今日から僕は 48
カウラについて誠は射場を後にした。
夏の日差しが照りつける。カウラの後ろについて歩く誠は汗を拭いながら続いた。
「暑くないですか?」
誠のその言葉にカウラはエメラルドグリーンの髪をなびかせて振り向いた。
「それは気持ちの問題だな」
そう言うカウラの額にも汗が光っているのがわかる。
ハンガーの前にできていた人垣はすでに跡形も無くなっていた。
グラウンドではヨハン、技術部装備班長のキム、それに管理部の菰田を加えて明石がグラウンドのランニングを続けているのが誠の目にも見えた。
「ちいとこちや」
嵯峨が何気なく半分閉められた、ハンガーの扉の向こうで手招きするのにあわせて誠はハンガーに入った。
相変わらず巨人のように聳え立つアサルト・モジュールの一つ、中央のオリーブドラブの東和軍配備の色の機体の前に立つ明華。彼女はシステム担当の下士官と手にした仕様書を見ながら話し込んでいるのが見える。
「じゃあタコがうるさいから行ってくるわ」
そう言った後屈伸を三回ほどして嵯峨はランニングの列に参加するべく走り出した。
カウラと要が見守る中、誠はゆっくりとその機体に向けて歩き始めた。
「ちょっと待って。とりあえずそのスパイク脱いでよ。せっかく整備した新品に傷でもつけられちゃたまんないから」
明華はそう言うと隣に控えていた整備班員に目配せした。
彼はすぐさま戦闘用のブーツを差し出した。
誠はそのままブーツを受け取ると足を押し込むようにして履いた。
その様子を確認した明華はそのまま隣のシステム担当の技官の差し出す資料の確認をすると誠に向き直った。
ブーツを履き終えた誠が立ち上がる。
「じゃあ早速乗ってみて」
そういうと明華は歩いている誠に、コックピットまでの順路を譲った。
「これ、05式ですよね」
確かめるようにして誠は明華にたずねた。
「そうよ、まあ乙型って言ってパイロットのある『特殊な』能力が露骨に戦闘能力に反映する機体だけど……」
明華の誠を見る目はあまり彼女が誠に期待していないことを物語るように冷たかった。
「そうですか」
誠は自分がこの保安隊の実質ナンバーワンといわれる明華に期待されていないことを感じて落胆していた。
05式は開発時には東和も制式採用アサルト・モジュールとして期待されていた機体であり、彼もまたそれに向けての訓練を受けていた。
しかし、そのコストと簡易型である09式の開発のスピードもあり実際に05式を採用したのは保安隊と西モスレム首長国連邦、それに地球のシンガポールだけだった。
そんなコストパフォーマンスを無視した精強部隊用特機に自分が採用されたのは何故か?エレベータで上がる時もそのことを考えていた。
見下ろせば夏季勤務服姿の要の口元にはもうすでにタバコは無くただ好奇心の眼でコックピットに入ろうとしている誠を見ている。野球部の練習用ユニフォーム姿のカウラは心配そうに誠を見つめていた。
誠はコックピットの前で止まったエレベータから身を乗り出すと、ようやく決心がついたようにコックピットに乗り込んだ。
エンジンの暖気が済んでいると言うことを確認した後、そのままシートに尻を落ち着けた。




