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今日から僕は 54

「さあ行こか。どうせ他の連中はどっかより道しとるじゃろ」 

 明石はそう言うとあまさき屋のある大通りに向かって歩き出した。

「しかし、ワレも大変じゃのう。今度の冬コミとかいったか?そん時はワレに絵描かせるてアイシャが力んどったぞ?」 

 誠は苦笑いを浮かべながら、疲れ果てたパーラとサラの顔を思い出していた。

「まあどうにかしますよ……と言うか勤務中に野球の練習ばかりしてていいんですか?」

 その言葉に振り向いた明石がにんまりと笑う。 

「オヤッサンはいつも通り見てみぬ振りじゃ……と言うか面白がっとるからのう。本部では会議では寝とる、遅刻が日課、面倒だからと隊長室に寝袋運び込んで暮らしとると言うあの人が文句言えるわけ無いがな」

 誠は予想はしていたがそのいい加減な嵯峨の姿を保安隊副長の口から直に聞くとさらに呆れていた。 

「よくそれで問題になりませんね」

 その言葉に明石がまた振り向いた。 

「なあに、上のほうの連中はそんなこと折込済みでオヤッサンに保安隊預けとるんじゃ。それに、そうしてくれた方が助かる連中も居るからのう」 

 そう言って明石はアーケードの下をそのままあまさき屋に向かって肩で風を切るようにして歩く。

 周りの買い物客はこの暑いのに黒の三つ揃えに紫のワイシャツ、それに赤いネクタイにサングラスと言う明石の風貌に恐れをなして脇に避けているのが少しばかり誠には滑稽に見えた。

「じゃあ入るか。まだ誰も来とらんじゃろ」 

 まだ暖簾もかけていない店に明石が堂々と入っていく。6時前と言うこともありあまさき屋の中は客一人居らず、女将の春子と小夏が暖簾を持ってしゃべっているだけだった。

「若頭、それに兄弟子じゃないですか?ずいぶん早くからお越しで」 

 小夏がそう語りかけてくる。

「じゃあ暖簾出しといて。明石さん、今日は早いですね」 

 女将はそう言うと静かに着物の襟をそろえた。

「ああ、今日は新生保安隊野球部の門出の日ですけ。上の宴会場はあいとりますか?」

 その明石の明るい口調に春子も笑顔を浮かべる。 

「それはおめでたいですわね。予約はありませんからどうぞ」 

 女将はそれだけ言うと厨房のほうに向かって消えていった。

 明石は慣れた調子で二階への階段を上り始めた。

「神前の。少しは飲む時ブチ切れんよう注意して飲みや。これ以上アイシャにネタやる必要はないけ」 

 やはり釘を刺された。明石の言葉に誠は照れ笑いを浮かべる。

「分かりました」 

 もう保安隊では脱ぎキャラとして確立してしまったと誠は改めて思った。

 鉄板の並んだ店の奥。

 先日、嵯峨が座っていた所にどっかと明石は腰を下ろした。

「そんじゃあとりあえず枝豆とビールで奴等の到着まで潰すか」

 一緒に上がってきてお絞りとお通しを二人に配る小夏。 

「そうですね。とりあえず生中くらいなら」 

 誠は頭をお絞りで拭う明石を見つめていた。

「とりあえず枝豆と生中二つ」 

 誠はそう言うと自分もお絞りで手を拭いた。

「はい!」 

 返事は良いが、小夏の表情に何か汚いものを見るような斜に構えたものを見つけるのに誠は何の苦労も必要なかった。

「ワレは完全に呆れられとるのう」 

 明石はそう言うと再びからからと笑う。

 そんな二人を置いて小夏はそのまま静かに階下へと消えていった。



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