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今日から僕は 23

 空調の効いた車内から袋を頭にかぶせられたまま誠は降ろされた。生ぬるい空気と耳に響く喧騒。東都の都心のどこかと言うことは推測ができた。跳ね返りの熱で全身から汗が噴出す。そんな誠に声をかける人はいない。

 初めて誠は恐怖と言うものを心の奥から感じた。

 彼等は自分を殺すのだろうか?さっきの口振りでは、すぐに殺すということはないはずだ。そう思う誠はとりあえず状況を確認しようとするが、布でさえぎられた視野のため足元の崩れかけた階段以外誠の目に入ってくるものはない。男達は誠を両脇で挟みつけたまま、時折小声でやり取りをしながら誠を小突きつつ階段を登った。

 男達の誠を前へ進めるために小突く動作が止まった。袋をかぶされて見えないが、建物のドアを空けようと言うらしい。

 開いたドアから冷気が漏れる。空調は効いているらしい。誠が後ろで扉が閉まるのを感じたところで袋が頭からはずされた。

 廃墟のようなビルだった。埃だらけのフロアー。階段の隣に割れたスナックの看板が残っているところから見てかつては雑居ビルだった廃墟に連れ込まれたことはわかった。

「お客さんだ。頼むぜ」 

 背広の男がおくに向かって怒鳴ると、腰に拳銃をつるした若いアロハシャツの男と紫のワイシャツに紺色のスラックスをはいた中年の男が手錠を持って部屋から現れた。

「しばらくここでじっとしていてくれよ」 

 初めに誠に拳銃を突きつけた男が、銃口を誠に向けたまま二人に誠を押さえさせる。男達はにやけた笑いを浮かべながら誠の両腕を後ろに回して手錠をかけて、階段に向けて誠を突き飛ばした。

「そのまま上がれよ」

 そう言われて誠はアロハの若い男に続いて階段を登る。

「なんでこんな野郎の世話しなきゃならないんすか?」 

 アロハの男はそう言いながら二階に上がったところで誠のふくらはぎを蹴飛ばした。

 誠はそのままバランスを崩すが、今度は髪の毛を紫のワイシャツの男に引っ張られて直立させられる。

 誠が古びた全面ガラスのかつてのスナックのドアの中を見ると、男達がテーブルの上に酒瓶を並べて談笑しているのが見えた。

「ちょろちょろ余所見するんじゃねえよ」 

 再びアロハの男が誠の襟元をつかむと三階に向かう階段に誠を引き立てていく。

 急に冷気が薄くなり、コンクリートの熱せられた香が誠の鼻をついた。

 人気の無い三階のフロアーを素通りして四階に向かう階段に引き立てられる誠。

 四階は事務所の後のようで廊下に連れ込まれた誠の前に三つの扉が目に入った。銃を突きつけている背広の男はそのまま一番奥のドアを開けて中に誠を蹴りこんだ。

 誠は静かに周りを見回した。

 小さな小窓から日差しが入っているところから見て、それほど時間がたっているわけではないことから東都近辺であることは分かった。遠くで車の走る音がすることが、少しばかり誠に安心感を与えた。じっと室内を見る。

 古びた壁のしみや、天井の壊れた電灯。東都生まれの誠には、こんなビルが並んでいる地区はいくつか心当たりがあった。

 かつてこの遼州星系では大きな戦いが幾つもあった。

 第三次遼州戦争、遼南内戦、大麗革命、胡州動乱、外惑星紛争。

 中立路線と抜きん出た経済力により彼の生まれた国『東和共和国』は、どの戦争にも直接参戦することはなかった。しかし何百万と言う難民が、この平和なことがとりえの東都にも押し寄せ、東和の沖の埋立地に住み着いてスラムのようなものを作った。

 そんな地区は東都生まれの彼でも踏み入れることが避けられた魔窟となり、シンジケート同士の衝突、誠の学生時代「東都戦争」と呼ばれたヤクザの抗争劇の舞台となった。

 たぶんそんな地区の一つに、今自分はいるんだ。誠はそう認識できる程度の心の余裕はあった。

「どうなるんだろうなあ?」 

 誠は不安を紛らわすために、自分で声を出してそう言った。

 保安隊の隊員の誘拐略取。それなりの武装をしている彼等は自分達で誠をどうこうするつもりは無いようだった。

 誠の誘拐を依頼した『クライアント』に誠の身を引き渡すまで護衛してくれるだろう。それまでは自分の命がなくなることない。

 それから先は……、誠は考えるのをやめた。その方が賢明だろうというくらいの理性は、まだ彼に残っていた。

 手錠が手首に食い込んで傷む。そんな彼を無視するかのように誠を看視している男の声が誠の耳にも届いていた。

 部屋に転がっている体を起こした。そして自分が誘拐される理由を考えてみた。

 保安隊への意趣返しの線はなかった。それならクライアントに依頼された彼等は誠を殺していることだろう。

 クライアントがテロリストや非合法の武装組織ならば東和の司法組織に身柄を拘束された同志の解放を求める為という線も無いではないが、同盟直属の隊員を交換のカードに使う意味が誠にはわからなかった。

 誠はそこまで考えてみたが結論は出ない。そのまま高い格子戸からさしてくる光を見ながら誠はとりあえず体を休めようと横になろうとした。


 突然ドアの前で大きな物音と、男のうめき声がした。そして銃声が二発。誠は身を起こしてじっとドアを見つめた。

 ドアを撃つ銃声がして、扉が蹴破られると、そこには要が拳銃を構えて立っていた。

「はあーい、囚われの王子様。円卓の騎士がお迎えにあがりましたぜ!」 

 笑顔を向ける要だが、誠には彼女の顔よりもその足元に頭を吹き飛ばされた死体が転がっている方に目が行った。

「んだ?アタシが助けたんだぜ、見るならアタシの顔でも見ろよ」 

 そう言うと要は誠の顎をつかんで顔を近づける。

「手錠か。ちょっと待てよ」 

 そう言うと要は素手で手錠の鎖をねじ切った。誠は彼女がサイボーグであることを改めて感じた。そんな中、下の方でアサルトライフルの一斉射と思われる射撃音と、それに反撃する拳銃の銃声が響いてきた。

「カウラの奴、いいタイミングで始めてくれたな。新入りちょっと待て」 

 要はそう言うとアロハシャツを着た死体のホルスターから拳銃を奪い取った。

「酷い銃だが無いよりましだ。お前も軍人なら、自分の身くらい自分で守れ。とりあえずアタシについて来い、カウラの奴と合流する」

 要はそう言い残して廊下に飛び出した。

 すぐに三下がここでの出来事に気づいたのか飛び出してくる度に、要は迷うことなくその顔面に二、三発の銃弾を正確に浴びせかけた。誠はその度にあがる血飛沫に次第に心が冷えていくことを感じていた。

「……俺、俺、俺……」 

 階段手前でサブマシンガンを持った敵の掃射で身動きが取れなくなったところで、誠は恐怖のあまり自然にそう呟いていた。

「そんなに怖えか?ならウチなんざ辞めちまえ!」 

 拳銃のマガジンを換えながら、吐き捨てるように要は呟いた。

 我を取り戻して誠が要を見つめると、そこにはこれまでと違う、どこか寂しげな表情を浮かべた要の姿があった。



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