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今日から僕は 19

 シャムは嬉しそうにリアナからもらった一口を食べるとそのままビールを飲み始めた。

「ったく卑怯者め。いざとなったらお姉さんを頼りやがって……そうだ、新入り!注いでやったからこれ飲めよ」 

 要がいつの間にか掠め取っていた誠のグラスにビールを注いだものを差し出した。

「すみません。気がつかなくて……」

 頭を下げながら焼けた豚玉にタレを塗り青海苔と鰹節を散らす。

 要はそんな誠を見つめながら満面の笑みで誠を見つめていた。 

「良いってことよ!今日はお前が主賓なんだから……ほらぐっとやれ!ぐっと!」 

 誠の酔った舌ではその液体の異変は気づくことも出来ず、ビールらしきものは誠の胃袋の中に納まった。

 そこへ遅れてきたシンが書類ケースを抱えたまま座敷に入ってくる。シンは手前のテーブルでアイシャに愚痴を言いながら泣きはじめているパーラに絡まれないように部屋の端を歩きながら嵯峨や誠のいる上座までやってきた。

「相変わらず修羅場ですねえ。そうだ隊長!印鑑持ってますか?いくつか決済が必要な書類があるもので……」 

 そう言うとシンは書類ケースの開けて書類の束を取り出した。

「今じゃなきゃだめなの?」 

 春子の笑いを取っていた嵯峨がめんどくさそうにシンを見つめる。

「昔の人も言ってますよ。今日できることは明日にのばすなと。持ってるんなら三枚ほど書類に印鑑押してもらいたいんで……シャム!邪魔だからちょっとどいてくれ」

 先ほどの豚玉のお礼にとリアナにビールを次に来ていたシャムに声をかける。

「シン君は本当にまじめね。でもせっかくのこう言う機会に仕事の話は無しにしましょうよ」

 そう言いながらリアナは仕事の話を始めた二人に呆れたような視線を送るが、まじめなシンはそれを無視してそれぞれの書類を纏めて印を押す場所を指差した。

「はいこれでおいしくなるよ!」

 シャムはそう言いながらリアナのお好み焼きを叩き始めた。 

「シャムどいとけよ。主計大尉殿を怒らせると次のボーナスどうなるかわらんぞ?」

 吉田が茶々を入れたのを合図にシャムはそのまま名残惜しそうにリアナを見つめると、彼女からもらったたこ焼きを持って自分の席に戻った。

「それと隊長ちょっと良いですか……」 

 書類を渡しながらシンはそういうと一言二言耳打ちをした。

 誠はそんな様子を見ながら、次第に周りの世界が回りはじめるのを感じていた。ゆがんだ誠の視界の中でも時折シンから目を反らして嵯峨が複雑な表情を浮かべながら自分を見ているのが分かった。

 そして要から受け取ったビールのようなものを飲み干すと、はじかれたように誠は立ち上がった。

 回る世界。焼けるような喉。誠の意識はまったく朦朧として、自分でも何をしているのか、なぜここにいるのかわからなくなる。

 そして中で何かがはじけた。

「一番!神前誠!脱ぎます!」 

 手を上げて宣言する誠を座敷にいる全員が注目した。

「脱げー!早く脱げー!」 

 下座で様子を伺っていたアイシャが叫んだ。

 要も待っていましたとばかりに口笛を吹いてあおってみせる。

「西園寺!貴様、さっきのビールに何か細工したな?」

 リアナは誠を座らせようと立ち上がりながら要をにらんだ。 

「そんなこともあったっけなあー。それより新入りが脱ぐって言ってるんだ。上司として関心あるんじゃないの?」 

 ラム酒を口に含みながら満足げに要はカウラを振りほどこうとする誠を眺めていた。

「何を馬鹿なことを。やめろ!シン大尉。あなたからも言ってください!」 

 カウラは懇願するように淡々と書類を確認しているシンに向って言った。

「馬鹿だなあ、こういう時は……」 

 そう言うとシンは立ち上がって誠のそばまで行った。そして誠が何かを言おうとするまもなく鳩尾に一撃をかました。ズボンに手をかけようとしていたそのまま誠は意識を失っていくのが自分でも分かった。

 カウラとアイシャの叫び声が彼の消え行く意識の中に響いていた。



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