今日から僕は 49
新品のコックピット。
調整項目の札が何枚も貼られた計器板。
操縦席の座り心地を何度か確かめ、両手を操縦桿に添えて何度か動かしてみる。
「とりあえずハッチと、前部装甲板、下ろしてみて!」
操縦席の横に置かれていたヘルメットから、明華の金切り声が響く。
誠はヘルメットをかぶると指示通りハッチと前部装甲板を閉鎖した。
静まり返った暗い空間が一瞬にして全周囲モニタに切り替わり、ハンガーの中に固定された05式の周りの風景を映し出した。
足元では、要とカウラがなんとなく不安そうに見上げている。
整備員達はそれを取り巻きながら、自分達の整備の成果を見ようと息を呑んで見つめていた。
「とりあえず、ご希望のアサルト・モジュールのコックピットに座った感想はどうよ」
モニタの一隅に開いたウィンドウの中でヘッドギアをつけた明華が笑いながらそう問いかけてくる。
「うれしいですよ。それにこんな機体、本当に僕専用で良いんですか?」
その言葉を誠の謙虚さと受け取ったのか、明華は微笑んで見せる。
「まあ慣らしさえしっかりやってもらえれば、それなりに動く機体だから。それに怖いお姉ちゃん達の訓練が待ってるから、ウチじゃあ一年もすれば立派なパイロットになれるわよ」
『怖いお姉ちゃん』と言う言葉を聴いて誠は下を見下ろした。
この音声は全館放送されているらしく、要がカウラに押さえられながら何か喚いていた。
誠は計器板を見ていた。
養成所でのシュミレーターとは若干違う配置だが意味はすぐに理解できた。
「許大佐。設定見ても良いですか?」
少し興味を引かれて誠は設定変更画面にモニターを切り替える。
「ああ、あんた一応そっちも出来るんだったわね。良いわよ、おかしい所は無いと思うけど」
誠はその言葉を受けると設定公開の操作をする。画面にはオペレーションシステムの設定が並んでいた。
弄り倒してある。そんな印象だった。
全ての項目に設定変更を示す赤い文字が浮かんでおり、特に機体の空中、及び宇宙空間での制御関連はまるっきり変更されていた。
全ての原因は後付けされた右腰につけられた熱反応型サーベルの重量により発生したバランスの狂いを直すものだった。
「許大佐……」
正直ここまでオペレーションシステムの設定をいじってあると不安になる。誠は眼下で誠の機体を見上げている明華に声をかけた。
「言いたいことは分かるわよ。吉田が本部のメインコンピュータにアクセスして計算かけて調整した結果だから安心していいわよ。まあ、隊長の指示でダンビラ後付したからそこらへんで設定変更が必要だったわけ。それに、射撃が苦手て言う話しだからそれに合わせていろいろと照準系をいじってもあるから」
あたかもそうなったのが誠のせいであるかのように聞こえて、少しばかりムッとした。
誠はそう言いながらシートに体を沈めた。訓練校のシミュレータのそれより硬い感触だがすわり心地は決して悪くは無い。
鼓動が高鳴るのを感じていた。最新スペックのアサルト・モジュールを独り占めできるということで、自然と誠の顔には笑みがこぼれていた。
「にやけるのは良いけど、とりあえず個人設定終わらせて頂戴ね」
明華の呆れたような声で、誠はようやく我に返った。




