ベルト!」
あっけらかんとシャムが答える。誠はやはりこの人はだめだと結論をつけてため息をついた。




