今日から僕は 47
「やっぱオメエ道場に帰れ」
要がそう言うと、タバコに火をともした。
ムッとして誠はそちらのほうを睨み付けた。
「だってそうだろ?22口径ロングライフル弾。幼稚園のガキでも缶コーラの缶に当てるぞ。それが一応とは言え軍人がマンターゲットに当たったからって、いい気になってるのは感心しねえよ。それに……」
要の言葉を聞いて嵯峨が立ち上がった。
「いいじゃん。こいつがピンチの時はオメエ達が何とかすりゃあいい」
別に当然と言うように、嵯峨はタバコをくゆらせ続ける。
「西園寺の言うことにも一理あります。第一いつも彼をカバーできる自信は正直ありません」
そう言うカウラに嵯峨はため息をついた。そしてそのまま彼女の肩に手をやる。
「でも、やらにゃあなるめえよ。そいつが仕事だ。それに例の乙式の能力を引き出せるのは……」
あきらめたように話す嵯峨。
「乙式って精神感応システムの強化版が乗っている機体でしょ?それのパイロットは本当に僕でいいんですか?」
誠の言葉に要とカウラは嵯峨の顔を覗き込む。
「まあお前の考えとは開発コンセプトは違うんだがな。かなり特殊なシステムを積んだ特別製の機体だ。スペック通りの性能を出すとなると、一応お前くらいのアストラルサイド指数が無いとシステムの発動が難しくてね」
言い訳する嵯峨だがその表情は冴えない。
「叔父貴!精神感応兵器の開発はアメリカでも中止になったはずじゃねえのか?」
嵯峨の言葉をさえぎるように怒鳴る要。
「アメリカにはアメリカの都合があるんだろ?それにあくまで精神感応兵器の開発を中断したと言うのは表向きの発表だ。実際はどうだかわかったもんじゃない。それに前の戦争中から胡州や東和ではかなり研究が進んでてな」
そう言うと嵯峨は誠の手にある拳銃を取り戻した。そしてそのまま視線を床に降ろして言葉を続ける。
「胡州の成果って奴は俺も試験運用に付き合わされてね。菱川と胡州陸軍装備開発局の共同制作の特機の運用についてコメントしたこともあってその縁で今回乙型がうちに配備される話が来たんだよ。俺は文系だから技術屋の説明聞いてもちんぷんかんぷんだったがな。それにモノがモノだけに研究成果はトップシークレット扱いだ。お前等が知らないのも当然だな」
そう言うと嵯峨はふと隊舎に目を向けた。
「おやっさーん」
グラウンドで球拾いをしていたはずの島田曹長が整備員のつなぎに着替えて駆け寄ってきた。
「おう、ようやくセッティング終わったか?」
嵯峨は島田に向かってそう言うと、タバコを投げ捨てた。
「ええ、吉田少佐のデバックが終わったんで。おかげで乙式はダンビラ装着時のバランス計算もばっちりですよ」
そこまで言うと島田は射撃レンジに座り込んだ。誠は手持ち無沙汰にレンジを眺めていると不自然な草叢を見つけて嵯峨の袖を引いた。
嵯峨は誠の視線の先を一瞥すると要とカウラに声をかける。
「よし!それじゃあ、場を変えようや……って、オメエ等ー何やってんだー?」
誠の見たとおり、嵯峨が声をかけたところを覗き込むと要とカウラは視覚偽装型迷彩で完全擬装した下からアンチマテリアルライフルの銃身が覗いているのを見て唖然とした。
しばらくすると発見されたのに気づいて、双眼鏡と見慣れないバナナマガジンのアサルトライフルを手にした警備班の准尉と、射手であったろうマリア・シュバーキナ大尉が出てきた。
「吉田の真似かー?やめとけよ!あいつは特別製だって言ってるだろ?それにそのゲパードM3の弾代は高えんだから、シンの旦那にどやされるこっちの身にもなってくれよ」
その声が聞こえたのかマリアは後ろで待機していた警備班の連中に擬装とアンチマテリアルライフルの回収を指示している様だった。
「要坊。こいつ擬装中のシュバーキナにすぐ気づいたみたいだぜ?これでも使えねえのか?」
嵯峨はそれだけ言うと島田のあとをついてハンガーへと向かった。
要はいかにも憎たらしいというような表情で誠を一瞥した後拳銃をホルスターにねじ込んで嵯峨の後に続いた。
「眼は良いみたいだな。戦場ではそれは大事なことだ。悪かったな馬鹿にして」
カウラはそれだけ言うと誠の肩を叩いて、ハンガーへの道を急いだ。




