今日から僕は 35
島田がサラの隣に座って麦茶を飲み干した。サラが麦茶の入ったやかんに手を伸ばそうとするのをアイシャが制してやかんに手を伸ばす。
二人はパーラに目をやった。
パーラがどこか浮かない表情を浮かべているのが誠にもわかった。
カウラもそれを察して立ち上がると本棚や机を触り始めた。
「確かに、アイシャの部屋に似ているな」
カウラはそういうと一冊の同人誌を手に取った。アニパロの十八禁漫画、誠の額に汗が噴出す。
カウラは顔色を変えずに誠に目をやった後、静かにそれを本棚に戻した。
「誠ちゃん!そう言うのは分からない所に紛れ込ませなきゃ」
アイシャがニヤつきながらそう言って、擦り寄ってくる。
「アイシャ!」
パーラが手にしたコップを置くと叫んだ。
「パーラちゃんたら一度男にだまされたくらいで……それともあれ?嵯峨楓少佐と同じ百合趣味に走るつもり?」
サラは困った顔で隣の島田の膝を叩く。島田もアイシャを止めるべきか迷っているようにアイシャを見つめる。
「馬鹿なこと言うんじゃないわよ!あんたと組んでてそんなことしたら、どんな噂立てられるか、それに……」
誠はただ呆然と二人のやり取りを見ていた。パーラの目には涙があふれてきている。
「さっきのストレートのことだが」
ボールを持ったカウラが背中から声をかけてきたので、思わず誠はのけぞった。その視線の先で島田が安心したように麦茶を飲み干す。
「なんだ、ストレートですか?確かにコントロールが落ちてるのは認めますが」
まるっきりパーラとアイシャの険悪なやり取りを聞いていなかったカウラのおかげで部屋の窮地が救われたことに感謝しながら誠はそう言った。
「そうじゃない。リリースポイントをもう少し前に持っていったほうがいいんじゃないのか?私も春の実業団の予選で先発したが、明石中佐はひたすらリリースポイントを前に持って行けと助言してくれたから球が安定したぞ」
カウラは何度かボールを握って誠に見せる。
「そうですね、もう少し球持ちをよくしたほうがいいとは、以前から言われていたのですがどうにも難しくて……とりあえず今度やってみます」
野球談義で空気が変わったことを感謝するようにアイシャが誠に寄りかかってくる。
「さすがピッチャー同士、話が合いますなあ。そこでオタク同士の話ですが、原型が無いのね。机はすぐ絵が書ける状態なのに」
ユニフォーム姿のアイシャがまた誠にまとわり着いてくる。再び胸が背中に当たるのを感じて誠はパーラの方を向いた。彼女は島田に麦茶を注がせ、サラに団扇で顔を扇がせていた。
「ああ、さすがにフィギュア作りは無理かな?と思って。一応、原型製作のために作ったスケッチならありますよ」
誠はカウラの刺すような視線が機になってアイシャから離れて立ち上がった。アイシャはその腕をつかんで一緒に立ち上がる。
今度は左腕に柔らかなアイシャの感触を感じてカウラを見る。今度はカウラはボールを見つめて右手の上で転がしていた。自然と誠の目はその胸に行く。
夏季勤務服の薄い生地、そこには平原が広がっていた。
また、悲しいサガで、パーラの胸を見る。
明らかにカウラの平原とは違う盛り上がりが同じ夏季勤務服の下にあることがわかる。
しかし、パーラはすぐその視線に気づいてきつい視線を投げかけてきた。
誠は自己嫌悪に狩られながら作画用の机の引き出しを開けるとスケッチブックを取り出した。相変わらず左腕にアイシャがすがり付いている。
「あの、アイシャさん?いつまで引っ付いて……」
「そうね!これね!ちょっと見せてもらうわよ!」
パーラの汚いものを見るような視線にようやく気づいたのか、アイシャはようやく誠を解放するとうって変わった真剣な表情でスケッチブックを見始めた。




