今日から僕は 163
菱川の掘削機の鉱山用ドリルを積んだ大型トレーラーにくっ付いて、東和帰還後の休暇を終えた誠は、最近買った中古のスクーターで本部に急いだ。下士官寮からの出勤に一番適していると寮でもスクーターの使用者は多い。
いつものように保安隊の通用口、警備員が直立不動の姿勢でマリアの説教を受けていた。
「おはようございます!」
誠の挨拶にマリアが振り向く。警備部員はようやく彼女から解放されて一息ついた。
「昇進ですか?」
佐官用の勤務服姿のマリアを見て誠はそう言った。マリアは何か話しかけようとして止めた。
普段ならこんな事をする人じゃない。誠は不思議に思いながらそのまま開いた通用口の中に入った。
広がるトウモロコシ畑は、もう既に取入れを終えていた。誠はその間を抜け、本部に向かって走った。駐輪場に並んだ安物のスクーター群の中に自分のスクーターを止めた。
なぜかつなぎ姿の島田が眼の下に隈を作りながら歩いてくる。
「おはようさん!徹夜も三日目になると逆に気持ちいいのな」
そう言うと誠のスクーターをじろじろと覗き込む島田。
「大変ですね」
「誰のせいだと思ってるんだ?上腕部、腰部のアクチュエーター潰しやがって。もう少しスマートな操縦できんのか?」
そう言いながら島田がわざとらしく階級章をなで始める。
「それって准尉の階級章じゃないですか?ご出世おめでとうございます!」
「まあな。それより早く詰め所に行かんでいいのか?西園寺さんにどやされるぞ」
要の名前を聞いて、あわただしく走り始める誠。
技術部員がハンガーの前で草野球をしているのに声をかける。
何か変だ。
誠がそう気づいたのは、彼らが誠を見るなり同情するような顔で、お互いささやきあっているからだった。
しかし、そんな事は誠にはどうでもよかった。誠をぶっ叩くことに快感を見出し始めた要に見つかったらことである。階段を駆け上がり管理部の前に出る。
予想していた菰田一派の襲撃の代わりに要とアイシャが雑談をしていた。
アイシャの勤務服が佐官のそれであり、要が大尉の階級章をつけているのがすぐに分かった。
「おはようございます!」
元気に明るく。
そう心がけて二人に挨拶する誠。
「よう、神前ってまだ見てないのか?」
「駄目よ要ちゃん!」
そう言うとアイシャは要に耳打ちする。
「アイシャさんは少佐で、要さんは大尉ですか。おめでとうございます!」
「まあな。アタシの場合は降格取り消しだけどな」
不機嫌にそう言うと要はタバコを取り出して、喫煙所のほうに向かった。
「そうだ、誠ちゃん。隊長が用があるから隊長室まで来いって」
アイシャも少しギクシャクとそう言うと足早にその場を去る。
周りを見回すと、ガラス張りの管理部の経理班の班長席でニヤニヤ笑っている菰田と目が合った。
何も分からないまま誠は誰も居ない廊下を更衣室へと向かった。




