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今日から僕は 16

「テメエそれどこで……」 

 怒髪天を突く形相の要をよそに、シャムは別に慌てる様子でもなく笑みを浮かべながら後ろでニヤニヤしているアイシャを指差した。

「アイシャ!テメエ、さっきの台詞は全部嘘かよ!それとシャム、前にも同じようなことやった時に次はねえって言ったよな……」

 さすがにサイボーグの力で白いフリルのついたワンピースの襟元を締め付けられるのは苦しいようで、シャムは浮き上がっている足をばたばたさせて抵抗し始めた。 

「だめじゃない!要ちゃん!シャムちゃん虐めちゃ!」 

 シャムのばたばたさせる足が目に付いたと言うように階段の方から淡い藤色の和服姿に白い髪をなびかせるリアナが現れた。彼女の登場は要には予想外のことだったようで、思わず手を緩めたところをシャムは上手くすり抜けた。そしてそのままリアナの膝元にまとわり着いて嘘泣きを始める。

「よしよし、いい子だから泣いちゃだめよ……そうだ!私が一曲……」

 そう言って部屋に踏み出そうと言うリアナの袖を引くものがいた。 

「はい歌わなくて良いからねーって、いつもこんな役回りばかりで疲れるわ。カウラ。もう少し隊長として自覚もって行動してもらわないと……それと隊長。つまらないディスク配ってまわって面白がる趣味は感心しませんよ」 

 続いて入ってきた淡い水色のワイシャツに紺の隊とスカート姿の明華が嵯峨をにらみつける。嵯峨は悪びれる様子もなく、にぎやかな彼の部下達の豊かな表情に満足そうに笑顔を浮かべるお春が注ぐ酒に淡々と杯を重ねていた。明華はそれを見るとあきらめた調子で後ろについてきた明石と一緒に嵯峨の隣の鉄板をさもそれが当然であるかのように占拠した。

 明石は天井に届きそうな頭をゆっくりと下げながら部屋に入り込んだ。全員がその原色系の紫のスーツに黒いワイシャツ、そして赤いネクタイと言う趣味の悪い姿に呆れながら、嵯峨のテーブルに着いた明華の隣に座る姿を見つめていた。

「さっきから気になってたんですけど……」 

 誠は初めて自分が話を出来るタイミングを見つけて口を開いた。

「何でシャム中尉はネコ耳をつけてるんですか?」 

 シャムが不思議そうに誠を見ている。そう言われて自分の頭のネコミミを触ってにっこりと笑うシャム。しかし、誰一人その事に突っ込む事は無い。

「それが仕様だ」 

 誠は突然、窓の方から声が聞こえたのでびっくりしてそちらを見ると、開いた窓から吉田が入り込もうとしていた。特に誠以外は彼に突っ込みを入れる事も無く、あたかもそれが普通のことだと言うように目を反らしているのを見ながら吉田はそのまま靴を部屋の中に置いて入り込んだ。

「おまえなあ、ちゃんと入り口があるんだからたまにはそちらを使えよ」

 窓枠をきしませている吉田に嵯峨があきれたようにそう言った。吉田は誠が初めて会った時のドレッドヘアーでは無く、短い髪の毛を整髪料で立たせた髪型に、だぼだぼの黄色と黒のタンクトップにジーンズと言う姿でそのまま部屋に入り込む。

「やはり新入りに慣れてもらうためにもここはいつも通りのやり方をですねえ」

 嵯峨の言葉に返すのはとぼけた調子の言葉だった。

「あのなあワレのいつも通りはおかしいってことじゃ」 

 明華の隣に座って手ぬぐいで顔を拭いていた明石が呆れたように吉田に目を向けた。吉田は靴をシャムに手渡すと下座の鉄板の前に座った。シャムは靴を手に下の下駄箱へと駆けていった。

「お前だってガチホモとして変態であるところをだな……」 

 にんまりと笑う吉田。明石は階段から座敷を覗いているアイシャとサラの視線を見つけると、振り返って殺気のこもった視線を吉田に投げた。

「ワシはホモじゃない!」

 明石の言葉に何も答えず頷く吉田。その真似をしてネコミミモードのシャムも頷いている。

「漫才はそれくらいにして、カウラさん以外はビールで良いかしら?」 

 お春さんは嵯峨のお酌を止めて立ち上がると、淡々と客をさばく女将の姿に変わっていた。

「女将さんアタシはマイヤーズで!」 

 誠の前の席で手を上げた要がそう叫ぶ。そんな要を誠の隣に座ったカウラは特に気にするわけでもなく鉄板の上に手を翳しては、時折誠の顔を覗き込んでいた。

「はい、はい。小夏!ちょっと手伝って頂戴」 

 そう言うとお春は階段を駆け上って吉田の隣に座った後、ネコミミを直しているシャムの後ろを抜けて階段のほうに歩みを進めた。



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