今日から僕は 44
本部の建物が尽きた先、そこに射撃用レンジがあった。
射場にはトタンでできた日よけがあり、30mレンジと100mレンジ、それに500mレンジが並んでいるというそれなりに実践的なものだ。
嵯峨は30mレンジでいかにもだるそうな感じでタバコを燻らせていた。
「着たかー」
声にやる気が感じられない。
誠が目をやると荷物置き場に見慣れた04式9mmけん銃と小口径の見慣れない拳銃が置かれているのが分かった。
「さっき勝負してたみたいだけど監督。どっちが勝ったんだ?」
嵯峨が要に向かって空気を読まずにそう尋ねた。
「くっだらねえ!さっさと始めねえか!」
頬を染めて叫ぶ要に頭を掻く嵯峨。
「まああれだ。俺も素振りくらいはしとくかねえ」
そうつぶやく嵯峨に要はタレ目を見開いて挑発するような視線を送る。
「それよりちゃんと守備練習しといてくれ。一試合に必ず一回は送球を落とすファーストなんてしゃれにならないぞ」
要の一言に嵯峨はいじけたように視線を落とした。
「神前の。野球の時は一応俺がファースト守るから、あまり右方向には打たれないように」
視線を落としたまま嵯峨は懇願するように誠に語りかける。
「まあ努力します」
そう言いながら誠はスパイクのまま射撃レンジの日陰に入った。
スパイクの金具がコンクリートの射場に乾いた音を立てた。誠の足元を見ながらカウラはガンベルトを巻く。
「でだ。お前等も知ってると思うが神前は射撃が致命的に下手だ。そこで、今日は教官としてカウラ・ベルガー大尉と西園寺要中尉においでいただいてわざわざご指導を賜ろうと……」
能書きをたれる嵯峨の顔を要が覗き込む。
「叔父貴。つまんねえ話はいいんだ。要するにこいつの前で保安隊標準の射撃をして見せろっつうことだろ?」
要はようやく機嫌を直してカウラのほうを見つめた。
カウラは放心していた。ガンベルトを何度か緩めたり締めたりしながら先ほどのアイシャのとった行動を反芻しているように何も無い中空を見つめている。
「ボケカウラ!聞いてんのか?」
要がそう声をかけたとき、カウラはぼけたようにホルスターから拳銃を抜いた。
「馬鹿!止せ!」
撃たれると思ったのか要がそう叫ぶ。
「何をそんなに驚いているんだ?」
カウラはそう言うと調節するのをあきらめたようにホルスターとガンベルトをレンジの床に投げ捨てた。
「まあ、何があったか知らんが。とりあえず要坊。撃ってみろや」
嵯峨はカウラが動けないことを知ってか、すぐに要にそういって見せた。
「新入り!とりあえず射撃ってのはこうやるんだ!」
言われるまでもないというように要は腰の拳銃を素早く抜き放った。




